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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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教会に向かう

湧水の広場に戻ると老婆と聖者の盾のメンバーが待っていた。

当初ユウキが心配していた様な“無法者と脅されている老人”と言う事はなく、親しくはないが敵対もしていない。


「すまなかったね。」

老婆が謝ってきたのでユウキとマリーンは訳が解らず顔を見合わせた。

「”あんた達の為だから”と言うので信用したんだが、迷惑をかけたみたいだからね。このバカの事は子供のころから知っているけど、義侠心だけはあった筈なのにとんだ見込違いさね。」

「スザナ婆さん・・・バカはないだろう。」

すかさず苦情を言うダンダールを、老婆・・・スザナは深いため息と共に睨みつけた。

「ケンカはする、物は壊す、店の物はかっぱらう、挙句の果てにはアレトゥーザ様の祠にションベンをした事もあったね。ここはアレトゥーザ様のお告げで造られた場所だからと何度も言い聞かせていたのに、『神様が怖い』の『怖くない』のでそんな事をした人間をバカと呼ばなくて何と呼べばいいんだい。」

スザナは当時の事を思い出したのか、一日中働いた後の様にそれは疲れた様子を浮かべた。


「なぁ・・・アレトゥーザ様って清らかで慈悲深いけど逆鱗に触れると神罰は凄まじかったよな・・・ダンダールさん・・・ションベンなんか掛けてよく生きていられたな。」

傍らで話を聞いていた他の男たちが急にザワ付き始めそんな事を呟いている。

中には自分の身に置き換えて怖気を振るう者さえいた。


禊ぎ(みそぎ)をさせたのさ。」

遠い目をしたスザナが呟きに答えた。

「当時の大人が相談して、償いをすることで神罰を散らそうとしたんだよ。」


「あれはそんな生易しいもんじゃなかったぞ。真冬だというのに一晩中素っ裸で祠の掃除をされられて、おかげで高熱を出してその為に死にかけたからな。」


「そこまでしなきゃ危なかったのさ。結局、神罰の為かこんなグータラになってしまったけど命があるだけ感謝するんだね。」


アレトゥーザは泉の女神であるのと同時に湧き出る清い心の象徴として広く知られている。

本当に神罰があったかどうかは解らないが普段のダンダールの事を知っていれば少なくとも加護を与えられている様には見えないだろう。


「あんたはバカだけど義侠心まで失くしちゃいないんだろう?だったら小さい子を泣かす様な事をするんじゃないよ。」


最後に『いいね!』と念を押し、ユウキとマリーンには『気をつけておいき』と言ってスザナは家の中に入って行った。


「ったく、勘弁してほしいぜ。」

昔の話を蒸し返されて酷く居心地が悪そうだったが、なんだかんだと面倒を見てもらったスザナには頭が上がらないダンダールだった。



居合わせた者達はダンダールの意外な一面に感心していたが、どこにでも人の弱みを見つけたら踏んでみようとする者はいる。


「素っ裸で掃除・・・」


人形が喋れたらこんな感じなのだろうか、感情的な部分は一切交えずに呟く者がいた。

声を聞いただけでは何と言う事はないのだが、ニィッと切れ上がった口元やおもちゃを見つけた子どもさながらに目を爛々と輝かせる様子を見てはダンダールの今後の待遇が思いやられた。


「とりあえずだ、坊主とお嬢ちゃんに今の状況を説明しておくぞ。」

殊更大きな声で話し始めたダンダールだがアスミの方は見ようとしない。

たぶん、見たら負けなのだろう。


ダンダールがユウキとマリーンに向き合い、今までの事を話していく。

視界の隅に『ふふふ・・』と笑っているアスミが居るが気にしない事にする。


「何というか・・・俺の勘だが、今回の依頼はどうにも胡散臭い。」

ダンダールの脳裏に妖艶な美女が浮かぶ。


「お嬢ちゃんを連れて来いと言う理由も一見まともそうだが、何か別の事を企んでいる様に思う。それに、仲間をかばう訳じゃないがアリオは意味もなく斬り掛かる様な奴じゃない。普通じゃないと言うか、何と言うか・・・ああっ!アーキスがいれば上手く言ってくれるんだが、何かが歪んでいる気がするんだ。」

