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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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アスミ・エレファース

8/10最後を修正しました。

途切れることなく襲い掛かる剣打をアスミの細剣が次々に弾き返す。

二刀の打ち込みを片手でさばくスピードは驚くべきものだが、それにも増して

男の蛮刀を相手に“たおやか”なアスミが(ことごと)く弾き返す姿は“芝居を演じているのか”と思えるほど現実離れしていた。



アスミが剣を振るう度に『リーン』と鈴の様な音が鳴る。


場違いな澄んだ音が響くと相手の剣は巨大な手で打たれたかの様にはじけ飛ぶ。


だが相手が手にしているのは内側に刃を向けた曲刀ファルクス。

真横を向いた剣先がアスミの側面を突き刺す様に迫ってくるので遠間で防ぐ事を()いられてしまい、どうしても動作が大きくならざるを得ない。

その為、ずっと防御から攻撃に転じる時間を作りだせずにいた。


その上、今は魔導具の発動にいつものキレがない。


本来アスミの剣の付加能力は大型の魔物にとどめを刺すものであって、この様な刹那の間を縫うように使うものではない。

それをアスミの驚異的な発動速度で対応しているのだが、今はその合間を更に切り分けてユウキの様子を窺っており、どうしてもセレーマの収束が甘くなってしまっていた。


そうまでして見た光景は人形の様に表情の薄いアスミをしても目を見開くほど驚くべきものだった。


視線の先には危ういながら紙一重で躱し続けるユウキ。

如何なる技量によるものなのかそれとも賭け事の神アーレアに愛されているのかアスミには知る術もなかったが、次々に繰り出される攻撃をユウキは延々と避け続けている。


『速い!それに石畳を砕くアグリオスの威力は化け物ですか!だけどそれ以上に信じられないのは剣も盾も持たない子供がなぜあれを避け続けていられるのです。』


避けるタイミングが早すぎればそれに合わせて太刀筋を変えられてしまうのでギリギリまで見極めなければならない。

それでも正確なところは動き出すまで(わか)らない以上、更に調整をするものなのだが、動き始めたアグリオスの剣にはそんな事をしている時間はない。


命がけで瞬き一つ程のタイミングを拾い続け、それでもなお完全には予測しえない状況など普通の神経の持ち主であれば到底耐えられるものではなかった。


はっ!と気づくと風を切り裂いて足元に曲刀が迫ろうとしていた。

辛うじて弾き返すがもう一方の剣が更に足元を襲う。


「葦刈り、葦刈り、もう一つ葦刈り!余所見なんかしているとそのきれいな手足がなくなっちゃうよぉ~。それ実落とし、枝払い」


足元、首筋、肩と変わる狙いに簡単には捌ききれず後ろに下がる。

この男も強い。

そぞろな気持ちで勝てる相手ではなかった。


なんとか形勢を立て直したが、その間にもアグリオスの振るう剣の破壊音は耳に届いている。

再び視線を向けた時、ユウキは上下が逆さになる程の勢いで飛び上がっていた。

手足を丸めた姿が水に浮かぶ卵の様に映り、そのままふわりと空に昇って行くのではないかと思えた。

だがそのような奇跡が起こらない以上、飛び上がった人間には落ちる以外にできる事はない。

避ける術を失くしたユウキに対してアグリオスの剣が振るわれた。

「ユウキくん!」

アスミは無残に両断されたユウキが脳裏に浮かんだが実際には地面に刺さったアグリオスの剣の上に落ちるにとどまった。

その後の攻防も危ういものだったがどうにか窮地は脱していた。



ここにおいて、ユウキの動きが変わり始めていた。

大きく避けるのではなくギリギリを、それもその後の動きを意識した様に重心を残した避け方をしている。


明らかに何かを狙っている。


小さなミスも許されない綱渡りの様な事を続けているのならば死中に活を見出そうという選択も一概に間違っているとは言えない。

だがアグリオスを前にしては、どんなに都合のいい予測をしても無謀としか思えなかった。


「ユウキくん!諦めないで。直ぐに私が行って・・・私が行って(助ける?から)」

励ますつもりのアスミの言葉は最後まで言うことが出来なかった。


『私の細剣ではアグリオスの剛剣を受ける事はできませんし、タイミングを合わせて付加能力を発動する事もできそうにありません。ましてや避け続けるのは博打以外の何物でもない以上、数合と待たずに殺されてしまうでしょう。ユウキくんより私の方がよほど分が悪いというのに助ける事などできるのでしょうか。』

疑問が脳裏をかすめたのは一瞬だがその後の逡巡は長く思考を曇らせ続けた。


「ひゃぁ~!何か悩めるお姉さんも色っぽいねぇ~。でも今は他の男の事なんか考えてないで目の前を見てほしいなぁ~。」

ふざけた口調とは裏腹に双刀の乱舞は激しさを増す。

もはや余所見をする余裕など微塵もない。


「ユウキくん!必ず、必ず助けに行くから諦めてはいけません。僅かでもいいから時間を、命を繋ぎなさい!」


それは、先程の逡巡を打ち消す自分への暗示なのかもしれなかった。

猛然とアスミの速度が1段階上がると、剣は歌う様にひと続きの音色を奏でアスミの足は演武を舞う様にしなやかなステップを踏む。


「いいねぇ~。ぞくぞくしちゃうよぉ~。このまま、ず~っと見つめていてほしいなぁ~。」

「なら早くやられてしまいなさい。そうすればあなたの死体を見下ろしてあげます。」

「それもいいねぇ。でも俺って“永遠の愛”にこだわっちゃうんだよねぇ。だから、お姉さんの首を飾って“ず~っと”見つめて貰うことにするよぉ。」

ヒャッヒャッヒャッと嬌声を上げる男と無機物の様に感情の消えた女の攻防は延々と続き、終わりを思い描くこともできなかった。


だがその均衡は思いの外早く破られることになる。


ドガーンとひと際大きな音が響くと雄叫びを挙げて少年が走り出す。


「ユウキくん!待ちなさい!」


思わず叫んだ為に付加能力の発動が僅かに遅れ、わき腹に剣先が滑り込む。

二刀目はどうにか防いだが目に見えて動きが鈍る。


「なーんかつまんない終わり方になちゃったなぁー。でもお姉さんは気に入ったから約束通り首は飾ってあげるよぉ~。」


『痛みでセレーマが集められない以上、もう次の攻撃を防ぐ事は出来そうにありませんね。結局ユウキくんを救うこともできなかったのは残念ですがマリーンさんはダンダールが何とかしてくれるでしょう。私が死んでも人並に神域に行けるのか判りませんが、もしユウキくんに逢えたなら謝りますから・・・。』

振り上げられた曲刀を見る目には何の感情も籠らず、恐怖も後悔も湧きあがる事はなかった。

むしろ、『こんな時まで自分は自分なのか』と感情の乏しいことに驚かされた。


妙に冷めた視界の隅に猛り狂ったアグリオスが見える。

目の前では曲刀を振り上げた男が今にも最後を告げようとしていたが、その背に勢いよく血塗れのユウキがぶつかった。


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