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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
閑話 壊れた英雄

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壊れた英雄 11

「風刃!」


ユウキの左手に握られたナイフから、重ね掛けで力を増した風の刃がアウクシシー目掛けて放たれた。

元々この為に作られた魔導兵器(マギア・ケイタ)はユウキの膨大なセレーマを『神殺し』の風に変えて無邪気(?)に笑う幼い姿に迫って行く。

精霊と名乗ったアウクシシーが神と同質の存在であるならば、この一撃を受けて無事でいられる筈はない。

だが見えない必殺の一撃は、ツタを傾けただけでヒョイと躱されてしまった。


「ふ~~~ん。君、面白い事をするね。でも少し大人しくしていてほしいな。」


幼い顔がニッ!と笑うとユウキの足元から感覚が無くなって冷たい屍の様に変わった。

元々身体は麻痺して動けなくなっていたが、まだ確かな感覚はあった。

それが泥沼に沈んでゆく様に緩やかだが着実に虚無へと塗り替えられてゆく状況はユウキに本能的な恐怖を呼び起こさせた。

感覚の喪失は首元まで進み心肺機能も著しく影響を受けているので、もしも平静を失って騒げばその行為がユウキを冥界へと送り出しかねなかった。

だが、タルタロス・サーキットを開いているユウキが恐怖に囚われる事はない。

良くも悪くもいつも通り状況を分析してどうすればいいかを探って行く事が出来る。


「感覚はないけど身体に変化はない。脈拍は弱まっているし呼吸も苦しいけど考える事はできる。セレーマは・・・問題ない。肩までは感覚が無いけど指・・・いや肘くらいから先は動かせるみたいだ。これなら・・・」


(風刃!)


声は出せなかったが魔導兵器(マギア・ケイタ)の発動に音声は必要ない。

最初にユウキが叫んでいたのは、まだ慣れていない武器だったので発動のタイミングを合わせる為だ


問題なく飛び出した斬撃はユウキの足に絡みついた白い枝根を切断した。


「感覚は・・・戻らないか。」


このまま戻らないかもしれないと不穏な未来が頭を過るが、湧き上がる焦燥感はもれなくタルタロス・サーキットに流してしまえばいい。


ドールガーデンには苦戦するアスミが見えていた

声を出せたなら『自分に構わず逃げて!』と伝えたかったが出来ないものは仕方がない。

それに元凶であるアウクシシーを放置して逃げる訳にはいかない。

子供の様な外見と言動の中には何をするか予想のつかない不気味さがある。

ここで逃げられたとしても執拗に付き纏って騒ぎを起こすに違いなかった。

この神素の空白地帯で可能なのだから、それこそ街中に第二、第三の吸精樹を出現させる事もあり得るのだ。


力を込めてナイフを握り直し、肘と手首の動きだけで狙いを付けるとロジックサーキットを駆使して風の刃を連続で放つ。

元々切断力に重きを置いていた訳ではないので重ね掛けをしても針葉籠を壊す事も幹や捕食肢を傷つける事もできなかったが、増幅された神殺しの風は攻撃範囲が広くなってアウクシシーを追い詰めて行く。

