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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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戻れない日々 1

細い女の姿に戻ったトードリリーが膝から崩れて、ゆっくりと前に倒れて行く。

その腹部の木剣にセレーマを注いでいたユウキは引き摺られる様に前かがみになり、倒れて来た女が恋人同士の秘め事の様にユウキの肩に凭れ掛かった。


「終わった・・・のかな?」


力を失くした姿を間近に感じて、ユウキは吐息と共に強張った身体から力を抜いた。




ゴーザも残心を解いて歩き出そうとしたが、突如大量の血を吐いて膝を着く。

奥義 木霊(こだま)の太刀は研ぎ澄ました精神と限界を超えた身体能力を必要とした。

さすがのゴーザといえども、傷ついた身体で2撃も放てばその代償は軽くはなかった。


「あなた!」


エリスが駆け寄って背中に手を添える。


「本当に無茶ばかりして。」


目に涙を滲ませながらぎこちなく微笑む。


「ここで無茶をせんで、いつすると言うんじゃ。」


「分かっていますけど、次は無茶をしないで済ませてください。」


「お前も無茶を言ってくれる。」


「出来そうもない事は言いませんよ。それに・・・こんなにハラハラさせられたら私の心臓が持ちませんから。」


「ふっ、そのドラゴン並みの心臓がそう簡単に止まる訳があるまい。たぶん鱗で覆われているぞ。」


「あなたと言う人は・・・。散々人に心配させておいてそんな事しか言えないの?」


「むっ、まぁ・・・その・・・すまなかったな。心配をかけた。」


「はい、心配させられました。でも信じていますから、ちゃんと私の所に帰ってきて下さいね。」


「善処はする。」


「約束ですよ。そしていつか・・・いつか心配のしすぎで私が死んでしまったら、私が胸の()に秘めていたものにちゃんと気づいて下さいね。(私はそんなに強くはないんですから。)」


エリスが少しさびしそうに呟くと少し怒ったゴーザがエリスの手を握る。


「エリスよ・・・いくら儂でもそこまでして妻の胸の()に『鱗の生えた心臓』があるかどうかを知りたい訳じゃないぞ!ましてや人体の解剖は許される事ではない。」


何を言っているのか理解でいないでいたエリスだったが、しばらくすると柳眉を逆立てて怒り始めた。

すると今度はゴーザの方が何を怒っているのか理解できず、『訳が解らん』と告げて更に怒ったエリスにポカポカと叩かれた。


いつも通りの夫、いつも通りのやり取り・・・エリスはやっといつもの通りの日々が戻ってきたような気がしていた。




◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆




トードリリーを払い退けようとして右手で胸を押し・・・押そうとしたが柔らかい膨らみに触ってしまったので、慌てて脇に腕を差し入れた。

この期に及んで多少頭をぶつけたとしても文句は言われないだろうが、それでも睦言(むつごと)を交わす様にしっかりと抱きかかえて丁寧に横たえる。


―――死した者には、人であれ魔物であれ敬意をもって扱え―――


ゴーザから教えられた戦う者の作法であり、思想だ。

例え生前の関係がどの様なものであっても、一方が死んだ瞬間に全ての恩讐(おんしゅう)は冥界へと移りゆく。

残されたものは何の(しがらみ)も持たない遺物や状況であり、そうであれば敬意を持って接するのに何の差し障りがある筈もない。

そして、自分や仲間が敵対した者は既にいないのだから、気持ちを切り替えて前に進めと続けられる。

街で暮らす者達の中にはこれを功利的だと蔑む者もいる。

だが常に死と密接に絡み、それを乗り越えて進み続けなければ自分が死ぬ事になる探索者にとっては必要な考え方だった。



トードリリーの死体―――厳密には残された顕現体は死体ではないのだが―――を横たえた所にテトテトとリューイが近づいてきた。


「お兄ちゃん。」


「リューイ、無事でよかった。」


「うん、助けに来てくれてありがと。とっても嬉しかったの。」


「そっか、リューイも頑張って偉かったね。」


華が咲く様なリューイの笑顔。

これを見られただけで今までの苦労が全て報われた気がした。


「ねえ、お兄ちゃん。」


「なに?」


「あのね・・・手を繋いでもいい?」


もちろんユウキに断る理由はなく、手を差し出すと両手でつかんで嬉しそうに笑っていた。




しかし、この長い一日はまだ終わらなかった。


ユウキ達が嬉しそうに歩き出した背後で、完全に活動を止めていた顕現体が息を吹き返そうとしていた。



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