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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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マリーンの行方 2

執務室に戻ったユピテルは豪華な椅子に背中を預けて天井を見ていた。

ただし、その眼に映っているのは壁紙の張られた室内ではない。

四十数年前、探索者を引退することになった日の事が鮮明に映し出されていた。




その日、若きユピテルとゴーザはコルドラン上層で偵察に出ていた。

初めは何も変わった事などなかったのだが、突然発生した超高濃度の神素溜まりに迷い込んで二人は方向を見失う。

抜け出そうと彷徨っている時、正体不明の魔物と遭遇したが、戦闘の末にこれを撃退。

しかし、戦闘中にゴーザを庇ったユピテルは片足のすねから下を失う怪我を負ってしまう。

片足を失くしては探索者は続けられず、惜しまれながらもユピテルは政治の道に進み努力の末にカウカソスの執政官を任されるまでになる。


と言うのが表に出ている話だ。

ほんとうの所は、ゴーザが謎の神族と戦い始めたと見るや即座に逃げ出しており、一切戦闘には係わっていない。

しかもあまりに慌てていた為にドールガーデンを展開する事も忘れており、いつもなら容易に気づく足挟み(フットイーター)に足を食い千切られたのだった。

神素が晴れた後でゴーザが倒れているユピテルを見つけ、応急処置を施した。

後になってユピテルの作り話の事を知ったが、探索者としてはあまりにも情けない失態に同情して(あきれて)『共に戦って負傷した』と話を合わせる事にした。

ゴーザにしても、『後に英雄と呼ばれる』とか、『係累が神々と並び称される』などと言う話を他人にする訳にはいかなかったので事実を誤魔化す事はちょうど良かった。


ユピテルは痛みと後悔で朦朧としていた時、確かに聞いた言葉がある。

『英雄の顔を見に来た』とそこに現れたものは確かに言っていた。

他の事は良く思い出せないが、何故かその一言だけは今も耳元で囁かれた(ささやかれた)かの様にはっきりと覚えていた。

その時は気にする余裕もなかったが、後に名声を得たゴーザが『英雄』と呼ばれるようになると、その言葉の意味がようやく理解できるようになった。


「俺はあいつの犠牲になったんだ。」


その思いは年々強くなり、今では黒々とした想いがいつも自分の中のどこかに居る。

しかしゴーザに復讐をしたいとは思っても相手の名声と人脈が邪魔をして迂闊に手を出す事はできなかった。

だが、今回の事はどうだろうか。


「確か、ディアナと同じ年の孫が居たはずだな。」


今、暴徒に狙われているのはその子だろうか。

理由は判らないが、今回の暴動でその子が中心部分にいると言うのなら責任の一端を押し付ける事は難しくはない。

そして自分の身辺には僅かな隙もないゴーザでも、孫の罪から責任を問えば連座して、あるいは孫の罪の全てを引受けて処罰することが出来るかもしれない。

また仮にそこまでできなくとも孫が罪を犯したとなれば嫌な夢ぐらいは見るだろう。


考えをまとめると机の呼び鈴を鳴らして控えていた家令を呼んだ。

「話は聞いていたな。『鳥』に連絡を取って、暴徒に追われているゴーザの孫を確保しろ。」


部屋を出て行く家令を目で追いながら、ユピテルは自分でも気が付かない内に笑っていた。





その男は屋根の上を移動しながら走っている二人の子供を見ていた。


『お使いから暗殺まで』


ユピテルが『鳥』と暗喩したのは、表沙汰にできない事柄を請け負う『コルニクス』と呼ばれる組織だ。

この男は今回の依頼を任されたのだが、完遂条件に不明な点が出来た為に実行に踏み切れずにいた。


『暴徒に追われている男の子を一人、依頼者の元に連れて行く』


子供は直ぐに見つけたし、子供一人さらうぐらいの事は大した手間ではない。

だが聞いていた話と異なり追われている男の子(・・・)は二人いる。

実のところ一人は男の子の服装に着替えたマリーンなのだが、遠くから観察している男は気づく事ができなかった。

目標がどちらか判らない以上、二人とも浚って(さらって)しまうのが確実なのだが、大勢に追いかけられている状況では無理やり担いで行くことは難しい。

だがこのままでは埒が明かないのも事実。

それにこのまま進んで南大通りから大門前の広場に出てしまうと手出しができなくなる可能性がある。


「この辺りでどこか入り組んだ所に誘導した方がいいな。うむ、周囲と距離がある今なら足さえ止めれば何とかなるか。」

男は後腰に差した短剣を取り出して狙いを付ける。

組織から渡されたこの短剣は、仲間同士の符牒と言う訳でもないのに無駄に凝った造りをしている。

裏の仕事をしていれば武器など使い捨てに等しい扱いをされるのに、翼を模した大きな鍔と丁寧に握りの部分には薔薇の象嵌までしてあった。

誰の趣味なのか、何の意味があるのか、皆目見当もつかなかったが『くれる』と言うから持ち歩いていた。

それに、この凝りに凝った造りにも利点がある。

通常の投擲武器では有効距離が5シュード程度なのだが、この短剣は浮き上がる様な軌道を描いて飛んで倍の10シュードは軽く届く。

しかも投げ方次第で曲げることもできた。

子供達までの距離はおよそ15シュード、屋根の上から投げ下ろすのでこの位の距離でも問題はない。

投げ下ろした直後に浮かび上がる様に向きを変え、その後は水面を滑る様に真っ直ぐに進む筈だ。

「先ずは後を走っている小柄な方(マリーン)の足を狙って動きを止めさせよう。怪我をして走れなくなった所を助けると言って担げばもう一人は自分で歩かせることが出来る。後は、落ち着いたところで目標がどちらかを見極めればいい。」


男は鍔に指を掛けて振りかぶると、思い描いた未来に乗せる様に短剣を放った。



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