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ヌイグルミ

作者: kyoku

いじめを減らしたいと思って書き始めました。

こういう人も世の中にはいると憶えていれば、いざそういう人と出会ったときに思慮に欠けた発言を減らせると思っています。


お邪魔します!


 長いようで短かった夏休みがとうの昔に感じる、秋の肌寒い日。玄関のドアをくぐりながら男の子の元気な声が家の中に響く。

学校を終えた少年はこうしてクラスの男子と自宅で遊ぶ運びとなったけど、普段は外で遊んだり友達の家で遊んでばかり。今日はいつもと違う遊び場の雰囲気になんとなく恥ずかしくて緊張して、とりあえず居間に案内する。


 少年の母親が用意してくれた温かい飲み物を飲みながら、ゲームしよう!と言い出したクラスメートはソフトの置き場所も聞かずにテレビの近くに駆け寄ると勝手にあさりだした。やがて目当ての品が見つかったようで少年を振り返り、それを見た少年は

「コードつなぐから待って」

といって動き出す。自宅にあるゲームなだけに初プレイというのはありえないし、クラスメートが持っているソフトはお兄ちゃんとそれなりにやりあっているし負けないだろうと心の中でワクワクしながら準備する。


「負けたほうが交代な!でも3連勝でも交代な!」

テレビの前に寝転びながら準備が整うのを待っていた言いだしっぺは、ちゃっかりコントローラーを受け取りながらからかうような目で他の子達を見る。その発言をきっかけにコントローラーの奪い合いが始まった。


 戦いは白熱し少年たちは身体ごと左右に動かしながら遊んでいると、台所からトントンと音がするのに少年は気づいた。空は夕焼けに染まって、帰ってきてから結構時間が経っていることと、そろそろ家に帰る時間であることを知らせていたが、当の本人たちはそれどころではないようだった。少年もそのことを口にせず、交代で回ってきた順番に笑顔で応じながら言いだしっぺの子からコントローラーを受け取る。


「トイレどこ?」

コントローラーを渡しながら聞かれたので、出て右にまっすぐ行くとあるよと簡単に伝える。順番待ちの子達も俺も俺もと居間を出て行った。


開けっ放しのドアの向こうが「早くしろよー」とにぎやかだが構わず、むしろ後がいなくなったことで負けても連続で遊べることに気づいた当人たちはときどき振り返って気にしながら楽しんでいた。


「おい!お前こんなの持ってんのかよ!」

バタバタと戻ってくる音がしたので、あぁこれがラストゲームかー…と静かに残念がりながらプレイしているところに後ろから大きな声がかかった。何事かと二人が振り返ると、言いだしっぺの子がホワイトタイガーのぬいぐるみを持って笑っていた。


「うわ、なにこれ、どこにあったの?」「猫?トラの赤ちゃん?」

「しらね。さっきあいつの部屋に入ったらあった。」


勝手に入ったらダメでしょ~と口にしてはいるものの、他のクラスメートも気になっている様子。

夏休みに家族とサファリパークへ行ったときのお土産に少年が親にねだって買ってもらったもので、スフィンクスのように寝そべった大人のホワイトタイガーもデフォルメ化されては可愛らしい小動物のように見える。

実物がかっこよくて印象に残ったとかそのぬいぐるみが可愛いとか手触りがいいとか色々理由はあるが、少年がこれ欲しい!と心から思ったぬいぐるみで、この数ヶ月間大事にしてきたものだった。


「そ、れは」

「普通もってなくね?お前持ってる?」

「いや、もってねーわ」

「○○レンジャーのロボットなら持ってる」


次々にかぶせれる言葉にタイミングを失う。

いつの間にかクラスメート同士で投げ渡し合っていて、動けずにいる少年はただそのぬいぐるみを視線で追うことしかできず、耳には台所から聞こえる夕飯作りの音とゲームのBGMとクラスメートのからかい合う声が入ってきて、頭の中は真っ白だった。

足や尻尾、耳に頭に、時には毛だけを持って投げられるぬいぐるみを見ているとどうしようもなく胸が締め付けられる。


少年がぬいぐるみを欲しいと思ったのはこれが初めてだった。

大切にするんだよ、と言われた少年は大切に大切にした。

最初は枕元に置いて暇なときに優しくなでるだけだった。しかし白くてやわらかい毛並みはほこりや髪の毛をよく絡めてしまうようで気がついたらすぐに取り除くようにした。

やがてそれが毎日の日課になった頃、白い毛が全体的に少し輝きを失ったように思えた少年は母親にそのことを話した。すると母親は洗えばいいんじゃないかしら?と提案し、ネットに入れて洗濯機へ入れようとするが少年はそれを嫌がった。そのぬいぐるみを服と同じように扱われるのが嫌だった。


