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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
閑話 壊れた英雄

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壊れた英雄 13 英雄の復活

「ユウキは何をやっているのだ・・・」


ゴーザとアスミは捕喰肢と足元の魔物に対処しながら少しづつ吸精大樹の中心、ユウキの囚われている樹幹に近づいていた。

この脅威を終わらせるには大樹を切り倒す必要があるのだが、中心に近づく程に攻撃は苛烈を極め、如何にゴーザと言えども一歩を踏み出すタイミングが簡単には見つけられずにいた。

ユウキのいる檻から何度も何度も刃と化した風が放たれ、直前にある捕喰肢を攻撃したのはそんな時だった。


「確かに『足掻け』とは言ったがこれは余りにも酷いな」。


吸精樹は捉えた獲物に麻痺毒を注入する性質があるので恐らく身動きが取れなくなっているのだろうが、放たれた風の刃は悉く捕喰肢の上を通り過ぎて行き、まるで遊んでいる様に見えた。


「ユウキ、風刃は邪魔だ。当たらないなら攻撃は止めろ。」


間もなく大量の群体蜂(アル―ス)が押し寄せ、文字通り死闘を演じる事になる。

慮外に気流を乱されては操る炎や風がどの様に影響を受けるのか予測しきれない。


「でもアウクシシーを・・・この精霊を倒さないと何も終わらないのに風刃が効かないんだ。」


「精霊だと・・・」


ゴーザの目にはそんなものは何処にも見えない。

普通であれば緊迫した状況でユウキが錯乱していると考えるのだが、生憎とフェンネルの精神構造は滅法頑丈にできている。

更にユウキにはタルタロス・サーキットがある。

精神の過負荷を強制的に排除できる能力があれば錯乱するほど心を乱すとは考えられなかった。

それにユウキの風刃は捕喰肢の上、半シュードの虚空を()()()捉えている。

錯乱して狙いを外しているのではなく、冷静にそこを狙っている。

ならば、ユウキの言葉は全て事実であり、その上で見えているのもが真実ではないのだ。


「ユウキ、お前には何が見えている。」

「精霊が居るよ。幼い子供の姿で・・・あっ今、僕を見た。」


「精霊か・・・それが見えるのだな。」

「そうだよ。今、こっちに寄って来た。風刃!くっ、何で効かないんだ。」

「良いかユウキよ。精霊は神と同じように実態を持たない存在だが、神とは異なって物質世界に依存している。だから自分と同一の存在である幻視体や顕現体を作る事はできない。今お前に姿が見えるのは捕速器官を通して繋がっているからだ。見えている物は幻、お前を捉えているこの吸精大樹こそ精霊の憑代だ。」


その直後、一帯は黒い魔物の群れに埋め尽くされ、ゴーザとアスミは木炭を練った様な黒い球体に覆い隠された。


「おじいちゃん!アスミさん!」


「儂らに構うな。己の()すべき事を()せ!」


その言葉だけを残してゴーザは口を閉ざした。




◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆




ゴーザが右手に持つ大剣は紅蓮の炎を上げ、一振りで数百の蜂の魔物(アピス)を消し炭に変えた。

巻き起こす太刀風と炎の熱気が渦となり、更に数倍が巻き込まれて動きを止める。

殲滅力では大剣に劣るものの、左手の水切りが一閃すれば数十が斬り分けられて地に落ちる。

その切れ味は風さえも斬られた事に気づかない程滑らかに空を走り、一瞬も止まる事のないそれは最早全てが一太刀とさえ言える程縦横無尽に動き回ってアピスも地を這うネズミも捕喰肢も、その一線上に有る物全てを斬り捨てた。


アスミの持つ処女細剣(パプテノス)はその華麗な刀身に似合わず大物を仕留める剣だ。

一度切っ先が刺さりさえすれば魔導兵器(マギア・ケイタ)の能力で全てを引き裂いて大穴を空ける。

ダンダール辺りはその様子を『不浄を拒む生娘』の様だとも『奪われた処女の跡だ』とも揶揄してはアスミに殴られていたが、その能力はどんな魔物であろうとも一撃で形勢を決める力を秘めていた。

だが一方で群体の魔物を相手にするには相性が悪く、物量で押されると対応しきれなくなってしまう。

捕喰肢に対しては針葉の要となる中心を刺して引き裂く事ができるが、斬撃主体の剣ではないので群体蜂(アル―ス)に対してはほとんど効果がない。

今も捕喰肢に対応している内に黒い影が迫って来たがこれを押し返す術がアスミにはなかった。

しかし舌打ちしたアスミが向き直る前に乱れた風が近づく群体を一瞬押し返した。

この隙を逃すことなく腰の物入れから取り出した物を投げつけると『ぼわっ』と華が咲く様に炎が広がり、羽根を焼かれた蜂の魔物(アピス)は雨の様に降り注ぐ。

華炎筒(かえんとう)―――火力自体は大したことはないが小物を焼いたり怯ませて隙を作る魔導具だ。

蜂の魔物(アピス)の存在は予想していたのでアスミは十分な量を用意していた。


「助力、感謝。」


振り替える事無く声を掛けても答えはない。

ゴーザの左の手で乱流の指輪タービュランス・リングが華炎を受けて赤く光った。




◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




二人の姿は全く見えなくなっていたが、ドールガーデンを通してユウキは全てを観て息をのんだ。

ゴーザの右手と左手はそれぞれの武器に合わせて最適に動き、更に大剣の炎と指輪の風を完全に制御していた。

そして、アスミの動きさえ含めたその場の全てが、まるで決められた演武を舞っている様に澱みなく流れてゆく。


「おじいちゃんは壊れてなんかいなかった。前よりも強くなるために訓練をしていたんだ。」


人にとって『老い』とは何なのか。

気力の衰え、体力の衰えは齢60を超えた者にとって血を抜き取られる様に如実に感じ取る事が出来た。

今、身を削る思いで力を得てもそれをいつまで持ち続ける事が出来るのか計算すれば余りの収支の悪さに虚しささえ覚えるだろう。

だが強くなりたいと思う事は計算出来るものではない。

人の身は有限なれどその想いが突き動かす限り人は前に進み続ける事が出来る。


元々ゴーザのロジックサーキットは3系統。

以前であれば左右の剣と1つの魔導具の3つの行動制御を行っていたが、いま目の前に繰広げられているのは二つの剣、二つの魔導具、背中合わせのアスミとの連携と少なくとも5つの行動を制御してみせていた。


いつの間にかユウキは涙を流していた。

謂い知れぬ感動に満たされてユウキは己の為すべき事を思い出した。





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