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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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閉ざされた逃げ道

パルス達が立ち去ってしばらくするとユウキは意識を取り戻した。

加えられた攻撃を思えば驚くほど回復が早い。

これは直前に重ね掛けして能力を高められた治癒の魔導具のお蔭だ。

とは言えズキズキと頭が痛み、意識は霞が掛かった様にはっきりとしない。

この状態ではロジックサーキットは意味を為さず、タルタロスサーキットは開くことが出来なくなってしまう。

所詮、これらはユウキの意識内の機能に過ぎず、脳の機能不全には対処しようがないのだ。

治癒の魔導具はセレーマの供給が途切れても余韻で機能していたが、それも徐々に鈍り始め、やがて青白い光は砂地に撒かれた水の様に消えて行った。


◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「愚図々々するな!急ぐんだ。」


苛立ったパルスの声に幼いヘレンとクリュテは嗚咽を押える事ができなかった。

それでも前を行くパルスの背中を懸命に追いかけ続けていたが乱れた呼吸は急速に二人の体力を奪い去り、ついに足を縺れさせたクリュテが転んでしまった。


「何やってんだ!早く立て。」

「だって・・・ぇっぐ・・・だって・・・ぅえーん・・・」

「ぇっぐ・・・パルス、こわいの・・・おこってばかりでヤなの・・・」


碌に言葉にならないクリュテとこちらも泣きながらクリュテを庇うヘレン。

後についていたダナエが駆け寄ってクリュテを助け起こす。


「もう少しだからクリュテも頑張ろう。」


普段ならパルスの仕打ちに柳眉を逆立てるダナエも自分たちが置かれた状況を考えればクリュテを励ます事しかできない。

いつもと違うダナエの態度に、突き放された気がしてクリュテの鳴き声が大きくなる。


「うぇーん・・・もういやだよぉ・・・うぇーん・・・」

「泣いてる暇なんてねぇんだ!早く立て!」

「パルス、待って・・・そんな言いかたしたら・・・」


案の定、クリュテは泣き止むどころか更に大声で泣き始めた。


「ちっ!悪かったよ。おぶってやるからこっちに来な。」


幾分口調を緩めて言うとパルスの背中にテトテトとクリュテが抱き着いた。

しゃくりあげは止まらなかったがしっかりと抱き着いているのを確認してパルスは立ち上がった。

「ラット!前に出てくれ。ヘレンはまだ走れるか?ならダナエに手を繋いでもらえ。お前ら、もう少しだからな。頑張るんだぞ。」


後からラットが追い越して先頭に出ると狭い路地を一列になって走り始めた。

すぐに大きな通りが近づいてくる。


「パルス、通りにでたら右と左どっちに行く?」

「アイツは通りに出て30シュード位しか進めないと言っていたな。行けるのは3、4軒ってところか・・・ちっ、ほとんど行けるところなんて無ぇじゃねぇか。・・・ラット、右だ。出て2軒目の窓を壊して逃げ込め。文句を言われるかもしれないが、あそこは婆さんの一人暮らしだから何とでもなる。」


