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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第二部 カズハ・アックスプラントの初めての建国
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取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて侵入する事にした。

「はぁ……」


 優勝決定戦の開会式の終了と同時にバックレた俺。

 日程では今日行われる試合はトップ10決定戦までだから、シード権を獲得した俺は明日までお休みだ。


「はぁ……」


 そしてさっきから街をブラブラしながらも溜息が止まらない俺。

 原因は言うまでも無く――。


「ユウリ……」


 俺はまるで恋する乙女の様な溜息を――。


「ちっがあああああああう! 断じて違うっ! 恋の溜息違うっ! 違う違う違うっ!!」


 俺の横を素通りした老婆がびっくりして入れ歯を落とす。

 俺の後ろを歩いていた子供が大きな声で泣き出す。


 しかし俺はそんな事を気にする余裕も優しさも持ち合わせてはいない。


 何故なら俺は絶対絶命のピンチだからだ。


「……やっぱりだんだん心も女になって来ている気がする……。そういえばこの前、シャワー室で気絶した素っ裸のエアリーを担いだ時もなんとも思わなかったし……ブツブツブツ……」


 大通りですれ違った若い男が、俺の『素っ裸』という単語に鼻水を吹き出す。

 道の脇にある雑貨屋の店員の女が顔を真っ赤にしながら指の隙間から俺のことをガン見している。


 しかし俺はそんな事を気にする余裕も突っ込む力も持ち合わせてはいない。


 何故なら俺は絶対絶命のピンチだからだよ!


「やばい……! どうしようマジで……! なんだかここに来てだんだん俺が俺で無くなって行く・・・・・・・・・様な感覚……! 『女』に興味が無くなって来て『男』に興味を……?」


 どうしよう……。

 なんか闘技大会とかしている場合じゃない気がしてきた……。

 どうしたら『男の俺』が目覚めてくれる……?

 何か良い方法は――。


「……エリーヌ……?」


 ……そうだ。

 俺は今、《アゼルライムス》に来ているんだ。

 ここ《エーテルクラン》から《アゼルライムス》まではおよそ900ULウムラウト程の距離。

 南門を抜けて南にまっすぐ進めば、今の俺の足ならばそんなに時間も掛からない。


「・・・」


 これしかない。

 今のこの俺のやヴぁい精神状態を救ってくれるのは、エリーヌしかいない。

 エリーヌのボインボインを堪能して、俺はまた再び『男』の精神に戻るんだ……!


 そう決意した俺は――。


「今すぐ行くから待ってろよエリーヌうううううぅぅぅぅぅ!!!」


 ――街中の視線を集めながらも猛ダッシュで南門へと駆け抜けて行く事に……。




◆◇




『ガルルルル!』


「うっせ! 邪魔なんだよデカぶつがあああああ!」


かきーん。


『ギャフーーーーン!』


 道中で現れた狼男みたいなモンスターを《ツヴァイハンダー》の腹でホームラン。


「死にたく無い奴は今の俺に関わるんじゃねええええええ! うおおおおおおおおおおお!!」


 全速力で《アゼルライムス》までの草原をひた走る俺。

 冷静に考えれば《隠密》を使用しながら走り抜ければいいのだが、今の俺は冷静に物事を考えられる状態では無い。


『キキィィィ!!』


 身の丈の3倍はあるかというほどの大猿系モンスターが道を塞ぐ。

 そして耳まで裂けた口を開き、鋭利な牙を俺に向けている。


「おじいちゃんお口臭いんだよおおおおおおおお!」


かきーん。


『ギャフーーーーーーーーン!』


 同じく星の彼方まですっ飛んで行く大猿モンスター。

 本当におじいちゃんだったとしても今の俺の目には何も映らない。


「くそ……! やっぱ最近はまたモンスター共が増えて来てねぇか……! あの大猿野郎は魔王城周辺にいるような奴だろうがよおおおおおおおお!」


 色々気になる事はあるが状況が状況だ。

 ここいらのモンスターの市場調査なんか後回しにするしかない。

 今でさえ気を抜くとユウリの事を考えてしまいそうなのだ。

 あのサラサラな金髪……。

 ほっそりとした身体つきなのに鍛えた腕の筋肉がチラッと見えたりして……。

 それに何よりもあの微笑……。

 嗚呼……ユウリ……。

 貴方に私の全てを捧げ――。


「――たら絶対にアカーーーーーーーーーーーーン!! うおおおおおおおおおおおお!!」


 

