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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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炎の呪縛に抗って

アグリオスの剣とゴーザの水切りがぶつかり合い、薄暮の中に火花が散る。


神族に挑むには斬る事に特化した水切りよりも苦水の方が有利、だが意識が混濁した時にセレーマが途切れたので“苦水”は鞘に戻ってしまっていた。

秘刀故の安全装置でセレーマの供給が途切れると自動的に鞘に戻り、もう一度太刀に変えるには鍔と柄頭に別々のセレーマを注がなければならない。

二人の人間が同時にセレーマを注がなければならないがフェンネルであれば苦も無い事、しかし炎の呪縛はそれを許さない程精神を侵食していた。


「邪魔をするな!」


アグリオスの恫喝が聞こえると、それに『従え』という想いが湧き出した。

固まりかける身体に鞭打ち、向かって来る斬撃を全力で撥ね上げるゴーザ。

最初の頃の優位は影も形もなくなっていた。


その事はこれまでの打ち合いを通してアグリオスも確信していた。

今は防がれたが、ゴーザには自分に対抗できるだけの力は残っていない。

まだ余裕のあるアグリオスに対して、ゴーザは隙を隠せない程追い詰められている。

ほくそ笑み、そこに剣を振り降ろそうとしたアグリオスだったが、ゴーザの陰から現れたユウキが剣を振り降ろしたのを見て顔を引き()らせた。

紅い水流がしなる様にアグリオスの頭上から迫る。

咄嗟にアルマ・ダーロスで跳ぶことができたが、さもなければ逃れる事はできない程完璧なタイミングだった。

舌打ちしながら一番近くにいたアラドーネの炎から姿を現したが、そこで目にしたのは完全にこちらを迎え撃つ体勢を整えたゴーザと再び剣を振り抜いたユウキ、そして迫る水流。

もう一度アルマ・ダーロスで跳んで難を逃れるしかなかった。


「くっ、糞共が!なめんじゃねぇぇぇ!」


己の優位を確信していただけにその怒りは激しかった。

堀の上に姿を現したアグリオスは邪魔な者達を跳ね飛ばし、柵を粉砕して駆け戻り、己の全てを叩きつけるようにゴーザへと踊り掛かった。




打ち合い自体は終始アグリオスが優勢に進んでいた。


アグリオスが攻め、ゴーザが防ぐ。


アグリオスが打ち込み、ゴーザが逸らす。


アグリオスが薙ぎ、ゴーザが受ける。


ゴーザに掛けられた炎の呪縛は、もはや自分からは攻撃できない程進み、唯一ユウキを護りたい想いだけがゴーザを動かしていた。

ならばユウキさえ倒してしまえばいいのだが、この状態であってもゴーザは完璧に防ぎ切り、アグリオスの攻撃が届くことはなかった。

それどころか防御の合間にゴーザが誘導して隙を作り、その僅かな隙間に紙を差し入れる様にユウキの水流がアグリオスに襲い掛かってくる。

二人の連携は一撃で事態を逆転させ兼ねない鋭さを持っていた。


「そこまで炎が侵食していてなぜ従わない!なぜ抵抗できる!」


最初は手首までだった炎は、今やゴーザの肩までを覆っている。

しかし苦しそうに肩で息をしながらもゴーザの目には一切の迷いは見られない。


「家族を害する想いなどに儂が従う事はない。」


確固たる決意にアグリオスが僅かに怯み(ひるみ)、嫉妬に似た感情が込み上げて来る。

何処かに置き忘れた大切なものをゴーザに取られた気がした。


(こいつを、殺そう。こいつが居なくなれば全て上手くいく。)


壊すのではなく、殺したいと思ったのはいつ以来か。


(今、こいつが持っているのは頑丈なだけのただの剣だ。オレの炎を霧散させたアレじゃない。それなら・・・)


「その剣ではオレの神威(ちから)を防げない!焼け死んじまえぇ!」

振り上げた剣を炎に変えたアグリオスはひと際大きく燃え上がった。

広場に居る者達の炎がそれに呼応して大きくなり、死にゆく者の叫びとしか思えない叫びをあげる。

それはゴーザとて例外ではない。

腕の炎は大きさを増し、肩を越えて心臓にまで達しようとしていた。

苦しみながらも水切りを盾の様に突き出して僅かに身体を捻り、傾ける。


「これを待っていた。」

ゴーザの呟きをは誰にも聞かれる事は無かったが、その声に突き動かされたように事態は動き始める。


ゴーザの背に8系統の重ね掛けをしたユウキの剣が襲い掛かった。

激流を受けてバランスを崩し掛けたが所詮は水、何事も無くゴーザを通り過ぎた水流が炎の剣を迎え撃った。

一瞬、音も立てずに炎の剣と組み合った水流だが直ぐに押し返し、恐怖に目を見開いたアグリオスを両断した。


ゴーザのアドバイスを受けて剣に注ぐセレーマにはイメージ―――属性を付与していた。

理不尽を拒絶する意思は凍てつく氷

アグリオスの炎はその形のまま結晶化したように凍りつき砕け散った。




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