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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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転神

炎を纏う(まとう)トードリリーから8頭の大蛇が放たれると、網の様に広がってユウキに襲い掛かって行った。


木剣が無事であったならば水流で包囲の一角を崩す事ができたかもしれないし、あるいは風を吹き出すベルトの魔導具があれば炎の大蛇を振り切って躱す事ができたかもしれない。

だが、それは失われた可能性の話。

今のユウキには迎え撃つ武器も逃げる方法も残ってはいなかった。


この様な状況では希望を失くしても不思議ではないと言うのに、ユウキは炎が放たれた直後には臆することなく走っていた。



前へ



炎の蛇は8方に離れ、目の前のトードリリーとの間に遮るものはないのだ。

倒さなければならない敵が目の前にいるのに迷う余地など何処にもなかった。


引き摺る水切りが床に線を引き、耳障りな音が響き渡る。

炎に囲まれた通路は赤く照らされて夕焼けの様だ。


しかし半分も進む前に広がった炎は向きを変え、大蛇の顎が小さな身体に牙を突き立てた。

この大蛇達も物理的な破壊の力は持たないので噛み付かれても肉が千切れたり血が噴き出したりはしないのだが、噛まれた痛みや焼かれる熱は実際以上の大きさでユウキには感じられた。


しかも(あぎと)から侵入した炎は身体の中を駆け上がって行く。

目指すは精神の中枢部。

だが辿り着いた先は漆黒の闇。

(よこしま)な炎は焼くべきものが何も無い虚空へと消えていく。

そして重ね掛けした周転法で身体を覆えばユウキを捉えた炎は跡形もなく霧散して消え、ユウキを阻むものは何もなくなった。


「うぉーーーーー!」


子供特有の甲高い叫びを上げて残りの距離を詰めると、薄絹を纏った肢体を逆袈裟に斬り上げた。

タルタロスサーキットを使う時、ユウキの斬撃には子供とは思えない強さがある。

振り抜いた直後には刀の重さと速さに引かれて小さな身体が左上に軽く浮き上がってしまう程だ。

しかし浮き上がる間に身体をひねり、落下に転じた時にはもう一度踏み込んで今度は右上から斬り下ろし。


ギギギッと鳴りながら刀が床を斬り進むが、それを力任せに振り切って慣性に引かれるままに距離を取る。



「本当に鬱陶しい子供ね。」



振り返ればXに斬られたトードリリーが嗤っていた。

それは今までの柔らかな笑顔ではなく獰猛な肉食獣(イーガ)のそれだった。



「僕にはあなたの炎は効きません。あなたがどんなことをしても諦める事も絶望する事もありません。あなたは死なないのかもしれませんが、それならその姿がとれなくなるまで斬り続けます。」


ゴーザなら同じことを言ったであろう。

そして戦いながら戦略を練り、相手を倒す方法を見つけてみせるという覚悟の言葉であった事だろう。


だがユウキにとっては果てしない消耗戦への決意に他ならない。

治癒の魔道具クルヴィ・リュクノスがあれば怪我も疲労も気にする事なく動き続ける事ができる。

マルチロジックサーキットを切り替えてゆけば、質を落とす事なくセレーマを注ぎ続ける事ができる。

そして、タルタロスサーキットがあれば絶望する事も心が擦り減って諦める事もない。


だがそれは決め手を持たないユウキに出来る精一杯の強がりだった。



「はん!私の神威は精神に働きかけるものばかり。確かに相性は悪いみたいね。だけど、これならどうかしら。」



斬り裂いた傷は、顕現体の一部だった服も含めて直ぐに元通りになった。

しかし変化はそれだけで終わらない。


華奢な身体が筋肉に覆われて厚みを増し、体表は黒く固い鱗に変わってゆく。


ビタンッ!


背後から伸びた尾が床を叩く。


美しかった顔は口が裂けて凶暴な爬虫類の物へと生り変わって(なりかわって)ゆく。


そしてこれも暴力的な物に変わった拳で床を打つと、巨大な戦鎚で打ち付けた氷の様に大理石が砕けて飛び散った。


「ふむ。こんな所ね。」


低く唸る声が人とは違う口から洩れ聞こえた。



「姿を変えただと!馬鹿な・・・あり得ない!?」



意外な事にこの様子を見て驚愕したのは静観していたアストレアだった。

急に声を張り上げたアストレアの頬からごっそりと大理石が削げ落ちたが、それに気付いてさえいない。


「アストレア、お前達の常識ではそうなのだろうな。だが、生憎と私は下賤な人間(スキンティーラ)からの成り上がりなので、そんなものに縛られる必要はない。」


「自分がどう思っているかなどと言う問題ではない。我々は人間(スキンティーラ)信仰(定義)によって存在するのだぞ。それを切り離しては存在が成り立つ訳がない!」


「ふふふ。確かにそれを変える事は出来ないな。だがな、今の私を支えているのは私の配下の想念なのだよ。配下の想念を変えさせてしまえば、この通り姿など思いのままさ。そうだ!私がエフィメートになり変わった暁にはお前の姿も変えてあげようか?そうだカエルとかいいと思わないか。」


カエルとなった自分を想像してアストレアは絶望に打ちひしがれた。

何より、この女神(おんな)ならやりかねない怖さがあった。


(もう躊躇っている場合ではない。直ぐに此奴(こやつ)の神力を奪わなければ、我には消滅するよりおぞましい運命が待ち構えている。)


直ぐに天秤を破壊して8つの都市を滅ぼそうとしたのだが、意に反して自分の身体が動かない。

この不自由な顕現体だけではない。

神界にある自分の本体が神威を起こす事ができなくなっていた。


(な、何が起こっている!?)


「お前の神威は神学者の間では有名だったからな。裁定者アストレア。神罰など起こさせはしないよ。」


アストレアの顔が絶望に歪んだ。

もはや自分の運命が眼下の下賤な成り上がり者の手の中にある事を認めない訳にはいかなかった。




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