全てを逆転させる一手
続きです。
第五章 全てを逆転させる一手
それは突然の出来事であった。
確かにそれは予測すべき出来事であったのかもしれない。しかし、あまりにも規則的に片方しか狙わないものだから無意識にその可能性を排除していた。
そのために予想外のそのメールの内容に一瞬思考を停止してしまう。
件名:
美海に襲撃された場所は学校の校庭はやくえんごたのむ。
変換されていない最後の一文が物事の緊急性を物語っていた。
目覚めて本当によかった。気付いていなければ大変なことになっていただろう。
「姫紗っ!」
緊迫した空鷹の一声に姫紗の表情が一瞬で真剣なそれに変わる。
「マスター、何かあったのですね」
「清春が美海に襲われている。場所は学校の校庭だ」
「行かない、という選択肢はないのですよね?」
「当たり前だろ。同盟がどうこう以前に、何度助けられたと思ってんだ。馬鹿なこと言ってないで速く準備しろっ!」
そう叫びながら空鷹は既に着替え始めている。時刻は深夜0時過ぎ、空鷹も姫紗も寝ている時間だった。
故に二人ともジャージ姿だったのだ。
「私はこのままでも大丈夫です」
「そうか、じゃあ準備はいいんだな?」
着替え終わった空鷹は携帯電話と万が一の為の財布だけをポケットに突っ込み、そして家の鍵を握りしめていた。
「はい」
「よし、行くぞ」
そう言って二人は家を飛び出した。
「急ぐぞ、美海が相手だ。清春と紫とはいえ長くは持たないかもしれない」
「はい」
学校までの道のりを走る時間さえももどかしく、二人はようやく学校の校庭に辿り着く。
そこは既に赤く燃えて薄暗い周囲を炎で照らしていた。
熱気が肌を焼く。想像以上に激しい戦闘のようだ。
「清春と紫は?」
「あそこですっ」
いち早く姫紗が二人を見つけて指差す。彼女の指の先を見れば確かにそこには二人の姿と、そして相対する美海の姿が見えた。そして驚いたことにもう一人の人間の姿があった。
恐らく美海の契約者なのだろう。この場合それしか考えられない。
そして清春の言葉が瞬時に思い浮かぶ。
『契約能力だけじゃない。契約猫は個人の判断で戦闘出来るけど、実は契約者の指示に従っていたほうが高いパフォーマンスを発揮できるんだ』
今の美海は契約者の指示で動いている。それどころか契約能力まで使われている可能性さえもある。
ただでさえ美海単体で厄介なのに、今日はそれ以上ということだ。
今まで頑なに姿を見せなかった美海の契約者がその姿を現しており、そして定期的に姫紗を襲っていた筈がその定期から外れた日に紫を襲っている。
どう考えても相手側が勝負を仕掛けてきているとしか思えない。
相手の思惑が測りかねるが、恐らく今日こそ紫を。そして姫紗を破壊するつもりなのだろう。
本能が危険を訴える。
しかしそれを振り払って空鷹は声を張り上げて己を奮い立たせた。
「姫紗、行くぞ。今日の奴等は本気だ」
「はい。こちらも全力で、全身全霊で行きます」
「油断するなよ、一瞬たりとも気は抜けねぇぞ」
「勿論です」
そして二人は炎燃え盛る戦場に身を投じた。
「美海、炎で逃げ道を塞げ」
「はい」
美海は契約者の支持に従い、炎を躍らせて紫の背後と真横を埋め尽くす。これで逃げ道はなくなった。
突破しようと思えば可能だが、これだけの高温で苛烈な炎を突き抜けば無事では済まないだろう。
そして唯一炎がない空間である正面には美海が待ち構えていた。
「美海、高密度の炎弾で真正面から終わらせてやれ」
「はい、私の主様」
契約者の指示を受けた契約猫は本来のパフォーマンスを発揮できる。それはつまり前回までの美海は本気でなかったということである。
そして全力の炎がその手にある大剣に収束する。
とんでもない熱量である。全てを溶かし焼き尽くし灰燼に変えるに相応しいと呼べるだろう。
「紫っ、同じ技で相殺するんだっ!」
「分かりましたっ」
指示を受けた紫は両腕を前に突き出して迎撃の体勢を整える。
「『万象の鏡』発動。対象は美海、能力は『咲き乱れる炎』」
叫ぶと同時、彼女の両腕には同じ熱量同じ密度の炎が形成される。
「美海、打て」
「紫、迎撃するんだ」
両契約者の合図の次の瞬間。二つの炎弾は真正面から直撃し、そしてその高エネルギーは互を食い合うように混ざり合い反発し合い。
そして行き場を失ったそれは爆散した。
激しい炎の大爆発が視界を奪う。想像を絶する放射熱が肌を焼く。そして激しい爆音が鼓膜に叩きつけられる。
