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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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襲撃者 ー 2

「この中でリーダーはダンダールさんですよね。」

話がひと区切りついたとき、確認する様にユウキが質問をした。


「そうですね。キャラバンのリーダーは別にいますが、この場ではダンダールが指揮を執る事になります。」

「でも今のままだとダンダールさんは大変じゃないですか。」


ユウキの話を聞いてマリーンの頭の中に一つの疑問が浮かんできた。

「ずっと手は動かしているけどあれなら誰でもできるんじゃないの。」

会話に混ざれたことで禊ぎを終えたと胸を撫で下ろしたのはご愛嬌だ。


「忙しすぎるんだよ。ドールガーデンを展開しながら周囲の人たちからの報告を受けて、情報の分析と判断。その上に全体の進路を決定までしていたら肝心な時に余裕がなくなると思うよ。」


ドールガーデンは探索者として必須の能力だがセレーマを注ぎ続ける事は多分に集中力を使う。

今のダンダールの状態は例えれば拡大鏡を手に地図の細かい地名を読みながら歩いている様なものなのだ。


ユウキの答えにマリーンは『そうなんだ』と素直に感心しているがアスミはなぜか「くすっ」と笑みを浮かべた。

子供が考えるにしてはあまりにも具体的な意見だったし『余裕がなくなる』など実際に経験した者でなければ考えつくものではなかったからだ。

一般的には希少なリューケンの鏡を子供が持っているなどありえないので純粋にユウキだけの感想とは考えていない。

おそらく親にでも聞いたことを自分で考えついたかの様に言っているのだろうが、もちろんアスミにはそれを指摘するつもりはなかった。

かっこいい所を見せようとして一生懸命に背伸びしてみせる気持ちは嫌いではなかった。


「コルドランでは私たちが居る位置にリーダーのアーキスがいて全体の指揮を執ります。本来であればダンダールもこの場所に居るのですが今回はメンバーが少ないので二役を引き受けているのでしょう。それに街中であればそれ程複雑な確認があるわけでもありませんし、ルートもほぼ決まっています。やり取りしている内容も状況確認だけですから心配いりませんよ。」


ユウキがドールガーデンで確認するとなるほど男たちのやり取りはどこかのんびりとしている様に思える。

それも当然のことで城壁に囲まれたカウカソスに魔物が入り込む余地はないしこの辺りには人影すらほとんどないのだから危険な事など起こりようがない。

もっとも完全に無人と言う事はなく、家の中には布団で寝ている老人や主婦らしき女性が家事に(いそ)しんでいる事もある。

変わったところでは祭りにかこつけて飲み明かしたのだろう、空の酒瓶がそこかしこに散乱している中で7~8人の男が眠りこけている家もあった。

だが特に気を引くものもなくユウキ達は順調に進んでいった。




その少し前の事になる。


「カルカス、来たぞ。」

屋根の上で通りを窺っていた男が呟いた。

男の目の前には何かに支えられる事もなく透明な円盤が浮かんでおり、遠くを歩いてくる集団が大きく映し出されていた。

男が魔導具を操作すると円盤に映る景色が徐々に大きさを変えて行き、やがて人の顔が解るほどになる。

「全部で12人。哨戒役が前と左右で3人、冴えない中年がいて子供二人は女と一緒に真ん中を歩いている。情報通りだ。」


「当然だ。この街の事でエリグマ・ファミリアの情報網に入らない事はないからな。」

カルカスと呼ばれた男は顔を向けて話していたがその手は別の生き物の様に動き屋根の修理を止めることはない。


『器用な事だ。』

ゴルゾフが目を向けた時、カルカスの手は割れた屋根板を外して新しい物と交換していた。

首から上と下で状況が違い過ぎていて見ているだけで眩暈すら覚える。


そもそもこの家は報復が決まった時に半ば脅して空けさせたものだ。

有無を言わせなかったとは言え、多少汚したとしても笑顔が出るくらいの金は渡してあるのだから何も気にすることはないのだが、この男は目ざとく雨漏りする所を探し出しては何処からか道具や交換する屋根板を見つけ出して作業を始めたのだ。

もっとも、人が通りかかっても不審に思われるどころか「ご精が出ますね。」などと声を掛けられるのでゴルゾフとしても文句はない。



「さぁて修理も終わった。それでゴルゾフはどうする。」

どうするも何も、段取りはあらかじめ決めてあるので今更考える事はない。

「手筈どおり。もう少しすれば相手の警戒範囲に入る筈だからお前は下に行って準備をしておけ。」

カルカスが道具を持って降りようとしているのを見てゴルゾフにあることが閃いた。

「誰かが通りかかった時に言い訳になるからそれは置いて行ってくれ。」

カルカスはちょっと考えて何か言いかけたが結局は道具を置いて下に降りて行った。



カルカスが裏口から家の中に入ると安酒と食い物のにおいが鼻を突いた。

家の中には空の酒瓶が転がり大きなテーブルには食べ残しの料理が散らばっているのだから当たり前だ。

これだけ見ればいかにも飲み明かした跡なのだが、おかしなことに男たちにはだらけた雰囲気など微塵もない。


「来たよ。手筈どおりに。」

カルカスが裏口から入ってくると途端に男たちは姿勢を崩し、テーブルに伏して寝息を立て始める者や壁に寄りかかって体を丸める者、なかには部屋の隅で汚れた床に横たわり酒瓶を抱きしめる者までいる。

ただ一つ、床に寝転ぶ者まで剣を持ったままなのはこの場にそぐわないのだが、探索者の多いこの街では警戒されるほど珍しい事ではなかった。

もはやこの部屋の様子をみて何か疑問を抱く者はいないだろう。


部屋を見回して問題がない事を確認するとカルカスも空いている席にもたれて目を閉じた。

その胸にはリューケンの鏡が揺れていた。



ゴルゾフは一人になった後も観察し続けタイミングを窺っていた。

この後は自分も仲間2人と合流して正面から攻撃を仕掛ける事になる。

そして相手が前方に注意を向けたところで家の中の男たちが側面を強襲する。


問題があるとすれば強襲組は外を窺うような不自然な事が来ないことだ。

相手が探索者である以上、ドールガーデンで周囲を警戒しているはずだからだ。

だからこそ見えないところまで念入りに偽装しているのだが、これでは陽動組の動きに合わせる事が出来ないばかりか臨機応変な対応が全くできなくなってしまう。

しかしこれもカルカスがドールガーデンを使うことで状況把握を可能にしている。

もはや負ける要素はどこにもない。

全ては短い時間で集めた情報量が勝敗を決めたのだ。

視界の中で次第に大きくなる集団を後にゴルゾフが屋根を降りたのはそれからしばらく経ってからだった。



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