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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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マリーンの行方 3

足を止めた子供が何かを頭上に投げ上げた。

微かに光るそれが何か、何が起こるのか、気付いたが間に合わず閃光を浴びて視界は白く塗り潰されてしまった。

目の奥に激しい痛みがあり、闇夜に居る様に何も見えない。

このままでは依頼をこなす事ができないので装備している魔導具を起動させると赤い濃淡の景色が見えてきた。


『ヴァイパーサイト』


闇夜に紛れて獲物に襲い掛かるナイトヴァイパーの感覚器を使った魔導具で、微細な温度差を色の濃淡で認識できる。

本来は視覚の補助として使うものだが、これだけでも支障はない程度には動けるようになる。


周囲は暴徒の熱気で紅蓮に染まっており、細かな所は識別できない。

濃い赤の一色だ。

反対に先程まで子供達が居た所はまだそこまで熱くなっていないので細部まで確認できるのだがすでに子供たちはいなくなっていた。

しかし、男は慌てることなく魔導具を操作すると小さな赤い色が二つ、時間を戻る様に移動して眼下で一つになる。

ヴァイパーサイトは感知レベルを調整する事で対象物の残した放熱の軌跡を遡る事ができる。

時間と共に減衰してゆく放熱跡に感知レベルを随時合わせる事、不要な温度を感知から外す事、この二つを同時に行わなくてはならないので相当な技術が必要なのだがこの男は苦も無く行っていた。


子供の動きを少し前から追っていくと、驚いたことに子供の一人は自分から暴徒に向かい、その熱気に紛れて足どりを追う事ができなくなってしまった。

だがもう一人は直ぐ近くの家に押し込まれた後は出て来た様子はない。


「こっちを捕まえて当たりならそれで終わりだが、ダメならもう一人が行きそうなところを聞き出さなきゃならんか。くっ、あっちが当たりなら面倒だな・・・。」


男はまだ人の少ない裏道に降りてマリーンの居る家に向かって行った。




マリーンは突然投げ出された事で床に倒れ、閃光を遮る影が扉を閉めて行くのを呆然と見つめていた。

ハッと気づいてドアに駆け寄ったが押しても引いても開くことはない。

格子の入った窓に駆け寄ると、人の頭の上を跳んでゆくユウキが見えたがそれも直ぐに物陰に消えてしまった。


「嫌だよ!ユウキ!ユウキー!」


叫んでも応え(いらえ)はない。

窓の外には向きを変えた人達がすでに近寄っていたが、マリーンの声に目を向ける者は一人もいない。

ユウキの思惑通り暴徒たちの狙いはユウキ唯ひとり、これでマリーンが危険に曝される事はないだろう。


ただし、

その少女が自分の安全程度の事で大人しくしているならば・・・。


ユウキが見えなくなると、マリーンは猛烈な勢いで室内を物色し始めた。

見つけた袋にあちこちから物を探し出して詰め込むと裏口を開けて外に飛び出す。

「ユウキは『追いかけられているのは自分だ』って言っていたけれど、それだってあの女の人(?)が私を探していたから起こった事。元々は私を捕まえようとしていたのだから私が行けばもうこれ以上騒ぎを続ける必要はなくなるはず。

だから、教会・・・多分お父さん達と行った中央教会に行けばあの人がいる。ユウキの後は追いかけられないけど、今度は私がユウキを助けるから。だから・・・だから無事でいてね。』



裏口から出ると少し離れた所を大通りに向かう人影が見えた。

みんながユウキを追っているので、裏道はかえっていつも以上に人が少ない。

中央教会まではユウキと反対側へ3マール位。

大人であれば半ザードもあれば走れる距離だが、子供の足では1ザードは必要だろう。

その上、曲がりくねった裏道を進んでいれば更に時間が掛かってしまう。

だけど、ユウキが遠ざかっているので少し行けば人も少なくなってくるはずだし、大通りを進んでいれば向こうから近づいて来るのではないかと思えた。

何しろこんな騒動を起こす程自分の事を捕まえたいのだから・・・。

焦る気持ちを押し込めて一心に道を急いでいた時・・・


「おい。」

「えっ、きゃぁーーー!」


不意に声を掛けられて、驚いたマリーンは足を(もつ)れさせた。

振り替えれば焦げ茶色の皮鎧に身を包んだ男。

格好は探索者の多いこの街ではありふれた物だが、この男の纏う雰囲気がマリーンを怯ませた。


―――殺気―――


ではない。

こちらの反応を全く考慮する必要のない―――例えるなら狩人が捕まえたウサギの捌き方を考えている様な―――独り言に近い言葉。

しかしマリーンはウサギ程大人しくはない。

直ぐに立ち上がって男に向き直る。

「あなたは誰!」

「うむ。それはこちらが聞きたい事だな。お前は誰だ。」

「聞いているのは私が先よ。だからあなたが先に答えるべきでしょう。」

「どうにも力関係も判らない子供の相手というのは難しいものだな。だが、()いだろう。俺はお前たちを助ける様に依頼を受けた者だ。ある組織に属しているが仕事中に名のる名前はない。それでお前は誰だ。」

『どうしよう。全部話した方がいいのかな。この人がユウキを助けてくれるなら私が教会に行くよりも早いだろうし・・・』

元々、教会まで行く時間に焦りを覚えていた。

果たして間に合うのか。

ユウキを助ける為にはもっと他の方法が必要なのではないか。

走りながらずっと考えていた事だ。

この男の話が本当ならこれこそが欲しかったものに違いなかった。

唯一マリーンを躊躇わせているのは先程感じた雰囲気だけ。

しかしそれも一流のプロであればそのように気持ちを割り切る事もあるのかもしれない。

探索者として活動している父親がそうだったので、この男もそうなのかと思えた。

「あの私は…」


「うむ。暴徒は向こうを追っている。こいつはフェンネルのガキではないのか?」

その時、男の漏らした独り言が微かにマリーンに届いた

その男の組織は世の倫理観とはかけ離れた世界にいるので、人を人として見る事よりも『商品』や『障害物』として扱う事が多かった。

だから目の前にいる子供は『商品の可能性がある物』であり、どのように考え、どのように感じるかを考慮する気は元から持っていなかった。

漏らした独り言にしても特に意味があった訳ではなく、物であるから注意をする必要を感じなかっただけだ。


『違う!この人は助けに来たんじゃない。ユウキに何かするつもりなんだ。』

“感”と言ってしまえばそれまでだが、その時は泉に映った姿を見た様に相手の考えている事が理解できた。


「私は・・・いや、ボクがユウキ・フェンネルだ。」

袋に手を入れると最初に握った物を投げつけた。




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