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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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立ち塞がる者

「きゃっ!」

降ろした足がグニュリと滑り、バランスを崩したダナエはあっさりと尻餅をついた。

そして腰の下にあるのが倒れている人の顔だと気付くと恥ずかしそうに服の裾を押えて立ち上がる。

今ダナエがいる辺りには倒れた人が絨毯の様に折り重なっていて地面はほとんど見えない。

そんな中をなるべく人を避けて、出来なければせめて顔や頭は踏まない様にしてここまで進んできたのだが、人の身体と言うものは思いのほか乗り辛い。

特にふくよかなお腹がこんなに滑るとは裕福な知り合いが皆無のダナエは初めて知った事だった。

もっとも、人の腹に乗る機会などそうあるものではいないので別にダナエが貧乏だから知らなかった訳ではないだろう。

だけど自分や仲間たちの身体であれば滑りようもないと思うとなんだか悔しい気持ちになってしまった。

その後のダナエはふくよかな人の顔を優先的に踏んだ、ということはなかった。



「遅くなってごめんなさい。」


ダナエが声をかけた時、ユウキは変わることなく迫りくる人々を倒し続けていた。


少しづつでも前に進むユウキの足元は辛うじて地面が見えている。

その僅かな隙間の中で器用に足を組み替えては右に左にと身体を振り、そのたびに倒れる人が地面を埋め、倒れた人の居たところを次の足場にしてまた身体を振って行く。

わざわざ狭い地面に立ち続けているのは倒れた人達を気遣っているのかと思ったが、時には頭をつぶす程の勢いで踏みつけているので単に動き易い所に居るだけなのだろう。

その動きには躊躇う様子は全くないし、ダナエの様に下に気を取られることもまして無様に転ぶこともない。

その上ヒョイと身体をずらしては後ろから飛んでくる球弾を振り返りもしないで躱している。

それが凄い事だとは武術に詳しくないダナエにも分かる。

ずっと動き続けている体力だけでもとても同じ子供とは思えなかった。


一方で球弾を戻したパルスは息をする度に大きく肩が上下していた。

ユウキと比べてしまえば情けない様子だが、力の限り球弾を投げ続けていたのだから良く頑張っている方だろう。

ただ、疲れの為か次第に狙いが雑になっている。

壁に当たり、地面を跳ね、ユウキに向かう事も多かった。


「パルス大丈夫?」

心配したダナエが声をかけても聞こえていないのか、それとも返事をする余力がないのか何かを呟いていて見向きもしない。


「少し休んだら。そんな状態だとむしろお兄さんの邪魔になっちゃうよ。」

ダナエは心配して言ったのだろうが当のパルスには自分の不甲斐なさを非難されたように感じて顔を顰めた。

「なんで・・・何でアイツは平気で動き続けていられるんだ。何でこんなに差があるんだ!恵まれた奴にはどうやっても敵わないとでも言うのか・・・」

手にしたスフィアロッドに凭れかかる様にして身体を起こすと焦点の合わない瞳で前を睨む。


「パルス・・・あなた・・・」


幽かな呟きを聞いたダナエには掛ける言葉が見つけられない。

それでも何かを言わなければと口を開きかけたが『バキッ』と響いた音に我に返る。

ユウキの持っている板が折れたのだ。

わずかに迷いを見せながらも声を掛けることなくダナエはユウキの元へ向かった。



「この後はもういい。パルスを連れて奥に隠れていて。」


差し出された板を受け取った時にユウキはそう言ってダナエを下がらせた。

この路地の終りはもう目の前だ。

そしてユウキが通りまで出てしまえばダナエ達が危険に曝される事はない。

その後にユウキがどうなるかは彼らに関係ないのだからこれ以上付き合う必要は無かった。


◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


パルスは疲労で混濁した意識の中、スフィアロッドを振る事だけしか考えていなかった。

ユウキに対する劣等感も危機に対する恐怖も意識の奥に押しやられ、自分が何をしていたのかも半ば分からなくなっていた。

機械の様にロッドを持ち上げると身体を折り畳むような勢いで5キルド程の球弾を飛ばす。まともに動かない身体は姿勢を崩してそのまま顔から倒れ込んだが幸いと言っていいのか下には倒れている人がいるので怪我はしなかった。




ユウキはロジックサーキットの一つで常に後ろの様子を観ている。

不定期にパルスの球弾が飛んでくるし、替えの板を渡そうとしてダナエが近くに居るので観ない訳には行かなかった。

だからパルスの体力が限界を迎えていて援護がなくなることは大分前から分かっていた。

時に狙いが甘く、自分に当たりそうな事もあったがそれでも大分助けられていたのでもう少しだけ頑張って欲しいとは思っていたが碌に立ち上がれない状態では諦めるしかなかった。



ところが動けないと思っていたパルスが最後の最後でもう一投するとは思っていなかった。

ほぼ意地だけで放たれた球弾は狙いこそ滅茶苦茶だったが勢いはあった。

ドールガーデンは投げられた物の方向や角度を予想することが容易いのでユウキはその球弾が何処に飛び、どのような軌跡を描くかを即座に予想できた。

だが予想しただけでそれ以上の行動することはできなかった。


「ダナエちゃん、避けろ!」

「えっ?」

壁に当たって勢いを減じたものの、相当のスピードを残したままの球弾はダナエを跳ね飛ばした。

頭は外れたものの、まともに当たったダナエは横たわり動かなくなった。


「「キャャャャャーーーーーーーーダナエーーーー!」」


ダナエの悲鳴を聞いて顔を向けたヘレンとクリュテが抱えていた板を放り出して駆け寄ろうとした。


「ヘレンちゃん達は来るな!ラットは倒れた二人を奥に連れて行って!」


この状況で小さな二人が加わったら更に収拾がつかなくなる。

何しろダナエが倒れたところはユウキと群衆がせめぎ合っているすぐ後ろなのだ。



ユウキの指示でラットがダナエを(よりユウキに近かったので先に)後ろに下がらせようとしているのだが足元が悪い中では遅々として進まない。

そして指示を出したがユウキは手が離せない。

今ユウキが下がれば倒れた二人は群衆の足下に埋まる事になるのだから何としても前に進まなければならなかった。


「あと少し・・・通りにさえ出てしまえば・・・」


だが通りの近くほど絶え間なく人は押し寄せて来て、急流を遡る様にジリジリとしか進めなくなって行く。


ほんの1歩、通りから一歩進みさえすれば路地に押し寄せている人の流れが変わる。

なのにその一歩が進めない。


開けた場所に出た事で一度に対処する相手は4・5人に増え、倒しても倒しても一歩踏み出す隙が見つからなかった。

(いっその事また群衆の足元に潜り込もうか。)

マリーンと別れた時とは違い、逃げ込む先がないので身動きできないまま踏みつぶされる事になるだろうが無関係のダナエ達を巻き込む事を考えればいっそ清々しいかもしれない。

(よし!やろう。)

地を這いずったまま力尽きるのか、それともどこかに辿り着くのかは分からないが自分一人の事であれば悩まなくていい。

手にした板を投げ捨てて、身を屈めたがユウキだったがその先を続ける事ができなかった。

顔を目掛けて蹴り上がった足に気づきとっさに手で受け止めたのだがそのまま後ろに跳ね飛ばされてしまった。


「ダンダールさん!」



味方の時には頼もしかったが、今の状況では一番会いたくなかった人が虚ろな瞳で立ち塞がっていた。



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