そうして遂に逃げ道を塞がれた精霊に向けて神殺しの風が放たれ・・・


「無駄な事を・・・」


その瞬間、幼い顔は確かに笑った。

そして、一瞬で消え失せると何事もなかった様に別のツタの上に現れた。

目標を失くした風の刃が虚しく通り過ぎて太い幹に当たったが、固い表皮にはキズ一つ付ける事はできなかった。


その後、アウクシシーは苦も無く避けられる攻撃でも嘲笑う様に消えてみせた。

実際にそうだったのだろう。

一瞬で位置を変えると「こっちだよ」と言って手を振って見せさえしたのだから。




◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「引き裂け、処女剣(パステノス)!」


その叫びが切っ掛けになったのだろうか、アスミの剣が届く寸前にその捕食肢は大きく反り返って切先を回避した。

アスミの目が驚きに見開かれ、振り回されたユウキが針葉籠の中で転がされる。


「あははっ、残念。」


楽しそうな声が響く。


時間が止まったかの様な一瞬の停滞の後、引き絞られた捕食肢は最前に倍する力で元に戻り、打ち払われたアスミは地面を跳ねて転がって行った。

針葉籠にいるユウキも無事では済まない。

小さくはない衝撃が動けないユウキを針葉籠に叩きつけ、切れた額から血が滴り落ち、妙な具合に籠目に挟まった右足は折れて力なく垂れ下がっている。

良くぞこの状況で武器を落とさなかったものだが、これはゴーザに叩き込まれた日ごろの訓練の成果だろう。


意識が一瞬途切れた為にタルタロス・サーキットは閉じてしまったが、全身の感覚が麻痺しているので折れた足はの痛みがユウキを襲う事はなかった。


「ア、アスミさん・・・」

倒れたアスミがノロノロと立ち上がる。

ユウキの様に手足が折れている事はなかったが、口の端から血が零れ落ちる。

そのアスミの周りを3本の捕食肢が取り囲み、開いた針葉の(あぎと)が今にも喰い付こうとしていた。


「人間って本当に面白いね。僕たち神に敵う筈ないのに何で抵抗するのかな。」


荒い息で立つアスミを眺めながら独り言のようにアウクシシーが呟いた。


(お前は神じゃないだろう!)

と場違いな考えが頭に浮かんだが、ユウキがそれを言葉にする事はなかった。

ユウキに向き直ったアウクシシーがため息を付きながら近づいてきたからだ。

(吸精樹を操っているアウクシシーを倒せばアスミさんが逃げる隙ぐらいは作れるかもしれない。風刃は避けられたけど、あの女神(トードリリー)の時の様に刺して直接なら可能性はある。)


今、ユウが左手に持つのは玩具の木剣ではない。

ゴーザが考え抜き、選びに選んだエリアルを名工に仕上げさせた神殺しの為の武器だ。

刃物としての攻撃力こそナイフ程度しかないが、その隠された力を発揮すれば神に満たない精霊など一溜りもない。


「はぁ~。君も勝手に怪我なんかしないでよ。どうすれば神格を上げられるかはまだ分からないんだから、それまでは身体に気を付けてくれなきゃ困るよ。」


(自分で振り回した癖によく言うよ・・・)


最早アウクシシーにとってユウキの事は『自分の牧場で飼っている食肉用の家畜』程度にしか考えていなかった。

だから何れ(いずれ)殺すにしてもその時までは大事にするし手塩にかけて面倒も見る。


「これ以上は必要なかったけど仕方がない。チャンスは今回だけだろうし、もしかしたら手間暇かければそれだけ見返りが大きくなるかもしれないしね。」


ギチギチと大樹が軋み、更に一回り大きさを増して行く。

樹高も周囲の木々を遙かに超えて行き、遠くスタヴロスからでも確認できるだろう。

何よりも大きな変化は幹の根元に針葉に閉ざされた大きな(うろ)が出来た事だ。

牢屋の様なその空間にはツタで吊るされた青白い灯りが灯っている。


討伐難度S

吸血ツタの最終形体でステージ5の魔物

吸精大樹の古木


動き回らないので災害認定こそされる事はないが、一度発見されれば立ち入り禁止区域にするか王国騎士団が出動する以外に対処はできない。


その虚の入口が開くと、捕食肢が伸びてユウキをその中に放り込む。

灯りを吊るしたツタがスルスルと伸びてユウキの折れた足に近づいて行く。


「クッ!」


顔を顰めたユウキが幽かに呻いた。


「ああっ、人間の骨はこのまま放置しておくと動かなくなるんだっけ?もう、本当に手間を掛けさせないでよね。」


二本の捕食肢が虚に伸びて、丁寧にユウキの足と腰を挟み込み、おもむろに引き延ばした。


「ぎゃぁぁぁぁーーーーーー!」


痛みに耐えかねてユウキが声を上げ、すぐに右目を閉じてタルタロス・サーキットに痛みを流して口を閉じる。

浅く早い呼吸と早鐘の様に脈打つ心臓に眩暈がしたが、()()()()()()()()身体は急な酷使に耐えきる事が出来た。


「ユウキくん!」


「ァ アスミさん、逃げて・・・」


絞り出した声は届いたかどうか。

まだ息が荒いアスミがジリジリと近づこうとするのだが、取り囲んだ捕食肢が行く手を阻む。


「邪魔だな。あれはいらない。」


3本の捕食肢が同時に襲い掛かった。


「アスミさん!」


飛来した炎の斬撃が捕食肢を吹き飛ばす轟音が重なった。




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