武装?
12~16話を修正しました。
追跡者の事をユウキが認識している様に少しだけ状況を変えています。
移動する服の中から現れたそれはユウキの心を捉えた。
使い込まれた黒革のジャケットと同じ黒革のズボン、目を引く赤茶色のマント、並んだボタンは鈍色に光り、物入れの付いたベルトの他に剣帯と小ぶりな小剣それに黒革のグローブが添えられている。
そのままコルドランへ行けそうな探索者の装備。
動き易く、また探索者の多いカウカソスであれば街中で着ていてもそれほど違和感がないだろう。
少なくとも今までアンナが取り置いた服より無難に思える。
ユウキが見守る中でその服はゆっくりと近づき、
そしてそのまま遠ざかっていった。
「アンナさん、ちょっと止めて!」
なぜか魔導具を止める様子のないアンナに声をかけて少し先に流れてしまった服を自分で取りに行く。
「これじゃダメですか。サイズは合いそうだけど・・・もう買う人が決まっていたり、もの凄く高いのかな?」
「え~と・・・それはちょっと問題があって・・・まあいいかな試しにちょっと着てみる?」
楽しそうなユウキを見ているとダメだと言い辛かったのか、とりあえずジャケットの下に着るシャツを渡して隣りの部屋に送り出した。
「っふふふ・・ユウキなにそれ・・・」
着替えて来たユウキを見てマリーンが笑いを堪えている。
アンナも申し訳ない素振りはしていてもどこか楽しそうだ。
ユウキは探索者然とした装いに腰に剣を下げているのだが、赤茶色のマントを旗めかせ、身体中に配置されたボタンが不規則に明滅しており、まるでお祭りの時の飾りの様に派手々々しい状態になっていた。
「ごめんね。その服はね、うちの子が着た“英雄なりきりセット”と言って、仮装パーティーの時に使った物なの。本当はベルトにあるスイッチで魔導具を点けたり消したりできるのだけど壊れたのかボタンが光るのを止められなくなっちゃっているのよ。」
いくらユウキでもこの格好で人前に出る気にはなれないし何より人目を集めることは間違いない。
だが問題があるのはそこだけなので諦める気にはなれなかった。
「これを売ってください。」
「えっ、本気?ユウキくんがいいなら構わないけど・・・。そうね、あまり売れる当てもないものだから銀貨5枚でいいわ。」
サービスのつもりなのかアンナはほとんど原価を提示していたが、それでも5人家族が2~3日生活できる額に当たり、子供が気軽に払える金額ではない。
しかし今日はリューイにお土産を買うつもりでいたのでその位は持っていたはずだ。
財布を開くと銀貨の他に小金貨が1枚入っていた。
露店の店番をしていた時にアンナから預かったお金だ。
『後であのおじさんに返しに行かないとだな。』
あの店を覗いてから思いもかけない事に巻き込まれて、今朝までは顔も名前も知らなかったマリーンと一緒にこうして服を買っている。
何とも奇妙な巡り合わせに思わずため息が漏れた。
ユウキは銀貨を5枚出してアンナに渡すとナイフを借りて光っているボタンをはずし始めた。
幸い光っているのは飾りボタンだけなので着る分には支障がない。
外した10個のボタンはポケットに入れて、ベルトのスイッチを切ると至って普通の格好に落ち着いた。
「そうそう!その剣だけどね、セレーマを込めて振ると赤い水が出るから気を付けてね。」
試しに剣を抜いてセレーマを注いでみるとジワッと赤い液体が刃の周辺に湧き出してきた。
どうやら剣の中に何ヶ所かエリアルを仕込んであり、ネウロン線(セレーマを伝える事ができるエリアルの植物繊維)で握り部分からセレーマを伝えているらしい。
「さっき言ったけど、その装備一式は“英雄なりきりセット”だから剣もおもちゃなのよ。ゴーザさんの必殺技の“飛炎斬”の真似なんだけど、剣を振ると・・・火は危ないから赤い水が・・・ジュバって飛ぶし、服のボタンは鮮やかに光るしでそれは派手になるのよ。まぁ、ボタンは取っちゃったからもう光らないんだけどね。それと剣の中は木だから喧嘩に使ったらすぐ折れちゃうからね。ちなみに赤い色はしばらくすると消えるから心配いらないわよ。」
予想外の情報が追加された。
『おじいちゃんのマネだったのか。見たことがある筈だ・・・でも、これで表通りに出られるしいざという時に身を守る事ぐらいはできるかもしれない。あとはマリーンの格好だけど、どうしようかな。』
先程着替えたマリーンの服装は白いロングスカートと淡いピンクのジャケットでかわいさを強調した装いなのだが、どう見ても動きにくそうだった。
普段であれば良い選択なのだろうが、この後、おそらく駈け回る事になるのでもっと動きやすい服にしたかった。
色々試してみた結果、ユウキには少し小さかったが男の子の服に着られる物が見つかった。
この近辺の子供が普段着にしているありふれたズボンとシャツなのだが着替えたマリーンは美少女・美少年とも違う、どこか見る者の心の安定を失わせる美しさを見せていた。
「これは・・・通りを歩けばみんな振り返るんじゃないかしら。女の子の服を着ていた方が目立たないと思うわよ。」
動きやすくないとダメなのだが、これはこれで問題がある。
結局、大きめの帽子を目深にかぶり、髪の毛を押し込む事でちょっと見ただけではそれ程目立たない装いに落ち着いた。
これで目立たない格好に変わることができた。
わずかながら自衛手段も手に入った。
後は大通りに出て人混みに紛れて教会まで移動するだけだった。
「着替えが終わったなら一緒に来てもらおうか。」
その男は室内の僅かな暗がりから滲み出す様に現れた。