ちゃんと大事にしているのねと感じた母親は少年と一緒に手洗いの方法と日々の手入れの仕方をインターネットで調べ、洗剤の扱い方や干す時どうするかを話し合いながら洗っていく。

ぬいぐるみに合う洗剤はどれか、洗う時の順番、干す場所と時間、ブラッシングに使うブラシを買いたいなどなど。洗いたてはべチャッとして雨でぬれた猫のようだが、干して、乾ききる前にブラッシングをしてからは元のように毛が立ち、乾ききった頃には見違えるようにきれいになっていた。

洗い方が覚えられず、はじめはこの後どうするのか母親に聞いていた少年も今では一人で一通りできるようになっている。もちろん、日頃の手入れだって欠かさない。そのおかげで不特定多数に触られながら売り場に置かれていた買ったときよりも輝いているのは、家族から見ても明らかだった。

少年の兄はそんなぬいぐるみを取り上げてからかったこともあるが、普段はしおらしい弟が猛然と息を荒げて歯向かってきたことと母親の拳骨と、なによりその後も飽きずに大切にし続ける態度に「弟がぬいぐるみを持っているなんてオカシイ」という考えをあらためるようになった。


しかし今、目の前で遊んでいるクラスメートはそのことを知らないし、大切に思い続けたがゆえに自分がぬいぐるみを持っていることが変であると言われる理由も少年には分からない。兄には立ち向かえたが、一年も一緒に過ごしていないクラスメートたちに声を荒げることができず、ただ顔を赤くしてコントローラーを握り締めて座ったまま、言葉にならない声を小さく漏らすだけでいた。


「そういえばこれ、ベットの上においてあったけど寝るとき抱きしめてんの?」

「えっ、いや・・・」

なにそれマジ!?女子かよ!そういえば変なにおいがする気がする!おかしくね!?

キタネェ


「きたなくない!」

決して大きな声ではなかったが、つぶやくように話し合っていたクラスメートの声よりは大きくはっきり響いた。

「きたなくない。洗ってるし。」


「でもベットに」「そうやって! ・・・さわるだけでざっきんが増えるし色が変わるし、置いてるだけでほこりとかまきこむけど、毎日ほこりとかとってるし晴れた日は太陽に当ててさっきんするし雨の日はスプレーするし汚れたら洗ってるし」


クラスメートの顔は見れずにいたが、あふれ出た気持ちは頭の中をかけめぐって言葉をつなげていく。


「干してるときにブラシをかけるとふわふわになるんだよ。白いから色がうつりやすいし手で洗ってるんだよ。それ、夏休みに買ったんだけど白いままでしょ?ふわふわでしょ?さっきみたいに投げてたら毛が抜けてボロボロになるんだよ?・・・だから」


「だから、きたなくない、し、やわらかいでしょ?」




お邪魔しましたー!とクラスメートたちは帰っていった。


それからしばらくたったある日の昼休み。


「そういえば、こいつ白いぬいぐるみ持ってるんだぜ?」

いままで自分がどんな姿勢で寝てきたかわからない、という話の中でふと思い出したクラスメートが何の気なしに口にした。言った本人も当の本人もそこまで気にしなかったが周りの反応は違った。

なにそれどんなの!?お前女子かよ!おかしくね?フツー持ってねーだろー。


少年はデジャブを感じ、そして案の定、男らしくない、きもいという方向へ進んでいった。

あの日、「ぬいぐるみを持っている男子はおかしいと思われる」と知った少年だったが、少年も遊びに来たクラスメートも、今まで通りにからんで遊ぶ日々を過ごしていたため気にしてなかった。


そうかなーと少し恥ずかしげにしているだけで動かない少年をよそに、クラスの女子にまで話が届く。


そうなの?どんなの持ってるのー?

ホワイトタイガーのやつ。

なにそれ、可愛い?

うーん、かわいい、かな。白くてさわってて気持ちいいよ。

男子がぬいぐるみとかきもくねー?汗くさそうー。

ごめん。でもよく洗うしきたなくないよ。

洗ってんの!?

・・・うん、手洗い。


予想が外れて普通に女子と話しだす少年を見て、男子たちが面白くなさそうにする。

なおもからかおうと何度か口を挟むがほとんど相手にしてもらえなかった。

そして放課後にもなるとすっかり忘れていた。



おしまい。

いかがでしたか?ここからいじめに発展するところなんて、大体の人は経験ないんじゃないでしょうか?

でも男子でぬいぐるみを持っている人はいます。確実にいます。

そして、下手な鉄砲も数打てばあたるように、いじめに発展することもあります。


今回は洗っているぬいぐるみですが違う場合もあります。そういう時はそっと教えてあげてください。ファ○リーズしてる?って。

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