そんな中、偶然その声を清春は聞いた。
「美海、爆発の踏み込みでこのまま接近しろ。炎の鎧で体を包めば、この爆炎の中でも軽度の火傷で済む」
信じがたい指示であった。
確かに紫と戦う際の鍵は接近できるかにある。紫の能力は厄介で、相手の能力を威力や性能そのままに完全にコピーすることが可能なのだ。
能力を使用した火力では完全に互角になり、これを打倒するには経験値の差で能力を応用するか、接近して近接戦で勝るしかない。
幸い紫の近接戦闘能力は低いので、一度接近してしまえば美海程の戦闘力ならば一瞬で決着がつく。
そうならないために牽制を重ねて距離を一定に保ち、万象の鏡のコストパフォーマンスを活かして電力差で勝とうとしていたのだが。美海の安全を度外視した規格外な敵の指示により全てが瓦解した。
まさかこの炎の荒れ狂う中に自らの契約猫を飛び込ませるなど、常人の発想を超えすぎている。言わば狂気の沙汰である。
「そんな……っ」
「終わりよ」
紫の目の前には炎を纏い、軽度の火傷で大剣を振り上げる美海の姿があった。
あれだけの炎を掻い潜りながら涼しげな顔をしている。
「嘘……」
「自分の炎に焼かれるわけが無いでしょう?」
しかしこの激しい炎を快潜れるのは美海だけではない。最速で、それも無傷でそれをやってのける存在がそこにはいた。
「覚悟っ」
「っ……!」
姫紗の鋭い剣閃が炎の鎧を貫いて美海の体に迫る。が、間一髪のところでその大剣に阻まれた。
完全に不意を突いた一撃だったが、やはり一筋縄ではいかない相手である。
「まだですっ」
勢いを利用して二連、三連と剣を繰り出すが四連目にして完全に攻撃を読まれて大剣で弾き飛ばされてしまう。相変わらず恐ろしいまでの怪力であった。
だが十分に時間は稼げた。
この間に紫は炎の囲いを抜け出して安全な距離をとっていたのだ。
「遅いじゃない、死ぬかと思ったわよ」
「残念ですね。もう少しゆっくりと来るべきでした」
「言うじゃない。一人であの化物の相手ができるとでも?」
「成程確かに。美海を倒すまでは協力したほうがいいかもしれません」
軽口を叩いてはいるが姫紗も紫も額からは汗が伝っている。
そして表情も余裕がない。
神経を張り詰めなければ一瞬で負けてしまう。美海はそれほどの相手なのだ。
炎の海を悠然と佇むようにその強敵はいた。確かに姫紗と紫を見据えている。
二対一だというのに逃げる様子はない。どうやら決着を付ける覚悟を決めたらしい。
しかしその瞳に敗北の色はない。
二対一という状況下にあっても勝利を疑わない程の実力が、彼女にはあるということなのだろう。
「雑魚が何匹増えようと、私の敵ではないわ」
「言ってくれますね」
「そんなこと言っていられるのも今のうちよ」
美海がゆっくりと大剣を構える。腰を落とし、剣を腰の後ろに回したそれは突進の体勢に他ならない。
恐らくあの爆発を利用した驚異的な速度の踏み込みだろう。
対して姫紗は己の防御を信じて真正面から受け止める覚悟を決める。その後ろで紫は両手を突き出して再び炎を凝縮し始めた。
「私の突進を受け止めて、一瞬の隙にその炎で焼くつもり? そう上手くいくかしら?」
「いかせます。……ミスは許しませんよ、紫」
「君こそ防御に失敗して消し炭にならないでよね」
刹那、美海の足元が爆散し彼女の姿が掻き消える。
そして気付いた時にはもう既に姫紗の目の前まで接近していた。が、その爆発を利用した踏み込みを見るのは一度目ではない。
不意を突かれさえしなければ、反応できない速さではない。
「そこっ」
美海の驚異的な速さで振るわれた剣閃は同じく閃光のような姫紗の剣閃に弾かれる。
それでも剣にまとわりついている炎までは防ぎきれず、火の粉が姫紗の肌や髪を僅かに焦がす。
「今です、紫っ」
致命的な硬直であった。
美海の体重を乗せた一撃は重く速い。が、その分技後硬直も多い。その隙は致命的な敗因になり得る。
「任せて」
紫の両手から激しい炎の塊が弾き出された。それは真っ直ぐと美海のもとに向い、そして炎の柱により進行を阻まれ爆散した。
「何故っ」
「ふふふ、甘いわよ」
不敵な美海の笑み。
そして次いでくる激しい炎の演舞。姫紗を巻き込みながらそれは踊り狂い周囲を焼き尽くす。
「姫紗っ」
紫の呼びかけに返答はない。しかし無事でいる筈だった。
例え普通では耐えられないような獄炎の中でも。彼女の防御壁の前には無に等しいのだから。
そう、彼女の最強の防御壁の前では。
