取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて確認する事にした。
「お。結果出たな」
闘技場の受付横にデカデカと張られている順位表。
その前には沢山の人で溢れ返っている。
「あ、ちょっとすんません」
人ごみを掻き分ける様に順位表の前まで泳いで行く俺。
いま誰かの尻を触った気がするけれど仕方無いよね!
「えっと……」
上から順に奴らの名前を探す俺。
そして予想通りの結果にニヤリとする。
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一位 ユウリ・ハクナシャス
二位 ----------
三位 デボルグ・ハザード
四位 ----------
五位 ----------
六位 ----------
七位 ルーメリア・オルダイン
八位 ----------
九位 ----------
十位 エアリー・ウッドロック
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(やっぱ全員残ったか……)
エアリーが残れるかどうかが一番怪しかったのは事実だが、見た目とは違いかなり力があることは知っていたし。
うつ伏せ状態とはいえ背中に乗ったエアリーをどかす事が出来なかったのだ。
あのこしょばいマッサージの時に。
「うあああああああああああん! カズト様ああああああああああああああ!」
人ごみを泳ぐ様に抜け、奥のソファに座った瞬間、いつもの叫び声が聞こえて来た。
「よう、おめでとう。よく勝ち上がれたな、エアリー」
「わんわん!」
もう完全に飼いならされた犬のように俺の前にお座りするエアリー。
やめなさい。
また変な注目を浴びてしまうから。
「……お手」
「わん!」
ごめんつい……。
いま受付譲に凄い顔で見られた……。
「モンブランプリン1個ですね!」
「なんでだよ!」
「え……。だってお手したら餌をあげないと……」
自分で『餌』言っちゃったよこいつ……。
本人がペット認定してんじゃねぇよ!
「耳も触っていいですから」
「別に触りたくなんてないのですが!」
「うぐぅ」
物凄く残念そうな目で俺を見るエアリー。
エルフ耳をぴくぴくさせて。
そんな目で俺を見るなよ!
「……仕様がねぇなぁ」
期待の目に変化するエアリー。
そういえば俺、エルフの耳を触るのは初めてだよな……。
つん。
「あん///」
「・・・」
なにいまの。
コリコリ。
「あっ、ああっ!///」
「・・・」
え?
なに喘いでるの?
意味分らん。
「……エルフの耳は……(性感帯なのですよ……。カズト様ぁ……)」
「しらねぇよ! お前が触れっつったんだろおおお! 小声で吐息混じりに耳元で喋るなアホおおおおお!」
受付譲が隣の受付譲とヒソヒソ話しているのが見える。
マズイ……。
このままだとまた、あのめっちゃ怖いギルド職員のおっさんに睨まれる……。
「(おい! そこの感じてる変態エルフ! 場所変えるぞ!)」
「あ……。カズト様ぁ! あれ……? もしやモンブランプリンですか! わーい!」
なんか勝手に喜んでいるエルフ犬。
そして流れ的にそのまま闘技場内の食堂へと向かう事に……。
はぁ……。
◆◇◆◇
「はああぁぁぁ/// 至福の時間でしたああぁぁぁ///」
「……あそう」
結局5個もプリンを奢らされた俺。
糖尿病になっちまえ! この甘党エルフ!
「決勝戦はお昼ちょうどからだったよな。シードの俺を含めて11名での勝ち上がりトーナメント戦か……。なんだか懐かしいなぁ」
「懐かしい……ですかぁ?」
きょとんとしているエアリーを無視し俺は思案する。
俺の今までの最高順位は『2周目』の時の6位。
たぶん最後までやり続ければ優勝出来たのだろうが、途中で飽きて何も言わずに参加を辞退。
考えてみればほぼ投げやりな感じで『2周目』の日々を過ごしていたっけ。
まぁ、エリーヌとの結婚生活だけは満喫してはいたが。
ホット珈琲を飲み干し立ち上がる俺。
「さあ、そろそろ――」
「やあ、カズト。うん? そちらのお嬢さんは……」
「げ。ユウリ……」
振り向くと爽やかな笑みの青年が爽やかに俺に声を掛ける。
一瞬高鳴る俺の心臓。
「おお! 貴方は先日私と対戦なさった方ですね!」
「はは、君もカズトと知り合いだったんだね。彼女、変わっているだろう?」
「はい」
「おい!」
脊髄反射で突っ込む俺。
当然ユウリもエアリーも上位10名に入った訳だから、最低1回は対戦しているのだろうとは思っていたが。
「(……おい。エアリー。お前……何も感じないか?)」
一応聞いてみる俺。
彼女の様子を見てみる限り、エリーヌと同じくユウリに対する『耐性』を持っている様にも見えるのだが……。
「(……いいえ。さっきは凄く気持ち良かったのです……)」
「(耳のこと聞いてんじゃねぇ! ユウリと面向かっても何も感じないかと聞いてんだよ!)」
「(? はい。別にお顔の綺麗なイケメンさんとしか……)」
やはりそうだ。
ユウリの媚薬(?)は全ての女に対し効果を発揮する訳ではないらしい。
やはり魔法やスキルでは無く、単なるフェロモンの一種か何かだろうか。
「(もしかしてカズト様……。アレですか? 嫉妬って奴でしょうか?)」
「(違う)」
「(あうぅ……)」
エルフ耳を垂らして落ち込むエアリー。
どう見ても犬耳としか見えない。
「はは、女性同士のコソコソ話は何だか怖いな。今までそれで何度も刺されそうになったこともあるし」
「修羅場!? お前修羅場をくぐり抜けてきた猛者だったのか!」
ユウリの魔性に当てられた女の末路。
うわぁ、考えたくも無い……。
「ユウリさんはイケメンさんなのですから、軽々しく女の人に声を掛けない方がいいかもしれませんねぇ……」
今いいこと言ったエアリー。
お前に一票。
「そうだね。今後、自重するよ。……さて。そろそろ試合が始まる頃かな。一緒に控え室に行こうか? お嬢様方」
「……どこか自重してるんだよ全く……」
爽やかさを振りまきながら振り返り先を行くユウリ。
一体何しに食堂に来たんだよこいつ……。
「私たちも行きましょうか、カズト様」
「……ああ。そうだな」
エアリーに促され食堂を後にする俺達。
大丈夫。
まだ少し心臓がドキドキするが、面と向かって話しても喋れないほどでは無くなった。
これもそれも全てはエリーヌのお陰だろう。
試合が終わったらうんと可愛がってやろう。
そんな事を考えながら俺は――。
――イケメンの後に続き控え室へと向かうのであった。




