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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
閑話 壊れた英雄

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壊れた英雄 10

アスミが駆けつけた時、吸精ヅタだった魔物が捻じり上がって幹となり、枝葉を茂らせた一本の樹木と化した。


討伐難度Cの魔物

際限なく再生する十数本の捕食肢で獲物を捕らえ敵を殺す待ち受ける罠(ラクエウス)・吸精樹。

コルドランの中層から下層であっても数十年以上の月日を重ねた末に辿り着く姿であり、それが変化する瞬間に立ち会うとなればコルドランの神秘に深い感銘を抱いても不思議ではない。

もっとも、実際に敵対する事になればむしろ絶望を抱かずにはいられないであろう。


『遭遇してしまったら即座に逃げろ。向かって来る捕食肢は多くて数本、本体が動けない以上距離さえ取れれば逃げ切れる可能性は低くはない。

だが、もしも掴まってしまったら諦めろ。それが自分の命でも、仲間の命でも・・・』


初心者を脱した探索者が先輩から教えられる型通りの教訓だ。

それは掴まってしまった仲間を見捨てても正しい選択なのだという事を意味している。

だから、その枝の一つに吊り下げられた見習いの少年を見捨てたとしてもアスミが咎められる事はないのだ。


アスミではこのステージの魔物を単独で討伐しようとしても死力を尽くして尚届かない可能性が高く、その上扱う武器も決して相性がいいとは言えなかった。

だが、攻撃をいなしながら捕らわれた者を助けるだけであれば可能性はもう少し上がるだろう。

探索者として非・合理的な行動をしている自覚はある。

アイスドールなどと呼ばれる普段の自分らしくない事も理解している。

それでもユウキを見捨てる選択肢を採る事はできなかった。


最初は似ていると思った。

まるで道具を持ち変える様に気持ちを切り替える少年の心の有り様が、少しだけ自分と重なる気がしていた。

違うのはの少年の心は熱く、自分は冷たく凍り付いている事。

拘る事のない、拘る事の出来ない心を持ちながら実に楽しそうにしている少年のことを歳の離れた弟の様に感じていた。


その少年に助けられた。

自分よりもはるかに弱く、幼い子供が自分の命も危うい中でアスミを助けに来た。

計算が合わなかった。

合理的ではなかった。

それでも自分とは少し違う少年の心が嬉しかった。

氷の仮面に僅かなヒビが入った気がした。


いつになく熱くなった心で襲い掛かる捕食肢を叩く。

斬る事はできない。

アスミの細剣(パステノス)では刃を当てた瞬間に折られてしまう可能性が高く、魔導武器(マギア・ケイタ)の能力で弾くしかなかった。

次々と襲い掛かって来る捕食肢を捌きながら絶えず動き続けていると言うのに呆れるほど僅かな距離しか前には進めない。

それでも半分ほども距離を詰めてこれからが一層大変になると気を引き締めている時に、更なる変化が起こり事態を深刻化させた。


一抱えもあった幹がメキメキを音を立てて更に太さを増したかと思うと、表皮は黒々と節くれ立って固く変わり、伸びた枝葉が見る間にアスミの頭上を覆い尽くして行く。

何よりも凶悪なのは捕食肢の先端にあった吸精葉が固く長い針葉と成って肉食獣の咢の如く蠢いていた。


「最悪だ・・・」


吸精大樹


討伐難度はAに跳ね上がり、幾つものパーティーが共同でなければ対処できない強敵だ。

最早アスミ一人でどうにかできる相手ではなかった。

しかも、頭上の枝からは新たな捕食肢が生え始めており、対応を間違えばアスミ一人でさえ脱出する事は出来なくなる。

だが急激なステージアップに伴って動きが緩慢になっているので今ならばまだ逃げ出す事はできるだろう。


「ユウキくん!」


叫びながら動きの鈍い捕食肢を避けて前に進む。

狙いはユウキを捉えている針葉籠の根元、そこに細剣を差し込んで魔導武器(マギア・ケイタ)を発動させて破壊する。


幸いにも動きが戻る前に距離を詰め、最後の一本を躱して目的の捕食籠の前に辿り着く事が出来た。

後は跳び上がって手を伸ばせば切っ先が根元に届く。


「引き裂け、処女剣(パステノス)!」


だがアスミは思い違いをしていた。

全てを躱したと思っていた捕食肢はもう一本残っていたのだ。

ユウキを閉じ込めていた捕食肢は大きく撓る(しなる)と、ユウキを閉じ込めた先端の捕食籠でアスミを打ち払った。



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