「『乙女の聖域』発動」
激しい炎。呟く声。傷一つない姫紗の姿。優雅になびく銀の髪。鋭い眼光。そして淡く輝く聖域の壁。
そのどれもが幻想的に彼女を彩る。
「厄介な能力ね」
「貴方こそ」
姫紗は乙女の聖域を展開しつつ、そのまま美海に素早く肉薄する。
そこから放たれるは蒼色の閃光。鋭い蒼の刃が何度も美海を襲う。
しかしそのどれもが炎の鎧と大剣に阻まれる。
「今日の私は本気よ、その程度では相手にもならないわっ!」
「ならっ」
姫紗が叫び、そして紫が続く。
「連撃でっ」
姫紗が通り過ぎざまに剣閃を走らせ、そして刹那の間も置かずに紫の炎が美海に叩きつけられた。
そんな光景を遠くから見守る姿があった。
清春と空鷹である。
「悪い、遅くなった」
「いいよ、間に合ったことだし助かったよ。それよりも今は美海を打倒する方法を考えよう」
「そうだな。……あいつか?」
空鷹はそう言いながら同じくこの戦いを見守る人間を指差した。
「ああ、そうだ。美海の契約者だ。堂々と名乗ってきたよ。名前は寺田剛」
「そうか、あいつが……っ」
寺田剛と名乗る人間を遠巻きに見つめる。
獰猛な獣を連想させる危険すぎる瞳に、まるでこの戦闘をショーでも見るかのように優雅に見つめる残忍さ。
そして真赤に染められた髪が彼の悪魔的な雰囲気をさらに加速させている。
耳や鼻にはピアスが大量にあり、見るからに普通ではないことが分かる。
そして男は赤を基調としたいわゆるパンクと呼ばれるジャンルの服装をしていた。
美海のあの服装もこの男の趣味なのだろう。空鷹から言わせれば非常に趣味が悪い。
年齢は分かりにくいが見た目二十歳前後だと思われる。少なくとも空鷹より歳下ということはないだろう。
空鷹は無言で男に近付く。慌てて清春が止めに入ろうとするが無視して強引に足を進めた。
後ろで清春のため息が聞こえたが気にしない。
「寺田剛だっけ、お前美海の契約者なのか?」
「……そうだ」
「どうして俺たちを襲う?」
「襲う? ゲームだからだ。それ以外に理由が必要か?」
確かにこれはゲームだ。
突然送られてきた猫型兵器を使用して最後まで勝ち残るためのゲーム。確かにそのゲームのルールに則って戦うこと自体に責めるべき要因はない。
「俺たちに戦う意思はない。今すぐ戦闘を止めてくれ」
「意味が分からないな。何故獲物を見つけた狩人が、狩りを止める必要がある?」
背筋に冷たい何かが走るような笑を寺田は浮かべた。本能が察する、これは危険な部類の人間であると。
「そんなに戦いが好きなら他でやれ。百匹もいるんだ。態々俺らを襲う必要もないだろ」
「逆に聞くが、目の前の獲物を見逃して態々他の獲物を探す必要もないだろう?」
確かにそうであった。
寺田の言うことに間違いはない。これ以上言葉で解決する気はしなかった。
「後悔すんなよ、自分の契約猫を失ってから喚いても知らねぇぞ」
「その時はその時だ。俺のゲームは所詮そこまでだったってことだろ」
この男には契約猫に対する執着がない。
力が欲しい訳でもなく。金が欲しい訳でもなく。
ただひたすら純粋に争いを求める。
狂気の沙汰だがその分強いだろう。こういった頭のネジが何本かなくなっただろう狂った相手の方が喧嘩でも手強いことが多い。
経験則だが、それ以上に本能がこの人間は危険だと訴えていた。
「姫紗っ、全力でねじ伏せろ」
「了解ですっ!」
空鷹の怒号のような指示に姫紗は歓喜とも聞こえる声で答えた。確かに了解したと。
「マスターの指示です。悪いですが、全力で行きます」
「当然よ、私相手に手加減だなんて無謀にも程があるわ」
姫紗は乙女の聖域の防壁を美海に叩きつけるように突進する。流石の美海も不意を突かれたのか満足に対応できないまま吹っ飛ばされる。
「成程、強靭な盾はそのまま攻撃にも転用可能な訳ね」
「それだけではありませんよ」
そう言うと姫紗は己を守っていた防壁を解除して紫に叫ぶ。
「炎の援護を……っ」
「人を顎で使ってからに、調子に乗んじゃないわよっ」
文句を言いつつも限りなく最高に近いタイミングで紫の攻撃は美海に直撃する。が、当然の如く炎の鎧は突破できない。
次の瞬間、美海の周りには輝く防壁が発生していた。
「これが『乙女の聖域』の応用です」
乙女の聖域は外部からの一切の攻撃を内部に通さない最強の盾であると同時に、内側と外側を完全に切り離してその空間を孤立させる効果もある。
