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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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世界の危機

「やっと・・・やっと見つけたわ。小さな光の子。」


いつの間にか薄絹を纏った女神がリューイの前に立ち塞がっていた。


今まで見せていた弱者を嬲る(なぶる)素振りは影を潜め、はぐれた愛し子に出会えた母親の様に慈愛に満ち溢れた眼差しで手を差し伸べる。


「貴女はどなたなのかしら。」


しかしその手は―――振り払われはしなかったが―――リューイを背後に移したエリスによって遮られた。


ところが


「ああ、貴女はどんな秘密を持っているのかしら。あなたを手に入れたらどんな世界が見えるのかしら。楽しみで気持ちが抑えられないわ。」


あたかも目の前のエリスなど存在していないかのように、問い掛けも行動も全て無視して自分の想いに酔いしれていた。

自分を抱く様に腕を身体に巻き着けると悶えながら身をよじって行くトードリリー。


「「「「「「「「  ああ~~~~~~ 」」」」」


彼女が歓喜の吐息に似た悦びを漏らすと聖堂の外からは大勢の人々が苦悶の声を重ね合わせてゆく。

徐々に高まる声。

窓の外は夕暮れの茜に染まると言うのに赤黒い光は真昼を越える強さを得て辺りを照らしていた。


「ああ、気持ちいイイ。身体の中から溢れてくる。」


今にも歓喜の絶頂を迎えるかの如く、上ずった声を上げて頬を染める。

余りの痴態に孫の教育を考慮したエリスがリューイの目を塞いだ程だ。

だがこんな対応が取れるのもエリスの尋常ならざる精神―――鈍いのか図太いのかは判らないが―――があるからこそできる事だった。

何故なら、文字通り溢れ出たエネルギーは炎の大蛇へと姿を変え、擡げた(もたげた)鎌首が自分達に狙いを着けていたのだから。


「さあ、貴女の全てを見せて頂戴。あなたの記憶も才能も運命も全て。全てを私に開け広げて、そして全てを私に捧げるのよ。」


吹き上がる炎が更に勢いを増した。




『止めなさい!』


聖堂の中に声が響くと上気したトードリリーの顔が僅かに歪む。


『仮にも神の末席に身を置く者として、スキンティーラ(火花・人)の様な痴態を演じるなど恥ずかしいとは思わないのですか。』


その声は怒りと威厳に満ちて世界を震わせるかと思われた。


ピシッ


幽かな軋みを挙げて柱上の像の一つ、守護12神が一柱、調和のアストレイアの像が破片を撒き散らしながらゆっくりと顔を向け様としていた。


「ご機嫌麗しゅうございます、アストレイア様。」


形だけ笑顔を浮かべたトードリリーが王侯貴族に対する様に慇懃に礼をする。

自分が揶揄した事を逆に皮肉られたと気付いたのだろう、アストレイアの石の顔が険しく歪むとひび割れた表面から欠片が落ちた。

だがそれ以上の怒りは表されないまま、両者は静かに睨み合った。


静寂を破ったのはアストレイア。

最初の怒りと威厳に満ちた声は影を潜め、むしろ子供に諭す様に優しく語りかける。


『これ以上この地の者に負荷を掛けるのを止めるのです。我ら神族は人を守護し導く存在。多くの者を害したならばその報いは己が身に返る事になります。エフィメート様も殊の外この事態を悲しまれています。泡沫たるそなたでは分からなかったのでしょうから此度は我も取り成しましょう。直ぐに神威を解いて神界に戻るのです。』


「崇高なるアストレイア様に取り成してもらえるなど身に余る光栄。ですが恐れ多すぎて手足は震え目は霞み、神威を解くどころか間違えて大惨事をもたらしてしまいかねません。私はしばらく心を沈めて後に神威を解いて向かいたいと思いますのでアストレイア様に於かれましては先に神界へお戻りくださいます様お願いします。」


罪に問わないから直ぐに止めろと言うアストレイアに対して邪魔だから一人で帰れと言うトードリリー。

普段であれば遙か格上のアストレイアに対してケンカを売っている様なものだった。


『いやいや、未熟なそなたでは落ち着いたとしても心許ない。良い機会だから我が手解きをして進ぜようぞ。』

「それには及びません。アストレイア様といえども権能の異なる神威とあっては手間取る事にもなりましょう。そのようなことで御身に在らぬ風聞が広まっては御身を頼りにされるエフメート様に対する不忠というものです。ここは下賤な事は下々に任されて上位世界に戻られる様、不義の誹りを受ける覚悟を持って箴言致します。」

のらりくらりと言い訳をするトードリリーにアストレイアの温厚な仮面も長続きはしなかった。

石像の柳眉を逆立てると広がる亀裂からパラパラと破片が舞う。


『ええい、腹立たしい。そなたの行いは迷惑だと言っているのだ。疾く神界に帰りエフィメート様に許しを請うのだ。』

「アストレイア様」

『何だ。』

「貴女様は何故にそのように不自由な物に宿ってまで私の前に現れたのですか?」

『関係のない事で誤魔化す出ない。』

「しっかりとした顕現体を準備する間も惜しみ、何故このタイミングで私を止めに来たのですか?私に神威を使われると困る方がいるのでしょうか?」

『その通りだ。多くの神々が被害を受け、ひいてはエフィメート様にご迷惑を掛ける事になるのだ。分かったら我の指示に従うがよい』

「表情が変わって亀裂が広がりましたよ。正直に言ったらどうです?被害を受けるのは自分だと。調和のアストレイア。バランスの象徴。世界の調和が崩れる時、貴女は運命を共にする事になる。あなたがここに現れたということは私の神威が世界の調和を崩す可能性がある事。現在の世界の状態を覆せるだけの力を得たということに他ならない。つまり・・・」


「「「「ギャー―――――」」」」


カウカソスの街中で悲鳴が上がると幾つもの火球が討ちあがり上空で一つになる。

幾千幾万の火球が集まって太陽が降りて来たかと見紛う大火球が赤黒く街を照らし出した。


「つまり、私のやっている事は間違っていないということだ。さあ、私の覇道を見るがいい。」


大火球が7つに分かれて各々の方向へ飛び去って行く。

その先にあるのは別の都市。

早馬で駆け通しても1日以上の距離を僅か数瞬で飛び越えるとその上空で爆ぜて無数の火箭となって降り注ぐ。

家も壁もすり抜ける神威の炎は過たずその地の人々を捉え、全ての人間を支配した。


この瞬間、アストレイアの持つ天秤で第5層が大きく傾き砕け散った。


『ぐっ!』


苦しそうな声を上げるアストレイア。


「これを続ければ私の力は爆発的に増やす事ができる。他の神々を圧倒する事も夢ではないだろう。だが、それ以上の可能性がここにある。守護12神どころではない。更にその上を・・・頂点を狙える可能性があるのだ。」


今や8つの都市を支配下に置いたトードリリーの神威はアストレイアに迫るまでに高まり、炎の大蛇は八つ頭の大怪蛇へと変貌していた。


勝ち誇る様にアストレイアを見上げていたトードリリーがクルリと向き直ってリューイとエリスに正対する。

背後の八つの蛇頭もそれに倣う。


「待たせたわね。さあ、新しい世界の幕を開けましょう。」


上級神へと昇格した女神が柔らかに微笑んだ。



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