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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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聖者の盾

荒い息を吐きながら座り込んだユウキは床に沈み込みそうな疲労を感じて動けなかった。

全力で殴り合いを演じたので肉体的な疲労はもちろんあるのだが、気持ちが落ち込んだ事で身体の中から芯棒が一本なくなってしまったかの様に感じている所為(せい)だ。


『糸の緩んだ人形みたいだ』自嘲を込めてそんな風に考えてしまう。


自分はもっとできると思っていた。

何年も研鑽してきた戦闘スタイルは生半可な者には負けない自信があったのに蓋を開けてみればマリーンの奇策が無ければじわじわと追い詰められていたし、最後の場面でアンナが助けてくれなければ床に転がっていたのは自分だった筈だ。

十全な状態であれば・・・ドールガーデンとタルタロス・サーキットを使えていれば状況は異なったかもしれないがいつも都合のいい状態で戦える筈もない。

むしろ“不利な状態で戦わなければならない”場合こそ“負けられない戦い”になるのではないだろうか。


『もっと強くならないとな・・・』漠然とそんな風に呟いた。



妙に力の入らない身体に鞭打ち立ち上がる。

沈む気持ちに引き摺られるが、やるべきことはやらなければならない。

「アンナさん、迷惑を掛けてごめんなさい。大丈夫ですか?」

「まだ目がチカチカするけど大したことはないわ。そんな事より私の方こそ助けるのが遅くなってごめんなさいね。マリーンちゃんもいい判断だったわよ。」

「いえ、危うく足を引っ張る所だったのに偶々上手くいっただけですから。」

「そんな事ないわ。すっごくいいアイディアだったわ。」


興奮冷めやらぬ女性二人の会話は終わる様子がなかったが、まだ事態は終わっていない。

「アンナさん、こいつの仲間にお婆さんが囲まれています。助けに行かないと。」

ユウキのドールガーデンには相変わらず椅子に座っている老婆と取り囲む人の姿が観えている。

何かをされている様子はないが時間が経てばどうなるかわかったモノではない。

「そのことだけど、あなた達はいいから隠れて居て。どんな事情があるのか知らないけど子供がこんな事に関わるべきじゃないわ。大丈夫!お義母さんはあれでも凄く強か(したたか)だからそう簡単にどうにかなる人じゃないわ。それに、近所の人や通りにいる人たちに声を掛ければきっと助けてくれる筈だから。」

しかし『それがいい』と言って入口に向かったアンナはちょうど入口から入ってきた人影に遮られる。

女性らしい曲線と実用的な機能美を備えた肢体は凜と伸び、整った顔立ちも相まって彫刻の様な印象を見る者に抱かせる。

アンナを押し止める為に腕を上げる動作さえ舞うように滑らかなのだが、なぜかユウキには生身ではなく銀で出来ている人形の様に思えてならなかった。


その女性は室内を見回して相変わらず黒い塊のままのダンダールを見つけると言いたい事の全てを込めた様なため息を吐いた。


「その方法はあまりお勧めできません。」

内面を感じさせない話し方は増々(銀製の)人形めいた印象があった。


ユウキがゆっくりと右目を閉じると仮面を被った様に表情が消え、代わりに嵩上げされた力が四肢に満たされる。


表にいる時にこの女性の事はドールガーデンで捉えていたが、通りを行く探索者の一人として特に気にはしていなかった。

それなのに何の注意も抱かせることなく、気づいたら家の中にいる。

動作に澱みがなく流れるように自然である為なのだが、これが敵対者として目の前にいるのであればダンダール以上に警戒しなければならない。

ユウキは腰の剣を抜いて構える。

打ち合う事も出来ない偽物だが見た目で解らなければ牽制になるだろう。


一方マリーンはさり気なくアンナの方へ寄っていく。

“頼りにする”、と言うのではなく相手がアンナかマリーンに向かってきた時に一人では対処できないと考えての事だ。


ジリジリとこちらの準備が整ってく事は理解している筈だが、(銀製の)人形めいた美貌は慌てる様子はなかった。


「初めまして。私はキャラバン聖者の盾(セイント・シールド)所属のアスミ・エレファースと申します。この度は私どものアリオ並びにそこに転がっているダンダールがご迷惑を掛けました事、誠に申し訳ありません。」

内面を感じさせない事務的な話し方だが大げさな表現をされるより好感が持てる。 


“聖者の盾”と聞いてアンナは詰めていた気持ちを緩めた。

カウカソスではそれなりに名の知れたキャラバンなのでその評判に思い至ったのだ。


元々、探索者と言うのは無法者の集団ではない。

仕事の性質上、リスクが高く戦闘力を求められる事も多いがこの国の認可を受けた立派な国家資格保有者、言わばエリート集団に他ならない。

そして数年ごとに資格の更新試験があり、その際に重犯罪の有無を魔導具で調べられるのでこの優遇された仕事を続けたかったらおいそれと違法行為に手を染める事は出来ないのだ。



