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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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襲撃者 - 1

「ねぇユウキ・・・なんかこの人怖い。」


横を歩くアスミをチラチラと見ながらマリーンが身体を寄せて呟いた。


当のアスミは背筋を伸ばし、真剣な眼差しで周囲に気を配っており先程のおかしな態度は微塵も見られない。

「そう?僕は何も感じないけど・・・。」

「しゃべっている時も口だけしか動かさないし、何か作り物みたいな感じがしない?」

「仕事の時は事務的な対応をして感情を挟まない様にしているんじゃないかな。むしろ“できる人”って感じがするけど。」

ユウキの言い方に(かす)かに憧憬に似たものを感じてマリーンはキュっと口元を引き締めた。

亭主の浮気を嗅ぎ付けた女房の心境だが一概に悋気だけと言う訳ではない。

対人関係においてユウキの判断基準はかなり実利的な傾向がある。

一般的な印象より能力の有無や適性など即物的な物に重点が置かれる場合が多く、どちらかといえば『作り物』と評されたアスミに近い。

他に聞き手がいれば違ったのだろうが今はユウキしかいない為にマリーンは全く共感されなかった。


「絶対おかしいよ。」


理解されない事に苛立ち、つい態度に出てしまう。

10歳という年齢を考えれば仕方のないことだった。



「どうかしましたか?」

子供二人が小声で何かを話している事は気付いもあえて聞かない様にしていアスミだが、『何か聞きたいことがあるのかもしれない』と気を利かせて声をかけた。

ごく一部の事以外では気づかいも常識的な対応もできる人間なのだ。

しかしこの場合はあまりにも間が悪すぎた。

マリーンは「ギギギ」と音がしそうな程怪しくなるし、ユウキもマリーンの様子を目にしては『この話をしない方がいい』と判断していた。


「ひゃい!え~と・・・あの・・・ア、アスミさんとダンダールさんはどういう関係ですか。」

マリーンの反応を見てユウキは頭を抱えたくなってしまった。

余りにも不自然過ぎる。

アスミとはまだしばらく一緒に行動することになるので気まずい思いをしたくなければ話題を修正する方法を考えなければならなかった。

もっともロジックサーキットを持つユウキはマリーンと話をしながらもドールガーデンを展開していたので概ね周囲の状況は把握している。

後はその中からマリーンの言ったことに関係があり、当たり障りがない話題にすり替えればいい。


「ア、アスミさんとダンダールさんは付き合っているんですよね。」


「えっ!」とマリーンが驚くのを見てしくじったことに気づく。

冷静に状況を把握していても適切な話題を選ぶ事は全く別のこと、コミュニケーション能力の低いユウキにはハードルが高すぎたようだ。

今度はマリーンが頭を抱えているが言ってしまったものはしようがない。

ユウキは素早く右目を閉じてタルタロスサーキットを開く。

焦る気持ちを流し込むと冷静な思考が戻ってくる。

決して能力の無駄遣いと言ってはいけない。


『ませた子供と思われても悪口がばれなければ失敗とは言えない。このまま突っ走って、もう一度どこかで方向転換をしよう。ロジックサーキットを解放、ドールガーデンに2系統、状況把握に2系統、残り5系統で対応を検討。』

決して能力の無駄遣いと言ってはいけない。

ユウキの中ではとても重要な事なのだ。



「さっきからダンダールさんが手で合図をしていますしアスミさんも合図を返していたので二人の秘密の暗号なのかなと思って・・・。」





ダメだった。



アスミは目を細めて何か汚物を見るような眼つきをしており、心なしかダンダール見る眼つきに近づいた気がする。


実のところダンダールのハンドサインはアスミ個人に見せている訳でない。

今の隊列は先頭にダンダール、その後に男二人が並び、アスミ、ユウキ、マリーンが続く。

ユウキ達の後ろにも男二人と少し離れて最後尾に大柄な男が後方を警戒している。

その他にも視界には入らないがダンダールの先15シュード程に一人とダンダールの左右、家々を挟んだ次の通りをそれぞれ歩いている者がおり、人の配置を上から見れば大きな(やじり)の形をしている。

この人たちが指を奇妙な形に曲げて合図をすると同じようにダンダールも合図を返していることから前の三人とダンダールはドールガーデンを展開して周囲の警戒と互いの連絡を取っているのだろう

この中でダンダールだけはアスミにも見える様に合図をすることで状況が解るようにしていたのだ。


「「ごめんなさい。」」


鋭くなるアスミの視線に耐えかねてユウキとマリーンが揃って音を上げた。


「子供が不相応にませた事を言うのは好きではありません。今回は聞かなかった事にしますが次は相応の覚悟をしてください。」

「 相応の覚悟ってどんな事に・・・」

マリーンの問いには答えずに口元だけがニィッと吊り上った。


『やっぱりこの人怖い・・・』

マリーンの呟きは、今度はユウキにも聞こえなかった。





「じゃあ、この隊列はコルドランを進むときのものなんですか。」

「ええ、コルドランでは神素が立ち込めて視界が効かなくなるのでドールガーデンの運用が非常に重要になります。本体の前後左右に配置した人からドールガーデンを通して報告と連絡を行います。ダンダールは周囲の者にも見える様に合図を出すことで情報の共有をしているのです。決して“私個人”とやり取りしているのではありません。」

アスミは淡々と話しながらも最後の部分だけは眼つきを鋭くしていた。

もっとも一旦済んだことを今更気にするようなユウキではない。


「ドールガーデンの範囲くらいなら声を掛けあった方が簡単じゃないですか?」

「コルドランでは音もまっすぐ届くとは限りません。稀に人の声をまねて惑わす魔物もいますから安心して使えるものではないのです。ドールガーデンも万全ではありませんがコルドランではこれ以上に信用できる情報伝達手段はありません。」

「ドールガーデンも欺かれることがあるということですか。」

「欺くという訳ではありませんがドールガーデンでは認識できない魔物が幾つか存在します。中でもフォギータイガーは神素の霧に紛れて近づき襲い掛かるので“探索者殺し”と呼ばれる程多くの犠牲者が出ています。

また、それらの魔物のエリアルを使った魔導具は神素を通した索敵から逃れるので魔物から見つかりにくくなる効果があります。もちろんドールガーデンでも認識できません。」

そう言われてユウキには思い当たることがあった。

「ダンダールさんの黒い霧もその魔導具ですか。あれには本当に厄介でした。」


「ダンダールは・・・」

アスミは少しだけ遠い目をしてふっと微かに微笑んだ。


『そんな反応をするからつい付き合っているとか言っちゃったんですけど・・・』と思わないでもなかったがもちろん声に出すことはない。


「ダンダールの魔導具は“闇の腕輪”と言って討伐難度Aクラスの魔物から採れるエリアルを使っています。非常に高価な上に滅多に出回らないので単独偵察を受け持つ者は喉から手が出るほど欲しがります。そんな物を快適な昼寝の為だけに購入したのですからダンダールは本当に変わり者だと思います・・・。」


『昼寝の道具でやられるところだったのか』と気分が沈んだりもしたが概ねアスミの話はとても興味深い物だった。

実際的なキャラバンの話など滅多に聞けるものではないのだ。

ユウキは気になる事を次々と質問しアスミが淡々と答える。

先程までの気まずい雰囲気を全く匂わせない辺りこの二人はやはり似ているのだろう。



一方で

『何でそんなに“普通”に話ができるのよ。』

そこまで気持ちを切り替える事が出来ずマリーンだけは悶々としていた。



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