表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ドラゴンと召使いとお姫様

作者: 紅瓶

 親愛なる姫様、ああ、あなたはどこへ行かれてしまったのか。


 召使いであるガイウスは大空を駆けるドラゴンにまたがり、いまだにうじうじうじうじとしている。

「ええい鬱陶しい!しっかりせんか。わしが付いておろうが!」

 相棒を叱咤するドラゴンの背中に、ガイウスは「の」の字を書きはじめた。

「だってだって、いくら探してもいないじゃんよ、姫様」

 ガイウスとドラゴンのコンビは、すでに大陸中を駆けずりまわって三週間、実に二十三の国を渡り歩いている。


 ああ姫様。ああ姫様よ。ああ姫様。


 日に日に彼女を見つけられる自信を失っていく。こうして「の」の字を書く時間がすっかり多くなってしまった。

 なぜこんなことに――

 それは三週間前、昼下がりの出来事。

 ドラドラ王国の王宮で、それまで姫君の召使いとして大活躍していたガイウスは、今日も召使いとして大活躍してやるといった心意気で、意気揚々と、元気な声を張り上げて、食事を持って姫君の部屋のドアを開けた。

「お昼ごはんでーす!」

 その時ガイウスの目に飛び込んできたものは、抜け殻のベットと、解き放たれた部屋の窓と、窓辺に立つ黒ずくめの忍者みたいな男と、その男に抱えられて大きな目をさらに膨らませてぷるぷると震えている姫君の姿だった。

「ガイウス、たすけて!」と姫様。

「どちら様ですかっ!そこの黒い人!」

 黒い人は黒い布で頭全体を覆い隠し、目だけが見えている状態。人相はまるで分らなかった。しかし見えているその目からは、とても残忍な印象を受ける。

 どちら様なのか答えない黒い人を、ガイウスはやはり敵だと認識した。

 食器からおたまを取り、振り回しながら黒い人に突進する。

「姫様をかえせーっ」

「そうよっ。私をはなして!ガイウス、さっさと私を助けなさい!」

 黒い人はぎゃーぎゃーと暴れる姫様を強引に腕で押さえつけ、窓辺からジャンプした。え? ここの下は断崖絶壁だぞ?

 まずいと思い窓辺に駆け寄って下を見ると、驚いたことにどこからか黒いドラゴンが現れて、黒い人と姫様を乗せてそのまま飛んで行ってしまった。

 遥か彼方へ飛んでいく黒い影を見えなくなるまで見送ると、ガイウスは膝からくずおれた。


「どどどどうしよう。――王様に怒られる!」


 ドラドラ王国の国王は、それはそれは恐ろしいお人であった。

 ある日同僚の召使いが午後の紅茶を運んで王様の元へ行くと、彼は突然牢獄行きを言い渡された。理由は「いつもわしが使っておるカップじゃないわーっ」とのことだった。

 次の日に別の同僚が王様の元へ行くと、彼も突然牢獄行きを言い渡された。理由は「おぬしの顔、なんか嫌い」だった。

 このような些細な理由で次々と召使いを牢獄に送り込む王様である。そして王様は姫君を溺愛している。このことがバレてしまえば、首に綱を巻かれて街中を引きずり回され、火あぶりにされ、挙句の果てにはドラム缶に詰められてドンキョウ湾に沈められてしまうことだろう。ガイウスの膝はガクガクブルブルと震えはじめる。ガイウスには王宮一の召使いになるという夢があった。このままでは残忍な王様によって夢が潰えてしまう。