つまり、敵を捉えて捕縛することも出来るのである。
そして今回美海だけではなく彼女を襲った炎も一緒に閉じ込めてある。本来爆散するはずの炎に逃げ場はなく、聖域の中で逃げ場なく踊り狂う。
これが乙女の聖域の応用。攻撃的転用である。
「凄い、僅かな期間にここまで固有能力を磨き上げるなんて……」
思わず紫が感嘆の声をあげるが、その程度で倒される美海ではなかった。
「正直舐めていたわ、これほどの実力があるなんて」
激しい炎に包まれて尚、その振る舞いには余裕が残る。
まさに化物と呼ぶに相応しい相手であった。
「油断も手加減もしていたつもりはないけれど、敬意が足りなかったようね。本当に、全力全開で挑ませてもらうわ」
そう言うと美海は寺田の方を向いて言い放つ。
「能力開放の許可を」
僅かに思案した後、寺田は答えた。
「構わん、使え。どうせもう一発使える」
聞きなれない単語に空鷹は首を傾げる。いつも通り清春に聞こうとするが、隣にいる彼の表情を見て何も聞けなくなった。
青ざめていたのである。
「やばい、紫っ、姫紗の近くに。空鷹君速く防壁を展開してっ」
「お、おう?」
訳が分からないが取り敢えず言われた通りにすることにした。
「姫紗っ、紫ごと防壁で包めっ」
「分かりました。……『乙女の聖域』発動っ!」
美海がゆっくりとした動作で、その手に握り締めた大剣を真上に掲げる。
まるで天を穿つように、あるいは太陽に捧げるように。
儀式的な雰囲気を纏ったそれは他者の介入を決して許しはしない。
「我が全霊の炎をここに、祖は仇なす者を終焉の海に消し去る篝火となれ。美海の名において命ず。『咲き乱れる炎』限定解除、能力開放」
小さい声だった。しかしそれでもその場の全員にはっきりと聞こえる程に通りの良い声だった。
場を制圧するかのような声の響きが圧倒的な圧力を物語る。誰もが予想して絶望した、彼女が振るうだろうその剣の威力に。
「全て灰塵と化しなさい」
瞬間美海を激しい炎が包み込み、そして荒れ狂い踊り狂い全てを焼き尽くした。
そんな炎の海をたった一つの物に凝縮する。美海の持つひと振りの大剣に、である。
凝縮した炎は赤を通り越し真っ白く光り輝いている。それが剣の形を成し、零れおちた炎がようやく温度を下げて赤く光り始める。
「『全てを灰塵と化す極炎の剛剣』っっっ!」
美海の持つ真っ白に輝く剛剣が振り下ろされる。
視界を埋め尽くす炎。
感じるは膨大な熱量。
指向性をもったそれは、意図も容易く通り過ぎた道を焼き尽くす。
この世のものとは思えない力の本流は学校の校舎を消し去っていた。
文字通り、校舎を半壊させていたのである。
「な、なんという威力ですか!」
「正直死ぬかと思ったわ……」
こと防御力に関してのみ、全ての能力の頂点に立ち。その絶対防御壁は電力が続く限り全ての破壊から身を守る究極の盾。
『乙女の聖域』である。
その恩恵で姫紗も紫も確かに無事だったのだ。
「おいおいおいっ……、学校の半分が吹っ飛んだぞ」
空鷹の呟き通り、美海の放った一撃の余波を受けた校舎の上半分が抉れたように消失していた。
まるで初めから存在していなかったかのように。
「こ、これは想定外……だね」
あの大剣から放たれた超高温の炎が通り抜けた所為で、校舎が溶かされながら焼かれてしまったのだろう。
完全に規格外の威力である。
これが契約猫に与えられた本当の力だと言うのならば、成程確かに驚異的な兵器と呼べるだろう。
「空鷹君一度引こう、このまま策もなく美海と戦うのは危険過ぎるっ!」
「でも、どうすんだよっ。相手側は黙って見逃す雰囲気じゃねぇぞ?」
「紫の能力で炎を撒いてその隙に校舎に逃げよう。視界を埋め尽くす程の炎なら多少の足止めにもなる。校舎内なら地の利はあるし、隠れて作戦も立てられる」
「逃げ込んだ校舎ごと焼き払われたらどうすんだよっ、さっきの一撃を見ていなかったのかっ?」
「大丈夫。姫紗の能力で防げるのは確かだ。取り敢えず一度仕切り直そう」
「ああ、分かった」
「携帯の指示機能アプリで契約猫に指示を出せば相手に気付かれずに指示を出せる。それで今の作戦を伝えよう」
清春の指示通り空鷹は素早く携帯電話を取り出して目的のアプリを起動し、文章で姫紗に一度引いて仕切り直す旨を伝える。
「了解です」
「分かったわ」
姫紗と紫は残火に包まれながらも了承し、素早く行動に移す。
姫紗は『乙女の聖域』を解除して踏み込み、素早く美海に接近する。