「迷惑を掛けたと思うならそいつを連れてすぐに出て行ってもらえないかな。」

「そうしたいのは山々なのですがこちらにも事情がありまして“直ぐに”と言う訳にはいかないのです。」


『来るか!』

と身構えていたが女探索者・・・アスミは微動だにしなかった。

「まず誤解を解いておきたいのですが、ご老人とは裏口で会いましたが、事情を説明して了解を頂き、代表者一人が丸腰で行く事を条件に通して頂きました。

事情を話に来た筈のダンダールが殴り合いに及んだばかりか負けて転がっているのはこちらとしても全く予定外の事です。」

アスミは一旦話を区切ると、今だに黒い塊に包まれているダンダールを一瞥した。

そこには倒れている仲間を心配する気配は微塵もなく、必要があれば平然と踏んで行くのではないかと思わせるほど何の感慨も見られなかった。



「私たちは教会の依頼で指示された人を司教の所に連れて行く事をしており、マリーンさんもその様に指示された内の一人です。

あなた方が聖火を離れた後、直ぐに追いかけたのですが、シュプリント夫妻とは会えましたが肝心のマリーンさんが居なくなっていたので人を繰り出して探していた所です。探している最中にあなたと面識のあるアリオが何故あの様な事をしたのかはわかりません。

しかし彼は私たちと会った時には自分のしたことを非常に悔いていました。」


事のあらましを語るアスミに不審な様子はなかった。

マリーンに確認したがアリオが所属していたのは確かに“聖者の盾”だというし、“教会のボランティアなどをしている至極真面目なキャラバン”だと言う話はユウキでさえ聞いた事がある。


「あなた達が表に出ない方がいい理由ですがユウキくんが自衛のために取った行動で多くの人がパニックになっている上、こちらのミスであなたの名前が出てしまいました。一部の興奮した人たちが犯人捜しを始めそうだったので今はまだ人前に出ない方が良いかと判断します。」


情報が足りなくて確認できない事も多いがロジックサーキットを3系統使って検証していてもアスミの話に不審な点は見当たらない。

むしろ彼らの行動を見ていると辻褄の合う事の方が多い。

ユウキは目を閉じて何かを考え込んでいたが、直ぐに両目を開けて肩の力を抜くと剣を鞘に納めた。


「この黒い人には言いたい事もあるけど、一まず信用します。」

「ありがとうございます。では、この無駄に邪魔な黒い物はこちらで回収させて頂きます。



それで!無駄に黒い人には何か言うべきことがあるのではないですか。」

後半は床の上の物を見下ろしながら、かなり剣のある言い方で話しかけた。

見下ろす眼つきは無能な者に対する心底侮蔑した物で、『捨てられる物ならどこか遠くへ捨ててしまいたい』と言っている事がユウキ達にさえ伝わった。

「もう意識が戻っているのでしょう?『ミスをしたのは自分だから』と説得役を買って出た人が何をどうしたら保護対象者と殴り合いをする羽目になるんですか!あまつさえ、仮にも探索者でありながら子供に負けて伸びているなど並みの神経の持ち主であればその黒い中から一生出てこない事でしょう。」

「そうポンポンと言わないでくれよ。お前は見ていないから解らないだろうがこの坊主たちの実力は下手な若手より余程上なんだよ。」

「あなたは下手な若手にやられていい立場ではないでしょうが!そもそも、あなたと言う人はですね・・・」

「解った、解ったからそろそろ助けてくれ。」

「助けろと言われてもその“闇の腕環”を止めて貰わないと状況が全く解らないのですが。ああ!あなたでも流石に恥ずかしくて出てこられないと言う事ですか。普段からはとても思いつかない事ですが失敗は人に多くの事を学ばせると言いますし、極々僅かでもあなたにそのような所があると分かっただけでも今回は良かったという事でしょう。」

まさに一言いえば何倍にもなって返ってくる。

「いや・・・そう言う事ではないんだが・・・」

「なんですって!ではあなたと言う人は経験から何も学ぶことも出来ず、人に顔向けできない様な状況でも『恥ずかしい』と思うこともないほど厚かましい人間だと、そう言うのですね。」

「だから・・・」



「そろそろ助けてあげた方がいいんじゃないかしら。私も思いっきり殴っちゃってるし。」

更に言い足そうとしている所を見るに見かねてアンナが口添えした。

それでもまだ口を開こうとしたが、思い直して態度を改める。

「そうですね。このような無駄な物体があってはご迷惑でしょうからさっさと片付ける事にしましょう。ではダンダールさん、何度も言っていますが助けるにも状況が確認できないので闇の腕環を止めてください。」

「だからっ、粘着ツタが張り付いて身動きが取れないんだよ!スイッチに手が届かないからアスミが探りで止めてくれ。」

「それでは、あなたはこの私に『見えない状況であなたの身体をまさぐり、羞恥心に身悶える姿を眺めたい』とそう言うのですね。」

「いやっ、そんな変態じみた事を頼んでいるつもりはないんだが。」

「意識もせずにそんな事が言えるとは何と恐ろしい人でしょう。」


延々と続く掛け合いにユウキとマリーンは呆然としている。

アンナは他のお客がいつ来るともしれないし、面倒臭くなってきたので語気を強めて再度促した。

アスミも流石にまずいと思ったのか今度は何も言わずに黒い塊に手を伸ばす。

「あっ!そこじゃない。もっと上だ。」

「上と言われてもどちらが上だかわからないのですが。」

「そっちじゃな!×○△□」

ダンダールが意味不明の言葉を話し、アスミが“何か”を掴んだ手を引っ込めてゲシゲシとダンダールを蹴り始めた時、ユウキだけには『ぐにゅっ』と言う音が確かに聞こえ気がする。


姿を現したダンダールが裏の冷たい湧水を掛けられたのはそれからしばらくしてからの事だった。




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