「そうだ、助けに行こう」

 王様が気づく前に、姫様を取り戻せば万事オーケー。なにも問題はない。


 ガイウスはさっそく旅支度をはじめ、同僚に「ちょっと出かけてくるけど内緒にしといてね」と断りを入れ、出発した。

 王宮を出たガイウスはふと足を止める。そういえば、どこに行けばいいのかわからない。

 黒い人は確か、ドラゴンに乗ってどこかへ飛び去って行ったな。

 ならばこちらも、ドラゴンに乗ろう。


 そう安易に考え、そして安易な道順を選び、ついに安易にドラゴンの巣を見つけた。


「ちょっと悪いんだけども、姫様探しを手伝ってくれないかな」とガイウス。

「暇だしのう。まあよいか」

 巣の中にいた赤いドラゴンはあくびを噛み殺しながらそう言い、安易にガイウスの相棒となった。


 そして現在に至る。

 二十三の国を訪れ、それぞれの王様に謁見し、「うちの姫様来てないですかねぇ」と問いかけると、彼らは皆一様に首を横に振った。

 姫君誘拐から既に三週間も経っているのだ。ドラドラ王国は今てんやわんやの騒ぎだろう。だから諦めて戻るというわけにもいかなかった。

「いったいどこにいるんだよ姫様……」

 ガイウスはドラゴンの背中に「の」の字を書き続ける。

「次はあそこに降りてみるか」

 下界に見えるは、黒々とした霧に包まれた国。クログロ王国だ。怪しさは満点である。

「なんか怖くない?」とガイウス。

「軟弱だのう。怖いものが現れても、わしが火炎で薙ぎ払ってくれるわい」

「じゃあ安心だね。さっそく王宮に乗りこもう」

 ドラゴンが旋回し、王宮の門の前に降り立つ。

 門の前には、黒ずくめの門番が二人いた。巨大なドラゴンに二人とも目を丸くしている。

「やぁやぁ。ちょっと王様に謁見を申し込みたいんですけども」

「貴様、何者」と門番の二人は刀に手をかけて警戒の表情を見せる。

「ぼくはドラドラ王国の召使い。うちの姫様が来てないか確かめたいんですけども」

 門番の二人は顔を見合わせた。一人が言う。

「ここにそんな人は来ていない」

「それを確かめるために謁見を申し込みたいんですけども」

 ドラゴンがめんどくさそうに鼻息を吐く。竜巻みたいな風がガイウスたち三人を包んだ。

「押し問答は面倒だ。焼いていいかの?」

 ガイウスは少しだけ考える。

「まあいいよ。用があるのは王様だしね」


 業火に見舞われ苦痛の叫び声を上げる門番二人を尻目に、ガイウスは門をくぐった。

 体が大きすぎて王宮内には入れないドラゴンは、門の前でのたうち回る門番をつつきまわして楽しんでいる。

 

 ガイウスは召使いの恰好をしていたため、王宮内で怪しまれることはなかった。難なく王様がいる部屋へたどり着く。

「たのもーっ」

 勢いよく扉を開けたガイウスは、目玉が飛び出すんじゃないかと思うほど驚いた。

 王座に偉そうに座っている黒ずくめの王様。その隣にいたのは――

「姫様!」

 姫様は王座の隣。普通なら、お妃様が座るべき場所に、偉そうな態度で座っていた。

「あらガイウス、来たの」

「来ましたけれども……これはいったい」

 ガイウスは状況が呑み込めず、目を白黒させる。

「これはつまり、そういうことよ。ねっ」

 姫様は隣の黒い王様に熱視線を向ける。黒い王様は頬を赤く染め「まぁな……」とつぶやいた。どうやら黒い王様はシャイな人物のようだ。

 いやいやそんなことはどうでもよい。

「ぼくは状況が呑み込めず、さらに目を白黒させているんですけども」

「もうっ、ニブチンね! わたしはこのお方と結婚したのよ」

 オゥマィガッ! 思わず異国の言葉が飛び出てしまった。

「お父様はこんな結婚許してくれないもの。でもわたしはこのお方に心の底から惚れ込んでしまったの。恋は盲目って言うじゃない? 痛感したわ。あの言葉は本当よ。ドラドラ王国のことなんて、どうでもよくなっちゃった」

 てへっ! というように姫様は可愛らしく舌をちらっと見せる。

 つまり、ようするに、あの誘拐は、狂言。

 王家に離婚歴が付くというのは、決して許されないことだ。国のメンツが丸つぶれになってしまうからである。一度結婚したという事実を突きつければ、あの王様もうなずくしかなかろう。

「でも、なぜあの時、姫様は僕に助けを求めたんですか?」

 姫様はいたずらっぽく笑い、

「一度やってみたかったのよ。悲劇のヒロイン」

 むふふ、と嬉しそうな顔を見せた。

 ガイウスは肩を落とした。そしてある事に気が付く。

「この場合、ぼくはどうなるんでしょう。ドンキョウ湾に沈められてしまうんでしょうか……」

「お父様の事だからね。牢獄行きは覚悟しといてもいいんじゃない?」と姫様。

 ガイウスはさらに肩を落とす。その様子を見かねたのか、姫様は言う。

「まぁ、ここでまた私の召使いとして使ってやってもいいけどね」

 ねっ、と姫様が黒い王様に視線を送ると、「まぁな……」と彼はつぶやいた。

 希望の光が見えた気がした。ガイウスにとって、国など関係なく、召使いとして一番になれればなんでもよかった。

 それにしてもこの黒い王様、さっそく姫様の尻に敷かれ始めている様子である。一国の王として大丈夫なのだろうか。

 まあ、そんなこともどうでもよかった。ガイウスの心は晴れ晴れとしていた。


 さあ、明日からまた、新しい召使い生活が始まる。


完全に勢いだけで書きました。

テキトーに書いてるほうが楽しいかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