紫は姫紗から距離を置いて援護の容易い位置を確保する。
「『全てを灰塵と化す極炎の剛剣』を真正面から受けて無傷とは、相当厄介な代物ね。貴方の能力は」
美海はそう苦々しく呟きながら姫紗の素早い一撃を受け止める。
そこで姫紗は今までにない動きを見せる。強引に剣を滑らせながら接近し、そして美海の懐に潜り込んで蹴りを放ったのである。
今まで素早さと技術で丁寧に戦っていた姫紗らしからぬ動きに意表を突かれ、流石の美海もその蹴りをもろに食らってしまう。
パワーが低い姫紗とはいえ、契約猫の力は人間をゆうに超えて重機械の域に達する。それだけの力の蹴りに直撃すれば当然交通事故のように弾き飛ばすことが可能だ。
そして姫紗はある目標に向かって美海を吹き飛ばした。
空中で体勢を整えつつ、着地して周囲の状況を確認した美海はその目的を察する。察するがそれは僅かだが遅かった。
既に紫が攻撃の準備を終えていたからである。
「これは先日のお返しです」
空鷹を攻撃された時のことを思い出しながら、姫紗はそう言う。
「世の中因果応報。やったらね……。そのままやり返されるのっ!」
紫はそう叫びながら十分に凝縮した炎の塊を美海と、その背にいる契約者に向かって放つ。
そう、姫紗は契約者ごと攻撃するために美海を契約者のすぐ傍まで飛ばしたのである。
これならば美海は契約者も庇い炎を防ぐしかない。そして十分に凝縮された炎の塊の爆発は凄まじく、恐らく視界を埋め尽くす程の炎が暫く荒れ狂うだろう。
その指示を出した空鷹はあらかじめ退避しており、清春と共に離れた位置にいる。
「主様、私の背に隠れてください。炎の結界で防ぎ切ります」
「……任せた」
美海は大剣を地に指すと己と契約者を囲うように炎を巡らせて、防御用の炎の結界を生み出した。
次の瞬間には紫の放った炎が着弾し、爆発と同時に激しい炎が視界を埋め尽くし荒れ狂う。
「姫紗、校舎に逃げるぞ」
「了解です、マスター」
「紫、行くよ」
「はいっ」
四人はこの隙に慌てて校舎に避難し、そして比較的見つかりにくい位置に存在する教室に逃げ込んだ。
学校に行き慣れている人間でも気付きにくい場所で、ここならば暫くやり過ごすことが可能だろう。
しかしその時間も長いわけではない。
「どうする。個体能力は高く、おまけに戦闘経験も深い。契約者も慣れているし、何よりあの火力だ」
「そうだね。戦力的には真正面から戦えば勝機は薄いだろうね」
基礎能力の高さ故に白兵戦では決着が付かない。能力も攻撃特化でありながら応用の範囲が広く、またそれを熟知している。
そして切り札のあの絶烈たる炎の刃。辛うじて『乙女の聖域』で防ぎきれるものの、その威力たるや校舎を一瞬で半壊させるほど。
「というかあの能力開放ってなんなんだ?」
「…………」
「呆れて物も言えないくらい絶句する前に説明してくれ」
「空鷹君、君って僕のこと便利な説明係だと思ってやしないかい?」
「違う、調べんのが面倒なだけだ」
「まぁいいけどさ」
そう言うと清春は携帯電話を取り出して契約猫の画面を見せた。
紫の名前と基本ステータス、そして能力が書かれている。
個体名:紫
初期性格:静かで気弱なタイプ
識別番号:84番
基礎能力:
パワー3
スピード4
テクニック4
タクティクス5
アビリティ8
総合24(C)
固有能力:万象の鏡
その中の固有能力を開くと、そこには能力の詳細が書かれていた。
「おお、能力の詳細なんてあったのか、気付かなかった」
「ええっ……、普通気になって色々触ると思うけどなぁ」
固有能力:万象の鏡
詳細:自分の半径10メートル以内にいる契約猫の固有能力を、性能そのままにコピーして使用出来る。
長所として、どれだけ激しい電力消費の能力でも万象の鏡の電力使用分で補える。
一度にコピーできる能力は一つまで。
半径10メートルから外に離れた場合は能力を使用できない。
能力開放:森羅万象の鏡
詳細:半径10メートル以内にいる契約猫の能力開放をコピーする。電力消費が激しく、コピーした能力開放の消費電力が余程高くない限りは余分に電力を消費する。
「これを見て分かる通り、能力開放は契約猫の切り札となる強力な能力のことだ。その代わり電力消費が激しく多用は出来ない。勝負の決め手になり得る要素だ」
「おいおい、そんな情報を俺に見せてもいいのか?」
「構わないさ、同盟相手だろう? それを躊躇わない程度には僕らは追い詰められているってことさ、美海とあの契約者に……」
