取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて咆哮する事にした。
「ん……」
目を覚ます。
ああ、そうか。
俺、あのままエリーヌと……。
「お目が覚めましたか、カズハ様」
「ああ、おはぶっ!」
エリーヌの姿をみた瞬間鼻水を吹き出す俺。
いや、俺も同じような格好だから人のことは言えないのだが。
「あ……。ごめんなさい、私たら……」
慌ててベッドの横に掛けてあるシーツに身を包むエリーヌ。
俺もそのまま布団をマントのように羽織り起き上がる。
「……」
「……」
お互いに無言になり見つめ合う。
一体どれくらい寝てしまったのだろうか。
「……お飲み物をご用意しますね」
「え? あ、うん。ありがとう……」
ぎこちなく返事をした俺はようやく今が深夜だと理解する。
3時間くらいは寝ちゃったのかな……。
明日は優勝決定戦が行われるし、そろそろ戻らないとヤバイかも……。
エリーヌからホットレモンを受け取りほっと一息。
それにしてもさっきのは凄かった……。
いやもう、あんな感じだとは思わなかったし……。
「……世の中、知らないことってまだまだあるものなんだな……」
「え? 何か仰いましたか? カズハ様?」
「あ、いや……」
自分の分のホットレモンを淹れながらも屈託の無い笑みを零すエリーヌ。
彼女のお陰で俺の心は『男』と証明出来たのだ。
身体が女になろうとも、心は男。
大丈夫。
これできっとユウリともまともに対戦できる筈。
「……はぁ。なんか俺、あいつとの対戦の為にエリーヌを利用したみたいになっちまったな……」
なんだかちょっと落ち込む俺。
エリーヌの事を愛している事には違いないのだが、何だか凄く申し訳ない気分になって来る。
「『ユウリ・ハクナシャス』……。前勇者であるゲイル・アルガルド様に次ぎ、『最有力勇者候補』と言われた人物ですわ。その甘いマスクで女性陣の支持は圧倒的ですし、お母様もユウリ様のファンなのですよ」
そう。
当然エリーヌはユウリの事を知っている。
だってあいつは元々『補欠候補』よりも上の『勇者候補』の1人だった訳だし。
「ゼメル王妃もユウリの魔性に魅入られてる、か……」
「はい。私はユウリ様を拝見してもなんとも思わないのですけれど、お母様が仰るには頭が痺れるような匂いが彼から漂ってくる、と……」
「ふむ……」
腕を組みながらも思案する俺。
やっぱ『あの匂い』は俺だけが感じている訳ではないらしい。
でもエリーヌは何とも思わない所をみると、一応個人差みたいなものでもあるのだろうか。
「別に何かの魔法やスキルを使っているって感じはしないしな……。媚薬を毎回振りまいている訳でもなさそうだし……。なんか知らんが、『持って生まれた女ったらしの性質』みたいなものなのかな……」
「ふふ、それだとカズハ様の貞操も危ないかも知れませんわね」
「笑い事違う!」
ついいつもの調子で突っ込んでしまう俺。
ペロッと舌を出すエリーヌ。
良かった。
ちょっと気まずい雰囲気がだいぶ解消された感じ。
「……さてっと。俺、そろそろ戻るよ」
起き上がり服を着ようとする俺。
「はい。私は大会を見には行けないのですけれど、カズハ様の優勝を心より願っております」
当然のように俺の着衣の手助けをするエリーヌ。
ホントにもう、良く出来た奥さんだよ。
俺には勿体無いくらいの。
「優勝が決まったらまた逢いに来るよ。今度は正式に《アックスプラント国》の女王として」
「はい。楽しみにお待ちしております」
最後にお互いの目を交わし。
しばしお別れのキスをする俺達。
◆◇◆◇
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
『ギャギャン!』
《エーテルクラン》までの道のりを全力で疾走する俺。
もはや敵無しといった感じでエネルギーチャージはMAX状態。
『キキィ!!』
道を塞ぐモンスター共は悉く彼方へと吹き飛ばされる。
なんか今なら『真・魔王』が2匹同時に出てきたとしても瞬殺出来そうな気さえする。
それだけ俺の心と身体は充実している。
『ブゲェェェェ!!』
俺はきっとずっと、エリーヌとこうなる事を心の底では望んでいたに違いない。
そして彼女もそれを望んでいたのだ。
たとえ記憶を失っていたとしても。
俺の性別が女に変化していても。
俺とエリーヌの絆は切れていなかったという証明。
「おっしゃあああああああああああああああああああああ!」
地面を強く蹴り跳躍する。
月夜に照らされた俺の身体が宙で翻る。
何か憑き物が取れたような感覚。
はっきり言って誰にも負ける気がしない。
《属性無し》の防具だろうが、攻撃力1の《ツヴァイハンダー》だろうが、《火魔法》が消失していようが。
きっと、俺は誰にも負けない。
「女でもやるときゃやるんだよ! 性別なんか関係ねえじゃん! いけるぞ和人! この人生も捨てたもんじゃねえだろ!」
『グアアアアア!!』
俺の叫び声とモンスターの断末魔が木霊する。
なんて壮絶なハーモニー。
さあ。
明日は滅茶苦茶暴れてやるんだからね!
◆◇◆◇
宿に戻りそのまま朝まで熟睡。
興奮して眠れないかとも思ったが、今の俺は心身共に万全の状態だ。
戻ってシャワー浴びて飯食ったら自然と興奮も収まり眠りに就けた。
ボサボサの頭を綺麗に櫛でとかし、数箇所を三つ網にする。
鏡の前に置いてある黒の眼帯をしっかりと装備し変装完了。
「うっし!」
両頬をバチンと叩き、傍らに立てかけてある《ツヴァイハンダー》を担ぐ。
他の装備も確認し、自分なりの『縛り条件』も頭に叩き込む。
《スキル》はガンガンに使う。
優勝決定戦ともなれば、かなりの猛者共がのし上がって来るはずだし。
《陰魔法》はピンチの時以外は使わない。
そもそも『退魔』として特化している、あまり使用者が多くはない魔法が《陰魔法》なのだ。
『得意属性』としている者も俺以外殆ど聞いた事が無い。
魔法発動時間にムラがあったり、魔法なのに相手に当てる事が難しい物が多かったりと、使い勝手は非常に悪い《陰魔法》。
《緊縛》なんかはそれの最たる魔法だ。
普通の人間じゃ、まず成功させる事は出来ない《陰》の最上級魔法。
当然か。
相手の能力をほぼ100%縛ってしまう極悪魔法なんだし。
それを使ったら大会を楽しむなんて事は出来ないだろ。
俺の目的は当然『優勝』だが、大剣のスキルポイントを大幅に稼ぐという目的もある。
「ユウリやデボルグ……。ルーメリアや、もしかしたらエアリーも……」
奴ら全員トップ10に入賞している可能性だって当然ある。
何だかワクワクして来たな。
大会が終わったら、全員《インフィニティコリドル》にスカウトしちまおうかな……。
そんな事を考えながら俺は、闘技場へと軽やかな足取りで向かう――。




