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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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ジェミニ エクリクシス 1

「あなた達はユウキくんの知り合い?」


事態の激変に呆然としていたラットだったが、銀色の髪の女の人に声をかけられてハッと我に返った。

手足のすらりと伸びた細見の身体に動き易そうな皮鎧を着け、腰には細身の剣を下げた探索者。

女の子のラトゥーナであっても思わず見とれてしまう程整った顔立ちをしている。

だが、その美貌故なのか、『人』と言うよりも丹精込めて作られた人形の様な印象がある。


「・・・あなたは?」

「ユウキくんを助けに来た者よ。あなた達はユウキくんと一緒に居た子ね。ここも危なくなるから一緒に下がりましょう。」


それは、早い段階でユウキ達と分断されてしまったアスミだった。

暴徒に囲まれ逃げ道を塞がれたが偶々近くに居たカルカスに案内されて地下道へと逃れる事に成功、その後、ファミリアの通信で報告をした後にエリグマに合流してここまで来たのだった。

パルス達を助ける事についてはアスミの独断ではなく予めエリグマが指示していた事だ。

どんな経緯があったのかは分からないが共に戦っているならユウキの仲間として扱うと言う事だろう。

その前にユウキを裏切って強盗まがいの事をしていた事は幸いにも気づかれてはいない様だった。


「カルカスさん、この子たちをお願い。」

「姉さんはこの後どうするんです?エリグマの親分からはこの子たちを確保したら一緒に下がっていいと言われていますが・・・。」

何があったのか、いつの間にかファミリアのカルカスが探索者のアスミを『姉さん』呼びしているが、アスミはそれを気にした様子もない。

静かに腰の剣を抜いて向きを変える。

「ちょっと知り合いがバカな事になっているのでお灸を据えてきます。・・・しばらくはこの件で苛めてあげるから覚悟しなさい、ダンダール。」

なぜか、この時だけは嬉しそうに微笑って混戦の中に走って行った。


「さて、坊やたちはこっちだ。後ろの壁から下に降りればとりあえずは安全だよ。」

カルカスは足元で倒れているパルスとダナエを抱えると黒い境界にヒョイと片足を入れた。

波打つように揺らいだ黒い壁はすぐに見えなくなり下へ続く入口が現れる。

少し覚束ないながら立ち上がったラットが促されて中に入る。

少し離れていたヘレンとクリュテも続こうとしたが急に向きを変えたかと思うと木箱の残骸まで走り、細長いものを丁寧に布で包んで抱えてきた。


「持っていくものはそれだけでいいかい?」

「ごめんなさい。もう大丈夫です。」

ヘレンとクリュテが中に入り、カルカスも中に消えると壁は黒くなって中の様子は見えなくなった。



◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「・・・ウキ!・・・ユウキ!・・・」


ユウキは治癒の魔導具に全力でセレーマを注いでいたが、名前を呼ばれてハッと顔を上げた。

気が付けばユウキを攻撃していた人間は誰もいない。

全力でセレーマを注いでいたので怪我は全て治り、左腕の炎はほぼ消し終えていた。

声のした方に目を向けると少し離れたところで背中を向けたゴーザが近づく人たちを叩き伏せている。


『おじいちゃんが助けに来てくれた。』


ほっと気が緩みそうになるがそんなことが出来る状況ではないと気を引き締める。


「ユウキ!気が付いたか。では周天法を行え。全力でだ。」


周天法とは魔導具を扱う際に身体のどこからでも、即座にセレーマを注げる様にする初歩の訓練法の事。

最初は手や足にセレーマを集める訓練をし、それが出来るようになると心臓にセレーマを集め、それを移動させて身体を一周させる事から『周天法』と呼ばれている。


熟練すればセレーマは瞬時に身体を巡り、何処にでも針の先程に集約させる事ができる。

さすがにそこまで熟練してはいないがユウキは幼い頃には文字通り叩き込まれており、今でも日々の鍛錬を怠った事はない。

目を閉じて収束させたセレーマが流れる様に身体の隅々まで駆け巡る。

全力と言われたので9系統の重ね掛けだ。

直後、バフォッと音を立てて全身の炎がはじけ飛んだ。


「引くぞ。奥の壁だ。」


呆然としているユウキを余所にゴーザから指示が飛ぶ。

見れば明滅する黒い壁に次々と人が消えて行く。

状況は分からないがゴーザの言葉を疑う必要はない。

ユウキは直ぐにそちらに駆けだした。