「そうだな……」
いよいよ手段を選んでいる余裕はなくなってきた。
「お前にもあるのか? その切り札が」
「はい」
空鷹は自分の携帯電話のhimesyaのアイコンを開いて、そこから固有能力をさらに開く。
そこにはこうあった。
固有能力:乙女の聖域
詳細:自分の周囲に完全防御結界を張ることができる。その防御力は高く、物理的な攻撃に関してはほぼ無敵。電力が持つ限り結界は持続させることが可能で、また結界を張る場所も選ばない。大きさも自由だが、大きければ大きいほど電力消費が激しい。
弱点は電力消費が激しいこと。一度にひとつしか結界を張ることが出来ないこと。結界完成までにやや時間がかかり、その最中に外部や内部から攻撃されると簡単に破壊されることがあげられる。
能力開放:乙女の絶対領域
詳細:受けた攻撃をそのまま相手に反射する防御結界を張る切り札。電力消費が激しい。
「! これなら美海のあの攻撃を跳ね返せばあるいはっ」
「はい。私の能力開放『乙女の絶対領域』ならば、確実に美海を殲滅出来ます」
まさに一発逆転の手と言えるだろう。
「流石はAクラスの契約猫だね。能力も、能力開放も強力だ」
空鷹の携帯を見て清春は苦笑するように言う。もしかしたら清春は紫のスペックに不満があるのかもしれない。
「いやでも、紫の能力開放も十分強力だろう? 半径10メートル以内なら美海のあの激しい攻撃を完全にコピー出来るんだろ?」
「いいや、所詮は真似事。応用力では及ばないし、紫の基礎ステータスが低いから白兵戦では勝てない。おまけに能力開放は電力消費が激しすぎて一度しか使用できない。相殺されて終わりなのは目に見えている」
清春の言葉は至極真っ当に聞こえる。いや事実確かな現実を言っているだけなのだろう。
しかし、紫の顔を見る。とても悲しそうで寂しそうなその顔を。自分の可能性を否定される気分は考えるまでもない。そもそも契約者は契約猫にとって親のような存在なのだ。
「それ以上はやめようぜ、不満を言っても仕方がない。今は美海を倒す算段だ」
「そうだね。でもやっぱり作戦は如何に美海の能力開放に姫紗の能力開放を成功させるかになると思うよ」
「そうだな。それを確実に決める状況を作り出して、一撃で勝つのが理想だろうな」
空鷹は姫紗を見る。そこには空鷹を信じて疑わない強い意思をもった瞳があった。
「姫紗、お前能力開放を何発出せる?」
「本来ならば二度が限界です。ですが、美海の能力開放を防ぐのにかなりの電力を消費しました。残りの電力では一発がやっとでしょう。これ以上は無駄に電気を消費できません」
さらに姫紗は続ける。
「もう一度能力開放を『乙女の聖域』で防げば能力開放は使えなくなります。さらに通常戦闘で『乙女の聖域』を幾らか使えば能力開放が使用できなくなります」
つまりもう美海との戦闘で固有能力を使うことは許されず、さらに必ず一度で能力開放を成功させなければならないらしい。
それは契約者として未熟で、さらに能力開放を使ったことのない空鷹には難題に思えた。
「なら指針はほぼ決まったじゃない。あたしが美海の能力開放を引き出して、この子が能力開放で決める。それしかない」
紫の言うことはもっともだ。それしか道が残っていないだろう。
姫紗の顔を見るに彼女のその指針には異論がないらしい。そして清春も納得しており、空鷹もそれでいいと感じた。
「なら、具体的にどうやって美海の能力開放を引き出すかだな……」
そこで空鷹は重要な情報を思い出す。
「そういえば姫紗、美海はお前のステータスを知っていたんだよな? なら、お前の固有能力も能力開放も知っているんじゃないのか?」
「それは可能性が高いと思われます。多分……、『乙女の絶対領域』は警戒されているでしょう」
「その割には自分の能力開放をあっさり出してきたな。油断なのか対策されているか、後者だったら気になるとこだな」
「そうだね。もしかしたら姫紗が能力開放を使えなくなるのを確認するまで、もう能力開放は撃つつもりがない可能性もある」
「そうなったら非常に厳しいな」
先行きが不安になるが、紫の明るい声でそれも打開された。
「あたしの能力開放なら美海の能力開放を強引に引き出せるじゃない」
「そうかっ、紫に能力開放を使わせて、相殺しようとした美海の能力開放を引き出す。それで姫紗の能力開放を使用、二つの自分の能力開放を食らえばひとたまりもないよなっ!」
光明が見えた。
