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第1章 白い光を追って(2)

 宮畑という場所には、大きなアラビア数字の八に似た道が含まれる公園のような地区が存在したのだ。北側と東側は森、西側は畑に囲まれた公園の名前を調べようと、雪也は急いでキーボードで福島県宮畑と打ち込んで検索をかける。

 ヒットした検索のページには同じ文字が並んでいた。

「宮畑遺跡……。縄文時代中期の遺跡か」

 上空から見えた光の正体が何なのか、突き止めることなど不可能に等しいかもしれない。それでも、雪也は宮畑遺跡に行って確かめなければならないような気持ちになった。

 別に遺跡に興味があるわけではないし、まして縄文時代のことは竪穴式住居くらいしか思い浮かばない。ただ、U-125Aの赤外線暗視装置が捉えた白い光に異様に執着を感じてしまったというだけのことだ。

 幸い正月休みが目前に迫っている。きっとどこも宿は満室だろうから、日帰りでもいい。雪也は早速、宮畑遺跡への旅程を考え始めた。

 

 救難隊と言うと、目の前に座っている女の子たちは決まって、わぁすごいね!と目を大きく見開いて感嘆の声を上げる。けれども、雪也が自衛隊の中でも最も過酷な訓練と任務を負う救難員ではなく、機上無線員だとわかると途端に直前の称賛の眼差しがフェードアウトしていくことは合コンのいつものパターンだ。自衛隊にはたくさんの裏方の仕事があって、そういうのだってカッコいいのに、女の子にはなぜかちっとも受けがよくない。

 あげくの果てには、小柄で童顔のせいで、赤城くんは頼りないキャラ扱いをされて終わってしまう。

「いいよな、高浪は」

「ん、何が?」

 よく合コンに誘ってくる教育隊同期の高浪飛瑛たかなみひえいに思わず愚痴をこぼす。

「だって背は高いし、面も男前だし、管制員だし」

「なんだ、そんなことかよ。別にお前だって見た目悪くないし、天下の空自の救難隊員だろ。相手の女に見る目がないだけじゃん」

「でも……」

「赤城雪也の真髄は俺がよーく知ってる! それにさぁ、毎回俺がお前を合コンに誘ってるってことは、俺も決まった相手に巡り会えてないってことなんだよ。だから羨ましがるなよ」

「そっか。そんなもんかねぇ」

 飛瑛も意外と思い通りに行ってないんだなと少しほっとしたその時、ガツンと頭の側面が派手な音を立てた。

 ああ、そうだ。福島県へ向かう途中の新幹線の中で、雪也はうたた寝をしていたのだった。飛瑛でも一緒に連れてくれば良かったなと思ったが、九州の実家に帰ると言っていたような気がした。飛瑛がいたらなんとかして宿泊先を見つけて、ゆっくり旅行を楽しもうとしたかもしれないが、今回は単独なので日帰りだ。

 福島駅からは更にバスに乗るらしい。東京生まれ東京育ちの雪也は知らない土地の路線バスに乗るのも好きだった。

 向鎌田というバス停で下車する頃には、かすかに雪がちらつき始め、雪也はコートの下のネイビーブルーのパーカーのフードを被った。周りには特徴のある建物などがなく、自分で用意してきた地図を確認して、そのまま進行方向に歩く。すると交差点の右手側に看板が見えた。

「ここが遺跡の跡か……」

 高度な知識がない雪也にも、そこがすぐに宮畑遺跡であることがわかった。というのも、いかにも縄文時代といった木造の建物が視界に飛び込んできたからだ。一角にはちょっとした公園風の広場があるが、寒空の下では子供どころか大人の姿もなかった。

 遺跡跡の入口に向かっていると、背後から声を掛けられた。

「遺跡を見に来られたんですか?」

 振り向くと、作業着をした中年男性だった。脇にボードやペンを抱えていて、何か仕事中のように見えた。

「ええ、まぁ」

「福島駅から?」

「はい。駅からバスで」

「見るところはその辺しかないですから、もしよければ福島駅まで送りましょうか? バスの本数少ないですよ。ここは工業団地でね、工事中に遺跡が見つかったんですよ。気候が良ければ、近所の子供たちが遊んでたりするんですけどね」

 どうやら雪也に声を掛けてきた男性は、遺跡に隣接する工業団地の関係者らしかった。おしゃべり好きなのか、雪也を勝手に学生と勘違いして、世話を焼いてくれている。申し出はありがたかったが、雪也には謎の光の正体を探るという重要な任務があり、ちょっと眺めて帰るというわけにはいかない。

「あの、せっかくご親切に声を掛けていただいて申し訳ないのですが、ちょっと調べたいことがあるんです。結構、時間がかかると思うんで……」

 頭を下げながら、雪也は事情を説明した。すると雪也を学生と勘違いしたままの男性は、勉強熱心だねと言い、寒いけど本当に大丈夫かと心配してくれた。もう一度、丁重にお断りするとようやく男性は立ち去った。

 心配された通り、やはり寒さが身に沁みる。とりあえず、史跡の中に入って足早に全体を確認していく。入り口のすぐ近くには、三棟の掘立柱建物が復元されている。この建物を背にして眺めると、左手には標高の低い山が、正面には工業団地の建物が見える。なんだか不思議な光景だなと雪也は思った。

 ここに来る前に、一応、ネットで縄文時代についての知識は仕入れてきた。宮畑遺跡は縄文時代中期の焼失住居跡、後期の敷石住居跡、そして直径九十センチメートルの柱が使われた柱穴が発見されている全国的にも貴重な遺跡らしい。あまり難しいことはわからないが、まだまだ解明されていないことが多いということはなんとなく理解できた。

 そして、一つ雪也の目に留まったものがあった。いくら勉強嫌いの雪也でも、それが縄文時代の住居だという認識くらいはある。宮畑遺跡には復元された竪穴住居も存在した。面白いことに、茅葺きではなく土葺きだ。

 土葺きの屋根では密封性が高く、意図的に燃やさないと住居が焼失しないらしい。確かに、この住居を燃やし尽くすのは労力がいるだろうなと思った。だから、何か特別な事情があって燃やすことにしたのだろうが、現在ではまだその理由は不明だと、ネット上で見つけた解説ページに書いてあった。

以後のストーリーは投稿予約で掲載します。

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