促されるままに境界を超えると少しヒンヤリとした通路には数人の大人が待ち構えていた。

いきなり腕を掴まれたので思わず立ち止まると「奥へ行け」と背後へ移動させられる。

ユウキの後からも次々に人が来るので邪魔になるなと言う事らしい。

特に何かをされる訳でもないので少し警戒を解き、言われるままに奥へ進むと少し広くなった所に5~6人がこちらを見ていた。

緊張感はあるものの、どこか小休止めいた感じなのでここは安全なのだろう。

怪我も治っているし、無理をして力を振り絞る必要もないようなので右目を開けてタルタロス・サーキットを閉じると今まで感じなかった様々な感情が意識に登ってくる。



「お、お兄さんも無事だったんだね。」


躊躇(ためら)いがちに近づいてきたラットが話しかけてきた。

出会った最初はワザとらしい程馴れ馴れしかったのに、今は手の届く所には近づきたくないかの様に4、5も歩離れたところで立ち止まっては何かに怯える様に視線を合わせようとしない。


「その・・・さっきはみんなを守ってくれてありがとう。それと、お兄さんが大変な時に何もできなくてごめんなさい。」

絞りだす様に話すラットに対してユウキは『ああ、こんなところはちゃんと女の子なんだな』と妙な感心をしていた。

ラトゥーナ(・・・・・)ちゃんが気にすることはないよ。むしろ君たちが無事で良かった。」

フェンネルの特性とタルタロス・サーキットの機能が影響してユウキにとって過ぎ去った事は単なる『過去の事実』に成り下がる。

まるで人から聞いた話の様にそれによって感情を揺さぶられることも拘る事もない。

だが、後ろめたい気持ちがあるのにこんな態度を取られたら相手の方は(たま)ったものではない。

次第に声は小さくなって言いたい事も言えなくなり、徐々に後ずさって横たえられたパルスとダナエに躓いてしまった。


「あっ、その二人は大丈夫?僕の魔導具で治せると思うよ。」

「大丈夫!うん、たぶん・・・いや、きっと大丈夫。さっきそこの人にも見て貰ったから大丈夫・・・大丈夫。」

近づこうとしたユウキを手を上げて押し留めた(おしとどめた)ラット。

そのまま横たわる二人の額に手を当てたり、身体をさすって異常がないか確認している。

さすがにこれ以上話す様子はないので顔を上げると、ヘレンとクリュテの二人が何かを抱えて近づいてきた。


「「あの・・・お兄さん・・・さっきは」」


「ユウキくん!」

突然、境界から駆け込んできたアスミがユウキを見つけて肩を掴んだ。

「よかった。ユウキくんは大丈夫ですか。」

「アスミさん、さっきはありがとうございます。」

ユウキが地下道に向かった時に、ゴーザの牽制を掻い潜ってダンダールが立ち塞がったのだが、飛び込んだアスミが細剣を一閃して吹き飛ばしていた。

「ダンダールさんの首に剣を振り降ろした時は焦りましたけど、斬らない事も出来るんですね。・・・ところで、ダンダールさんは・・・」

「大丈夫、生きてますよ。今度のことでからかうネタが増えましたからね。殺してしまうのは勿体ないから。」

ふふふっ、と微笑むアスミをちょっと怖いと思ったのは内緒だ。


「アスミさんの怪我はもう良いんですか?アグリオスと一緒にいた男に斬られてすごく血が出ていたみたいですけど。」

「薬を塗って応急処置はしましたから、無理をしなければへいきです。」

「無理しなければって・・・ダンダールさんをすごい勢いで殴ってましたよね。」

アスミのわき腹の傷からは滲み出した血が僅かに滴っていた。

ユウキを助ける為なのか、ダンダールを嬲る為なのかは、そのあまりにも楽しそうな表情を見た人間からすれば判断に迷うところだが、少なくとも最初の猛進がなければユウキには1~2回の試練が追加されていた事だろう。

2撃目以降は間違いなく趣味の方だとしてもアスミには感謝しきれるものではない。


「アスミさん、ありがとうございます。」

「私の方こそ、ユウキくんが助けてくれなかったらあのファルクス使いの男に殺されていたわ。お互いに無事でよかった。」

アスミがほんの微かに笑いかけると、人形が人間に変わった様に感じられた。

ユウキは急に身体が熱くなり、もやもやした気持ちを誤魔化す様に視線をさまよわせる。

「あっ、アスミさんその怪我を治しますね。」

手に握っていたままの魔導具をアスミのわき腹に当て―――素肌に触ってしまい更に焦ったが―――5系統のセレーマを重ね掛けした魔導具でアスミの傷を癒した。



誤解を生みそうなのでタイトルを変えました。


ちなみに、ヘレンとクリュテは双子ではありません。

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