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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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強さと弱さ

胸に体幹の1/3程の穴が空いたと言うのにトードリリーには些か(いささか)も焦る様子はなかった。

それどころかクルリと振り向くと剣を構えるアスミに微笑みさえしている。

その余裕も当然の事、振り向いた時には大きく開いた胸の穴が半ばまで塞がろうとしていたのだから。

トードリリーにとってはこの程度の事は敵意を向ける理由になり得なかったのだ。

穴の開いた服からは白い双丘が覗いていたが、それも彼女の自尊心を貶める事にはならなかったのだろう、むしろ見せつける様に姿勢を正した胸がプルンと揺れた。


予想外の反応に距離を置いたアスミが僅かに眉をひそめていた。

この程度で倒せると考えていたわけではないが、まさか微笑まれるとは思ってもみなかったのだ。


「あら、何か気に入らない事があるみたいね。」

「攻撃を仕掛けて来た相手にずい分と寛容なので何を企んでいるのかと。」

「企むだなんてとんでもない。あなたは手に蝶が舞い降りたからと言って憎んだりしないでしょう?」

「あながち否定できないのが悲しいですね。」

「仕方がないと思うわよ。所詮神と人は存在する位階が異なるのですもの。」

「そうだとしてもここは人の世界です。神々であっても制約も無しに神威(ちから)を振るえる訳ではないのでしょう?ならば私にも笑顔を消すくらいの事はできる筈です。」


最後の一言を言い終えるのも惜しんで一気に踏み込むと何度も何度も刺突を繰り返した。

腕を、足を、腹を・・・容赦なく刺しては剣の能力で引き裂いてゆく。

たおやかな手足は千切れ、細い身体はほとんど分断されて上半身と下半身が繋がっているとは言い辛い状態となる。

あまつさえ眼に滑り込んだ剣先は文字通り頭を吹き飛ばしてさえいるのだが、その状態になってもトードリリーの身体は瞬く間に修復されてゆき、原型をとどめない服以外には何かがあったとは推し量る術もない。


(思っていたよりも厄介ですね。)


この事態でもアスミは冷静に状況を分析していた。

その生い立ち故に、アスミは感情の起伏が著しく(いちじるしく)乏しい人間だった。大きな不安も、凍りつくような恐怖も、扱い切れない悲しみも、身を焦がす程の欲望も、そして全てを洗い流す様な喜びもアスミの心にはさざ波程にしか感じる事ができなかった。

もっとも、そのおかげで聖堂にいた人達が次々と炎に囚われて行く中に在っても一人心を乱す事がなかったのだ。

とは言え相手の再生能力はあまりにも理不尽でとても太刀打ちできるものではなかった。


(これは一旦退いて情報を持ち帰る方が賢明ですね。扉や窓は囲まれていて出られないとすれば、バルコニーに登るしかないのですが、問題は・・・)


視線の先には抱き合う老女と幼女。

エリスとリューイは怯えた様子こそないものの、聖堂の片隅に移動して事の推移を静かに見守っていた。


(私一人であれば聖堂の屋根から教会の建物に侵入する事もできますがあの二人にそれを期待するのは酷と言うものでしょうね。)


しかし二人を見捨てる気がない以上アスミに選択肢はない。


「時間を稼ぎます。その間に上に逃げてください。」


二人に指示を出しながらも攻撃の手を緩めることはなく、逆に速度が上がって魔導兵器(マギア・ケイタ)の奏でる音色が一つながりになって響き渡る。

しかしトードリリーの身体は跡形もなく消し飛んでも次々と再生してゆくので攻撃の手を休める(いとま)はない。


高速過多、しかもこれほど長い時間に渡って魔導兵器(マギア・ケイタ)を発動し続けるのはアスミにとっても並大抵のことではないのだが、悲鳴を上げ始めた手足を押して、あるいは途切れそうになる集中力をかき集めて攻撃し続けた。


だがアスミの努力をあざ笑うかの様に『大きな炎が渦を巻いた』ただそれだけで傷一つないトードリリーが姿を現した。


―――ああ、鬱陶しいわ。―――



炎に炙られて距離を取ったアスミの目の前で、僅かに身体を覆っていた端布(はぎれ)を払い落した彫像の様に完成された裸身が露わになる。


「やっと思い出したわ。あなたが“シルバードール”ね。」


それは、直接言われる事はないがアスミの綽名だ。


「配下にした人の中にあなたの事をすごく気にしている方がいるのよ。何という方だったかしら。確かダルダールとかダラダーラとか言う名前だったと思うけど・・・」


アスミの心当たりには似たような名前もそんな名前で呼ばれそうな性格の人物も一人しかいない。


「その方はね、あなたの事が“面倒くさい”と思っていたわよ。」

「う、嘘をつかないで!ダンダールさんはそんな事は言わない。」

「嘘なんかじゃないわ。何やかんやと絡んでくるからすごくジャマだと思っていたわよ。」

「そんな・・・そんな筈はない。ダンダールさんは怠け者でだらしがないけど陰でそんな事を言うような人じゃないわ。」

「ならあなたに見せていた姿は“優しさ”だったのではなくて・・・あなたが余りにも哀れだったから。」


「そんな事がある筈はない!あの人を知りもしない癖にあの人を推し量るな!」


アスミの強固な(・・・)意思はトードリリーの言葉をに乱されることなく見事に跳ね除けてみせた。


だが、この女神に対峙するときにそれは既に悪手なのだ。

強い意志、固い決意の陰には押しやった弱さがある。

その意思や決意が強ければ強いほど弱さは密度を増して燃え上がる。

最初は小指の先くらいの小さな炎が胸の真ん中に灯ると、瞬く間に一抱えにもなってアスミの視界を覆い尽くした。


「ああっ!」


小さな呟きは誰にも聞かれることなく炎の中に消えて行った。



階段を登りかけていたエリスとリューイの行く手を巻き起こった炎が遮った。


「やっと・・・やっと見つけたわ。小さな光の子。」


いつの間にか薄絹を纏った女神がリューイの前に立ち塞がった。






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