見えた分だけ空鷹には重圧が掛かる。この作戦の鍵は能力開放のタイミングだ。
それを間違えれば全てが瓦解する。
紫を邪魔せずに、美海に疑問を抱かせずに、最高のタイミングで姫紗に能力開放の指示を出す。
想像するだけでその難しさが容易に理解出来る。
「空鷹君、僕に考えがある」
「考え……?」
「学校の屋上を思い出してよ、僕らにも切り札はあるだろう?」
そう言いながら清春は携帯電話のとある画面を空鷹に見せた。
契約猫の譲渡画面である。
空鷹の記憶が呼び起こされて、屋上でのとある会話を思い出す。
『単刀直入に言うよ、君の姫紗と僕の紫を交換しないかい?』
『君よりも僕の方が契約者としては経験が多い、僕が姫紗のような強力な契約猫を操れば美海さえも打倒できる。勿論永続的にじゃないよ、美海を倒すために倒すまでの間だけでいいんだ』
『空鷹君の言い分は当然だよ、突然言い出した僕が悪い。でもね、頭の片隅には入れておいて欲しいんだ。そう言う手段もあるってね』
確かに覚えている。覚えているが、それは正しい選択なのだろうか。
「今がその時だよ。空鷹君、これは勝つための作戦だ」
「それは……」
簡単には承諾しかねる。
『頭の片隅でいいのです。完全には信用せず、どこか怪しいと思ったら清春を疑って下さい。……いいですか、疑うこともひとつの信用の形なのです』
『信頼や信用とは責任を他人に預けるモノではありません。裏切られてもいい、間違っていてもいい、全て受け入れる。その覚悟の証が信用の姿なのです。いいですか、信用とは疑うことの放棄ではありません。疑って尚、その疑心も相手の思惑もひっくるめて受け入れるのが信用であり信頼なのです』
姫紗の言葉が脳内を駆け巡る。清春は信頼に値するか。
疑いながらも、裏切られることを受け入れるほどに信頼できるか。
真剣に考える。
だがやはり行き着く答えに変わりはない。何度助けられたと思っている。清春の同盟に疑うべき要素はない。
信頼できる、人物だ。
主張も、変な箇所はない。
「お前なら、出来るんだな」
「必ず」
空鷹の雰囲気を察して姫紗が悲鳴のような叫び声をあげる。
「ダメですマスターっ、その選択は――」
「主人の選択は受け入れなさい。それが契約猫よ」
姫紗のそれを紫の強い言葉が遮る。どこか悲しみを帯びたそれには強い強制力を感じた。
「清春、お前を信じる」
そして空鷹は携帯電話を操作して姫紗を、契約者権限を使用して契約猫の譲渡を行う。
同時に清春も紫を譲渡し、互いの契約猫は入れ替わる。
「くくくくく…………っ」
そういえば、
『流石はAクラスの契約猫だね。能力も、能力開放も強力だ』
何故、清春は美海とその契約者と姫紗と空鷹しか知るはずのない、その情報を知っていたのだろうか。
「ははっ、……ははは…………っ」
姫紗は本能的に清春を嫌っていた。それは何故だろうか。
「あはっ、はは、はははっ……」
紫は時折言葉に出来ない悲しそうな顔をする。それは契約猫として幸せではない何よりの証拠なのではないのだろうか。
「――――っ」
都合良く駆けつけて美海から空鷹を守った清春。しかし都合が良すぎる。
親切に説明し、同盟を組み、何度も美海の襲撃から救う。それはあまりにも空鷹にとって都合が良すぎた。
おかしい。
おかしい。おかしい。おかしい。
何故疑問に感じなかった。思い込んでいた。いくらでも気付けるタイミングは存在していた。
これは……。
「馬鹿な男……」
紫が呟く。
空鷹は清春の顔を覗き込む。
そこには愚者を見下す勝者の醜い笑みしかなかった。
「ざぁぁああああんんねぇええええぇええんでぇえしたっ」
狂気のような叫びが慟哭する。
「お前騙されたの、ざまぁああぁみろぉ」
言葉が、理解できない。
そのまま、耳を通り過ぎる。
「はい、終了。大成功。入ってきていいよ」
清春の言葉に反応して、教室の扉が開かれた。ゆっくりと、仲間のもとに向かうように。
美海とその契約者である寺田剛は現れた。
「手間掛けさせやがって、やっとかよ」
「ごめんねぇ、手伝わせちゃって。でももうこれでAランク契約猫は僕のモノだ」
「どういう……、ことだ?」
「どういうこともそういうこともねーよ、僕はお前と組むずっと前から寺田と同盟組んでんの」
「な、に?」
「最初からお前狙われていたんだよ、僕に。具体的にはお前の契約猫だけどさ」
意味が分からない。どのタイミングだ。不可能ではないか。空鷹は姫紗と出会ってすぐに美海に襲われて清春に助けられたのだ。
