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第2章 巫女と勇士と犬(1)

 足元が妙に暖かい。少し重みも感じる。

 ふと目が覚めた雪也は自分が置かれた状況を確認して、夢でないことに肩を落とした。見知らぬ土地で、行きずりで助けた女の子と野宿をして、その子は隣で丸くなって眠っている。黙っていれば、寝顔とぷっくりしたくちびるがちょっとかわいいかもしれない、と雪也は思った。

 そして、足元に視線をやると、ベージュ色の何かがエナと同じように丸まって寝息を立てているではないか。

(犬、だよね、これ?)

 自問自答してみたが、どう見ても、犬だった。起き上がろうとすると、犬は首を上げて尻尾を振りながら雪也に近付いてきた。

「うわぁ、どうしたの? かわいい!」

 いつの間にかエナも起きていて、雪也の肩越しに犬に手を伸ばしている。エナの顔が頬すれすれに近づいていて、雪也は思わず顔を逸らしてしまった。

「起きたら俺の足元で寝てたんだよ、こいつ」

「あ、見て、ユキヤ! 野ウサギが落ちてる。もしかして、この犬が持ってきてくれたのかな」

 エナの指さす方には、文字通り野ウサギが転がっていた。ぐったりとしていて、死んでいるようだった。犬が鼻先でウサギをつついて、ワンと鳴いた。食べろということらしい。

「ユキヤ、昨日の食べ物は美味しかったけど、さすがにお腹が空いたわ。ミウがあなたの代わりにウサギを取ってきてくれたんだから、あとはよろしくね」

「やっぱり、俺がやるの? ていうか、ミウって?」

「その犬の名前よ。今、あたしが付けたの。巫女は血で手を汚してはいけないの。だから、ウサギを捌いて焼くのはユキヤの仕事よ」

 さっき、寝顔がかわいいと一瞬でも思ってしまった自分が情けない。キビタキの嫁に行きたくないと駄々をこねてたが、エナだって十分に人使いが荒いじゃないか。

 そうは言うものの、雪也も空腹に悩まされていた。機上無線員の教育課程に、野ウサギを捌いて美味しくいただくという項目はなかったが、今はやるしかない。ミウが噛み殺してくれていたのがせめてもの救いだ。雪也はウサギを掴んで、エナから少し離れた場所に移動すると、手を合わせてからウサギの横腹に石のナイフを差し込んだ。

(あーあ、何で俺、こんなことしてるんだろう)

 何度も不快感に襲われながら、雪也はウサギを解体していった。それでも素人の雪也ができたことは、皮を剥ぎながら、肉の欠片を少しずつ切り出していくことくらいだ。もっといい方法があるのかもしれないが、ぐちゃぐちゃになってしまったのは仕方がない。その辺に落ちている細い木の枝に、ウサギの肉を刺していき、焼き鳥のように焚火で焼く。ウサギの残骸は、ミウが勝手に食べている。

 焚火にはエナが放り込んだと思しき栗が入っていた。栗を拾うことなら、巫女にもできる。パチンと栗が弾けて、飛び出してきた。

「塩がないのは残念だったけど、お腹いっぱいになったからいいわ」

 巫女というよりも女王様のエナは満足気だ。ミウも尻尾をぶんぶん振りながら、エナと雪也の周りを駆け回っている。

 焚火を消して、雪也たちは出発した。もしここが、あの宮畑遺跡からそう遠くはない所だとしたら、横を流れている川は阿武隈川に違いない。

 どれくらい時間が経ったのかはわからないが、かなり歩いた。夜明け過ぎから歩き始めて、今はもう太陽が頭上に昇っている。また空腹を感じ始めたが、今回は狩りを指示されることはなかった。

 というのも、前方の森林の間から煙が上がっているのが見えたからだ。すぐ近くに集落がある。これがエナの言っていた集落なのだろうか。そして、川の上流に向かって左岸は一帯が開けていて、岸には舟が何艘か繋がれている。人の行き交う姿も見えてきた。

「すみません、近くに村はありますか?」

 通りかかった女性にエナが話しかけると、その人は少し警戒して二人と一匹を眺め、その後すぐに、「まぁ、大変!」と驚きの声を上げた。

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