負け組勇者と残念魔王 ②
「すっかり、忘れていたな……」
体操服に着替え、運動場の隅。
体育座りをした数名の男子の集団の中に真勇人がいた。
今日は定期的に行われる能力測定の日だ。
能力測定とは、文字通り学生の持つ勇者としての素質を測定するもの。どの学生も基本的な身体能力が高いので、そこで測定するメインになるものが個人が持つ固有能力だ。
固有能力とは、そのままの意味で一人一人が持つ特別な能力のことになる。
火を出せる勇者がいるとしたら、水を出せるが火を出すことは出来ない。その逆に、火を出せる勇者は水を出すことはできない。
勇者としての実力を決めるのは、その固有能力の特異さ強大さが左右するといっても良かった
基本、勇者の素質があるものは、在学中に自分の固有能力を開花させるか、本来の固有能力をさらに昇華させるかのどちらかだ。
この勇者養成学園は、学年ごとにAからGの七クラスに分けられる。
はっきりと公言するものはいないが、入学試験の時点の成績順でクラス付けされている。順番の早いAを上位に考えて、真勇人やオリエのG組は、その中でも事実上の最低ランク――落ちこぼれを集めたクラスになっている。
勇者を目指す人間と言うのは、内にしても表にしても目立ちたいという願望を強く持っている人間が多い。そんな人間が、ほぼ役立たずと言われているG組に在籍するというのは厳しいところだった。
そのため、G組となることが決まった直後に退学するものが大半だった。しかし、それでも在籍することを選び続けたものがG組に入学して学園生活を続ける。
(かったりぃな)
まだ始まってもいないのに、真勇人は疲れた顔をみせる。
G組の能力測定は、他のクラスに比べて半分程度しかない。
その理由は明白。
――ねえ、みてみてー。あれ、G組よー。
――やだ、本当にこの時間に暇そうね。
クスクス、と笑い声を上げながら女生徒たち前を通り過ぎていく。
G組の男子一同は視線を泳がせたり、トイレに逃げたり、聞かなかったことにしたり、おしゃべりの声を大きくしたり、半泣きになったりと様々な反応をみせる。
真勇人にいたっては、あの体操服のスパッツがブルマに変わらないかなーと祈りを飛ばす。
G組が、他のクラスと違って、こういう奇異の視線を向けられる理由、それは。――G組の生徒は誰一人として固有能力を持っていないことだ。
これは勇者としては致命的な出来事だった。
確かに、この学園の生徒達は常人よりも身体能力が生まれもって高い生徒ばかりだ。その身体能力も、この学園に入って格段に増しているのも事実だ。しかし、ただ運動できるだけでは、魔物と戦うには大変に厳しい。
高速移動をする魔物が敵でも、全身に炎をまとった魔物が敵でも、口から光線を吐き出す魔物が敵でも……全てにおいて、己の身一つで戦わなければいけない。固有能力とは違う後付け的な魔術を応用しても、相手次第ではなかなか難しいところがある。
G組から勇者になった生徒も魔物討伐に参加することはあるが、補給係だったり連絡役だったりと、足手まといだと言われて戦闘に参加することもできない。
そう、G組は勇者になることすら叶わない劣等性の集団なのである。
「なあ、おい。真勇人」
クラスメイトの一人の男子が肩を叩き、真勇人に声をかけてくる。
「なんだよ」
「お前さ、卒業後とか考えているか?」
どうやら先程の女子からの声がきっかけで、自分達の将来の話になったらしい。
真勇人は、考えもせずに即答する。
「何も考えてない。……面倒くせえ」
「そればっかりだな」
「そういう、お前は何か考えているのか」
「どうせ勇者は難しいし、この学園を出たていうだけでも学歴には有利だし。……普通に就職かな」
悲しげに笑うと、再び他の生徒との談笑に戻る。
(コイツも、勇者になりたくて入学したんだよな)
眠そうにも見えるぼんやりとした目でクラスメイトを見た真勇人は、運動場に目を向ける。そして、その視線は一人の人物に釘付けとなった。――壬生オリエ。
ちょうど、短距離走を行っているところ。一人抜かし、二人抜かし、三人……能力者の中に混じって走るが、その中でもダントツの一位だった。
一切、息が上がる様子もなく、涼しい顔でタイムを報告を確認しているその姿は、他の人とは違う風格のようなものを感じさせた。例えば、貴族。例えば、王族。卓越した運動神経を発揮するオリエは、人でありながら人の何倍も上位の存在に思わせた。
真勇人にとってのオリエは、憧れの存在といっても良かった。