まるでそれでは空鷹と姫紗が出会うのを知っていたようではないか。
「疑問かい? だよねぇ、教えてあげるよ。僕と寺田が契約したのは半年ほど前。その頃はまだ敵対していたけど、互いの契約能力が判明してからとあることに気付いた」
「とあること?」
オウム返しのように繰り返す。それは思考が一切働いていないことの証明だ。
「僕の契約能力は周囲2~3キロの一般人と契約者を見分け、感知する能力だ。そして寺田の契約能力は本来自分の契約猫の分しか見ることの出来ない携帯電話のデータを、契約者本人を目視することで覗き見ることが出来る能力だ」
契約能力。それは契約者が使用できる能力で、空鷹はまだ目覚めてはいない。それをどうやらこの二人は既に手に入れているらしい。
「これらの能力を組み合わせれば他の契約者より圧倒的なアドバンテージを得られることに気付いた。何故なら僕が発見し、寺田が調べれば戦う相手を常に選べる上に前情報を得て戦うことが可能だからだ」
「それを提案された俺は迷わず清春と手を組んだ訳だ」
それが空鷹と清春が出会う前の二人の経緯。既に、同盟を組んだその前から裏切られることは決まっていたのである。
「そして僕は見つけた。空鷹君、君をだ。寺田の能力で姫紗の性能を知った僕は考えた。常々紫のポンコツには悩まされていたからね。そして思いついた、姫紗を手に入れる方法を」
「……俺を信頼させて、譲渡させる作戦か?」
「その通りさっ」
歌うように、楽しそうに清春は声を張り上げた。
「君を信頼させる作業が一番難題だった。だけど美海という第三者を、共通の敵を作れば可能だった。敵の敵は味方。その理論で君は徐々に僕を信頼した」
その通りだった。清春の作戦は間違いなく空鷹を的確に篭絡している。
「俺は、裏切られたのか?」
「そうだよ。君は騙され利用されて全てを失った。馬鹿な男さ」
その通りだった。否定のしようもない。
思考が完全に停止した。
考えることを放棄しないととても自分を保てる気がしなかったのだ。
茫然自失。
空鷹は自分の意思で自分を手放した。
何も移さぬ瞳はただ虚空をさまよい。そして体に温かみを感じた。
「もう、本当にどうしようもないくらい馬鹿な男。でも出来損ないのあたしにはお似合いよ」
どうやら、紫に抱きしめられているらしい。
「清春、あたしを捨てて姫紗を手に入れてもう満足でしょう。ならもうこれ以上あたしと空鷹に、いや……、ご主人様に関わらないで」
「それは駄目だよ。彼の携帯を壊して失格にしないと、僕らが1STステージの条件を達成できない」
「美海と姫紗にアンタ達の能力なら後二匹くらい余裕でしょ、ここは見逃して。じゃないと自滅覚悟で全域に『森羅万象の鏡』で美海の能力開放を放つわよ」
「……っ」
清春が言葉に詰まる。こんな場所でそんな大技を自滅覚悟で使われれば無事では済まないだろう。
清春も、寺田も。
「行こうぜ清春、目的は達成した。無理に危険を犯す必要はないはずだ」
「そうだね。命拾いしたね、空鷹君。ほら、行くよ。僕の姫紗」
「はい」
まるで生気のない声で姫紗は答える。
屍のような雰囲気を纏い、ゾンビのような足取りで姫紗は清春に続く。
「マス……いえ、空鷹――」
姫紗の呼びかけにほんの少しだけ、空鷹は反応する。
「さようなら」
そしてその言葉に絶望した。
「まっ――」
呼び止めようとしたが、その姿は既にない。あるのは悲しくも優しい瞳をした紫だけだ。
「もう、遅いのよ。全部。……ごめんなさい」
「何故お前が謝る?」
「あたし、騙してた。ご主人様を」
「…………」
必要ない。と思っていた。
いついなくなっても構わないと本気で思っていたのだ。
しかし、実際失うとどうしようもなく心が痛い。苦しい。耐えられない。
まるで半身を失ったかのようだ。
一緒にいた時間ではない。時間以上に、姫紗と空鷹は繋がってしまっていた。
どうしようもない程に。
涙が堪えきれない程に、一緒にいることを望んでいたのだ。
なぜだろう。
どうしてだろう。
失うことは怖くない。独りでいることが当然の筈なのに。
自分から遠ざけて捨ててきた筈なのに。
それは手に入れてしまったからだろうか。故に、こんなに悲しむのだろうか。
どうにも、思考が定まらない。感情が、悲しみという一色の感情が自分の全てを余すことなく染め尽くす。
紫に抱きしめられながら、その温かみを感じながら。
空鷹の思考は時を超え、過去へと遡る。