アーキスとは今日は風邪で寝込んでいるキャラバンのリーダーだ。

感覚派でひねくれ者のダンダールと違い、理論派で実直な性格をしており、キャラバン聖者の盾の顔と言える。

こんな時、状況を整理して方針を決めたり周囲に上手く説明をしてくれるのだが、いない事にはどうしょうもない。


仕方なくため息をついたアスミが補足した。

先程までの“あぶない人形”の様な態度は見事に切り替えている。


「情報を集めていますが、今日に限って普段からは信じられない様な奇行や犯罪を起こしている例が多数見受けられます。

どの事例でも“教会から帰った者”が“周囲の状況を一切考慮することなく”“何かに取り憑かれたかの様に”行動している反面、“目的を達した後は通常に戻って酷く後悔している”事が共通しています。」

アスミの補足を聞いて、ユウキの脳裏には顔を歪めて斬り掛かってきたアリオの姿を思い浮かべていた。


ふと気づくとこちらを見ていたアスミと目が合った。

「話を聞いた限りでは、アリオの状態も同様の事例に当たると思われます。そして、推測ですがマリーンさんにも思い当たる節があるのではないでしょうか。あなたを探している時に白いワンピースを着た少女が一心不乱に走っているのが目撃されており、顔見知りが声を掛けても気づかなかったと言う証言もあります。今は平常に戻っている様ですのでどこかで目的を達したと思われるのですが如何でしょうか。」


最後の一言で真っ赤な顔をした少女に視線があつまった。

マリーンの方は言葉にならないらしく、『あの・・・』とか『それは・・・』とか意味不明の呟きが聞こえている。

しかし真相に気づいた大人達はマリーンと隣りのユウキを見て微かに笑った。

一方、空気を読まないか、解っていて敢えてなのかダンダールだけは『へえ~、なるほどね~』と言ってあからさまにニヤニヤしていたが、マリーンが俯いた頃にはアスミに殴られて飛んで行った。

マリーンにとって唯一救いだったのは肝心のユウキが気付いていない事だ。

“子供だから”ではなく、愛情を与えられなかったユウキには“人から好かれる”感覚が薄かったのだ。


「お嬢ちゃんについては教会に戻ってシュプリント夫妻の所に送り届ける。教会の事は話してあるし、仮に良からぬ事を企んでいる奴がいてもシュプリントほど名の知れた家においそれと手出しできるものではない。当面ジョージ・シュプリントの庇護下にいればお嬢ちゃんに危害が及ぶ可能性は少ないと思う。」


「問題は坊主の方だ。アリオの時に使った閃光で被害を受けた奴らの中に裏社会の人間が混じっていたらしいくてな、結構な人数が躍起になってお前を探し回っているらしい。奴らは面子を大事にするから捕まったら子供でも拳骨一個と言う訳にはいかないからとりあえずはゴーザさんを探して後の事をお願いするしかないと思う。英雄の伝手なら裏社会の上層部とも話がつけられる筈だ。この件については、元々うちのアリオが発端だし、あの場で不用意に名前を出してしまった俺の責任でもあるからゴーザさんの所までしっかり送り届けさせてもらう。」


周囲を見回して全員が状況を理解していることを確認する。


「じゃあ、まずは教会に向かう。お嬢ちゃんと坊主を中心にして”矢じりの隊列”、要には俺が入る。アスミはセンターで子守だ。お嬢ちゃん達はアスミと一緒にいて指示に従ってくれればいい。やくざ者の襲撃もあり得るが極力戦闘を避けて目的地まで急ぐ。」


ダンダールの指示で手慣れた様子の大人たちは動き始めた。



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