 草原に俺の咆哮が木霊する――。





◆◇




 数時間後。

 通常の3分の1位の時間で《エーテルクラン》から《アゼルライムス》まで到着した俺。


「ぜえっ……! ぜえっ……! ぜえっ……!」


 恐らくは新記録を樹立したのだろう。

 人間、死ぬ気になれば何でも出来るという訳だ。


「……と、取り敢えず……! 《アゼルライムス城》に……!」


 フラフラになりながらも城下町を北に抜け、《アゼルライムス城》の大きな城門前まで向かう。



・・・



 城の前には当然の様に警備兵が4名。


(……流石に一国の王女が他国の警備兵を襲撃する訳にはいかねぇよな……)


 多少冷静さを取り戻す俺。

 警備兵から見えない位置でウインドウを開き《隠密》を選択。

 途端に透明になる俺の身体。


(……あのくらいの高さなら飛べるな……)


 気配を隠しながらも警備兵から少し離れた位置の城壁を軽く飛び越える俺。

 これ見付かったらやばいよな……。

 今更ながらに一体俺は何をしてるんだろう、とか思ってしまう。


(あ……)


 早速前方に宰相と話をしているエリーヌを発見。

 良かった……。

 もしも外出中だっから無駄足だったから今日の俺はラッキーなのかもしれない。


「――ですので、この案件は以前指示した通りに行ってください」


「承知致しました。では私はこれで」


 いい感じに宰相と話を終えた様子のエリーヌ。

 そして彼女は自室へと向かう。


(ちゃーんす……!)


 俺は忍者の様な足取りで閉められる寸前の扉に滑り込む。

 と同時に《隠密》の効果時間が終了。


「え?」


「あ、こんにちは」


 目が点状態のエリーヌ。

 そりゃそうだろう。

 自室に戻って扉を閉めたら、いきなり目の前に隻眼の女が現れたら誰だって目が点になる。


「……カズハ……様……?」


「へ? 分るのか?」


 いきなり俺の正体を言い当てたエリーヌ。

 あれ……?

 もしかして俺……あまり変装した事になっていないのか……?


「……そのお声はやはりカズハ様なのですね……」


 安堵したかの様に胸を撫で下ろすエリーヌ。


「あー。ごめん、エリーヌ。驚かせちまって」


 取り敢えず謝る俺。

 別にエリーヌを驚かせる事が目的では無いし、素直に謝っておいた方が今後の為だろうし。


「……いいえ……。でもそんなご変装までされて、いきなり私の自室に忍び込むという事は、かなりの『緊急事態』という事でしょうか? ……まさか《ラクシャディア共和国》での案件と何か関係が?」


 エリーヌが言っているのは恐らくレイさん達が今行っている『重要文化財』がなんたらっていう仕事の事だろう。

 《アゼルライムス》に所属している精鋭傭兵団もいくらかは派遣されているだろうから、内容は知っていて当然だろうし。


「ううん、そっちは関係無いかな。……まあ『緊急事態』には変わらないんだが……」


「まあ……。私で何かお力になれる事がありましたら、何でも御申し付け下さい。カズハ様」


 俺の片目をじっと見つめてそう言ってくれるエリーヌ。

 ああ、やっぱりエリーヌは俺の事を心底分ってくれる女だ。

 俺は、エリーヌの事を愛している。

 これは紛れも無い事実。

 ユウリとかいう男に心が奪われるなんてそんな事――。

 そんな、事――。


「……カズハ様? お顔が赤い様ですけど、お風邪をお引きになられたのですか?」


「う……」


 ……駄目だ……。

 また俺……ユウリの事を……!


「すぐにお薬を用意させましょう」


 心配そうな面持ちでそう言ったエリーヌは踵を返し自室から出ようとする。


「待った!」


「え?」


 もう駄目だ。

 一刻も早く普段の俺に戻らなければ……!


 俺は無意識の内のエリーヌの腕を掴み自身に引き寄せていた。


「……カズハ……様?」


 エリーヌが俺の胸にすっぽりと収まる。

 彼女の大きな胸が俺の小さな胸に重なる。

 あれ?

 エリーヌ……なんかドキドキしてる……?

 心臓の鼓動が……?


「ごめんエリーヌ……! 俺……!」


 そのままエリーヌの顎を優しく持ち、俺へと向ける。


「………………はい」


「え?」


 何故かエリーヌは頬を染めながらもそっと目を閉じた。

 そう。

 まるで恋する乙女の様な表情で――。


「……あれ?」


 チャンスなのに。

 いま凄くチャンスなのに。


「……」


 あれ?

 エリーヌは……『俺』の事はまだ知らないよな……。

 そして今の『俺』は……女の姿だ。


 ……うん。


 あれ?

 エリーヌ……?

 お前まさか――。



「……カズハ様……。私、ずっとこういう日が来る事を……」


「・・・」







 ………………あれ?
















 

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