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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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ジェミニ エクリクシス 2

アスミはユウキの成した事に驚き、声を失った。

周囲で見ていたエリグマやファミリアの面々も自分の見たものが信じられず、小さな少年の手の中の光から目を離せなくなった。

そして、自身の常識を護るために『既知の未知なるもの』に縋り付いた。

即ち、『フェンネル』という一族の秘儀として片づけて考える事を止めた。



◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



殿(しんがり)を務めていたゴーザが境界を超えると、そこには青白い光に照らされた人々が、見慣れぬ光景に驚いてユウキに目を向けているところだった。


「むっ!拙いな。エリグマ、すまないが口止めを頼む。」

歩きながら声を掛けると、我に返ったエリグマがファミリアの面々を集め始めた。


少し知識のあるものが見ればユウキが手にしている物について直ぐに想像がつく。

治癒師以外が治癒を行うとすれば使える魔導具は一つしかないからだ。

問題になるのはこの魔導具が―――正確には魔導具に使われているエリアルが―――非常に高価な事。

最低でも若手探索者の年収ほど、闇市場に伝手があればその数倍で取引されているので、とても10歳の子供にヒョイと身に着けさせていい装備ではなかった。

だが最悪どうしても不安が残るようであれば、クルヴィ・リュクノスを外してしまえばいいだけの事。

治癒の効果は使えなくなるが魔導具を奪う為にユウキが襲われるよりはいい。

それに、あと数年もしてユウキが自分の身を守れるようになれば、多少人に知られたとしても問題は無くなる。

ちなみに、リューケンの鏡は更に数倍の値段になるのだが、それほど心配する必要はない。

一度個人用に調整された鏡は、再使用できるようにする段階で必ず取得経緯まで調べられるので嫌がらせ以外に奪われる事はないのだ。


『エリグマの所は心配あるまい。クルヴィ・リュクノスは高価だがエリグマの意向を裏切らせる程の価値はない。奥の子供は治癒の事には気づいていない様子だから放っておいていいだろう。どのみち、下手に口止めなどすれば余計に意識させて事態を悪化させるだけだ。外で囲まれている時にも使っていたが、あの騒動の中でクルヴィ・リュクノスの効果に気づいた者がいるとは考えられん。後は・・・』


「聖者の盾のアスミくんだね。すまないがこの事は他言無用に願いたい。」

ユウキのした事に驚いていたアスミだが、振り向いた時には仮面を張り付けた様に顔の表情が消えていた。

「ゴーザ・フェンネル様ですね。お噂はかねがね。私はユウキくんに恩はありますが敵対するものではありません。私の為にご一族の秘儀を使って下さった以上、私の口から秘密が漏れるご心配は無用です。」

『ずい分大げさな言い方をする』とは思うが、こちらの意図は伝わっているのだろう。

「感謝する。」と伝えると律儀に一礼してアスミは離れて行った。


いつの間にかヘレンとクリュテもラットの所に移動しており、気が付くとユウキの周囲には目の前のゴーザ以外誰もいなくなっていた。



ユウキにとってゴーザは身内であると同時に怖い師だ。

見上げた顔はいつも以上に怒っている様に見えて思わず俯いてしまう。


「あ、あの・・・おじいちゃん・・・これ・・・」

おずおずと差し出したリューケンの鏡とそれにつけられた治癒の魔導具。

「この治癒の魔導具のお蔭ですごく助かったよ。それに・・・助けに来てくれてありがとう。」

「うむ・・・まぁ、諦めずに良く頑張ったな。」

一瞬、視線を外したゴーザがあらぬ方向を見上げながらユウキの頭に手を置いた。

『おじいちゃんに・・・褒められた?』

珍しくゴーザに認められた気がしてユウキの胸に嬉しさが込み上げてきた。

はにかんで視線を下げるとそこにはゴーザの左手が見えた。

自身の炎を消した為に傷だらけになった大きな手だ。


「おじいちゃん!手が傷だらけだよ。僕ね、治癒の魔導具で怪我を治せるようになったんだよ。だから直ぐに治してあげる。」

ユウキにすれば褒められて調子に乗り、あるいは新たに出来る様になった事を見てもらいたかったのかもしれない。

ゴーザの手を取ると傷だらけの手に魔導具を近づけた。

目を閉じて一生懸命にセレーマを注ぐ様子をゴーザは微笑ましく見守った。

『ユウキの気遣いは嬉しいがクルヴィ・リュクノスは他人に使うと効果が著しく落ちる。今のユウキであれば、そのセレーマ量からある程度の効果は期待できるだろうが、やはり気休め程度にしかならないだろう。』


と、思っていた。

だが溢れる程の青白い光が近づくとゴーザの腕からは見る間に傷が消えて行き、流れた血の跡だけが滑稽に残るばかりとなった。

目を剥く暇もない内に全てが終わり、力を抜いたユウキが笑顔を浮かべていた。


『なっ、何だ、これは!気休めどころか治癒師にすら引けを取らんではないか。』


先程のアスミの言葉が今度こそ理解できる。

あまりにも常識から外れ過ぎていて、秘匿されていた治癒の秘術を使ったと考える方が余程合理的だった。


「これで大丈夫・・・」

ユウキは更なる称賛を期待していたのだが、予想に反して『叩かれた』と見紛う(みまがう)勢いで手首を掴まれてしまった。


ゴーザの目の前にあるのは確かに与えたクルヴィ・リュクノスだ。

強いセレーマを注げばそれに応じて、光りも強くなるし、ある程度の効果が高まる事も分かっている。

だから最初はユウキのセレーマが飛躍的に強まったのだと思っていた。


押しなべてフェンネルの名を持つ者は強いセレーマを持つ。

以前に比べて急激に強くなっているが、この試練を乗り越えたのだ。

眠っていた才能が開花しても不思議ではない。

だが、今ユウキが見せた奇跡は効果が高いなどと言う問題ではない。


和らいでいた雰囲気が一変して冷たい刃を突き付けられる鋭さに変わった。

不幸にもゴーザは『フェンネル』の名前に全ての原因を帰結させる事は出来ない。

自分の中の常識がブズブズと崩れていく様な感覚に耐えるしかなかった。



「お、お前は何をしたのじゃ!」


思わず声が震えた。

内心の動揺を誤魔化す様に強い言い方になってしまったが、その事に気づく余裕もない。

ゴーザの問い詰める様な視線がユウキに注がれる。


「あ、あの・・・おじいちゃんがくれた保護のカバーが治癒の魔導具だと分かったから、傷を治したんだよ。」

「ユウキよ・・・この魔導具は吸精樹のクルヴィ・リュクノスと言って至極弱い治癒の効果しかない。例外的に強いセレーマがあればある程度は効果が高くなるが、今お前がやった様に所々千切れた傷を跡形もなく治したりはできないんじゃよ。」


「で、でもセレーマを重ね掛けしたら魔導具の効果が強くなるから・・・」

「セレーマの重ね掛け?」

「いくつかのロジックサーキットからセレーマを注いだら、すごく強い効果になったからつい・・・。ごめんなさい。おじちゃんが何に怒っているのか分からないけどいけない事だとは思わなかったんだよ。でも仕方ないじゃないか、街の人は追いかけて来るし、マリーンを護らなきゃいけなかったし・・・。」


徐々に小さくなる声をゴーザは碌に聞いている余裕はなかった。


その身を襲う怖気はユウキの身を案じたものか、見通せぬ明日への不安なのかゴーザ自身にも分からなかった。


「・・・双生児爆発ジェミニ・エクリクシス

思わず漏れた小さな呟きは誰にも聞かれることなく静かに虚空へと消えて行った。



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