声が届いたかどうかのタイミングでラットが通りに飛び出した。

ところが左右を確認したラットはそこで立ち止まり、動かなくなった。

「おい!右だ、右!チビ達を引き上げてもらうから先に窓を壊して準備をしておけよ。」


「・・・パルス・・・」

それだけ言って後退さるラットの左右から沢山の手が伸びる。

やがて、苦悶に満ちた顔が現れると出口は瞬く間に人で塞がれてしまった。


「ラーット!戻れ!」


入口に詰めかけた人々は我先に入ってこようとしている。

それまで立ちすくんでいたラットもパルスの声で気づいて駆け戻って来る。

もちろんパルス達も向きを変えて駆け出している。

路地の巾は大人一人が歩けるくらいしかないので、押し合う人々の進み方はとても遅かった。


元の場所まで戻るとユウキが身体を起こしていた。

横を通り過ぎる時に、膝立ちのユウキと小さなヘレンの視線が一瞬だけ交差する。

奥の壁で振り返ると立ち上がったユウキがフラフラと歩き始めていた。


次第に大きくなる唸り声が自分たちの終りを告げる様に聞こえてきた。


「くそっ!何故こんなことになった。」

今となっては忌々しそうにユウキを睨むことしかできない。


「最初からあのお兄さんの言う事を聞いていれば・・・」

涙を浮かべたダナエの呟きはパルスには非難の言葉に聞こえた。

実際、ユウキの言葉を信じていればこんなことにはならなかったし、ユウキからは何度も回避する道を提示されていた。

それらを全て台無しにし、更に恩を仇で返すような不意打ちと追剥ぎ紛いの行動がこの結果を招いていた。

言わば自業自得なだけにパルスは流れる血を止めようとする様に胸元を押えていた。




ユウキは押し寄せる人たちの前まで進んだが、意識は未だ朦朧としたままだった。

振り上げた板で打ちかかってもタルタロスサーキットが使えなければ所詮は子供の事、大した威力にはならない。

先頭にいた人間は意に介する事もなくユウキの手を捕らえて握ると、細い腕が軋みを上げた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー。」


ユウキの悲鳴にダナエは顔を背けたが、微かに『ほっ』とした気持ちも確かに混じっていた。

しかし事態はそれで終わらない。

ユウキを捕まえた男の顔に笑みらしきものが浮かび、引き寄せようとしたが逆にズリズリと前に押し出されて来る。

そして男の周りからは無数の手が触手の様に突き出され、後ろの者が前に出ようとして狭い隙間に顔を、身体を押しこんできた。

壁に押し付けられながら進む人は皮膚が裂け、血の跡を引いていたが気にする様子はなかったし、更に後ろからも後続が押し寄せていて“誰かがユウキを捕まえた”程度の事では止まる様子はなかった。


しかし貫くような激痛に襲われてユウキの意識は急激に覚醒した。

こうなればロジックサーキットもタルタロスサーキットも使う事ができる。

ユウキは素早く右目を閉じると心に空いた暗闇に余分な感覚を流し込み、嵩増しされた筋力で掴まれた腕を振り解く。

少し下がってドールガーデンを展開すると周囲の状況が観えてきた。


『もう前は人でいっぱいだ。』

逃げ道は後ろの壁から屋根に登る事だがそこには幼い子供がいる。

最初に危惧した事が、最悪の状況で起こっていた。


「うぉぉぉぉぉーーーーーー!」


ユウキにしては珍しい事に雄叫びを上げると猛然と前に出る。

手にした板を振るって目の前の頭を叩き、一撃で意識を奪ってはまた次の相手を昏倒させてゆく。

骨が軋み、関節が悲鳴を上げた。

焼け付きそうな身体を治癒の魔導具の力で無理やり押え、また力を振るう。


「パルスだったよね。そこの壁から屋根に登って!」


後に声を掛けたユウキにはいつもの余裕がない。

押し寄せる人の多さにロジックサーキットはフル稼働しており、会話する隙さえ簡単には作れなかった。


「君たちを追いかける人はいないから屋根に登れば安全なんだよ。」

「無理だ!途中で手が届かなくなるから屋根になんて出られない。」

即答できたのはやってみた事はあるのだろう。


「せめて押し潰されない様に途中まででいいから登って!」

「チビどもがいつまでも張り付いて居られる訳ないだろう。」

これも即答したパルスの顔色は青白く血の気がない。


「くっ、仕方ない。」


通りまで出られればここに人が押し寄せる事はなくなる。

ただそれはユウキが救われる事を意味しないがそれでも前を向いて腕を振るう。

ほんの僅かな距離が永遠に届かない彼方の様だった。

一進一退を繰り返していると、ユウキの横を唸りを上げた球体が通り過ぎ、掴み掛かろうしていた男の顔を仰け反らせた。


「糞ったれ、ラット、押し返すぞ。」


パルスとラットが加わった事でほんの少しづつだが前に進み始めた。








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