三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず振り回すことでした。
さあ、ついに始まりました。エーテルクランの闘技大会。
久しぶりだなぁ、この感覚。
ていうかやっぱ重いな……。このツヴァイハンダー……。
「それでは―――始めっ!!」
主審の合図により試合が始まる。
俺の相手は体格の良い筋肉質の男だ。
「あぁ? なんでぇ、こりゃまたえらく可愛らしいお嬢ちゃ――ぶはぁっ!?」
男が俺の全身を舐めるような目つきで見た瞬間。
大剣を振りかぶってぶっ飛ばしちゃいました。
だってキモかったんだもん……。
「し、勝者! カズハ・アックスプラントっ!」
「はい、どうもどうもー」
場内に歓声が沸き、俺は手を振ってそれに応える。
駄目だ……。まだ初戦はランキングが低いから、もっと手加減しないと……。
変に目立つと後々厄介なことに――。
「おい、あの嬢ちゃんめちゃくちゃ可愛くねぇか……?」
「ああ……! それにあんなにちっこい身体で、ツヴァイハンダーを軽々と振り回してやがるし……!」
「何あの子……! すごく強いし、格好いい……! それにちょっとボーイッシュだし、私ファンになっちゃいそう……!」
……。
アカン。もうすでに目立っとる……。
次の試合はちょっと大人しくしないと……。
「それでは―――始めっ!!」
次の試合。
今度の相手は小太りのハンマー使いの男だ。
さっきの奴よりは若干強そうに見えるけど、どうしたもんか……。
もっとこう、苦戦しているように見せないと駄目だよね。
あのハンマーをこの大剣で受けて、一回転んだりしたほうが良いのかな……。
でも汚れるの嫌だしなぁ。
この闘技場、回転率が高すぎてあんまり掃除とか追い付いていないっぽいし……。
「貴様ぁ! 何をよそ見しているのだ! この俺を侮辱しているのかぁ!」
……いきなり怒られました。
どうして冒険者って血の気が多い奴らばかりなんだろうね。
もっと気楽にいこうよ。
人生一度きりなんだから楽しまないと。
「うおりゃぁぁぁぁ!」
ハンマーを振りかぶり突進してくる男。
とりあえず作戦通り、大剣で攻撃を受けて転ぶ方向で。
服は汚れても仕方ないよね。
逆に綺麗すぎても違和感があるし。
ゴンッ!
「きゃあー」
重い攻撃を受けて、いちおう悲鳴も上げてみました。
演技力に自信のある俺は、転ぶ際に大剣を場外に放り投げたりもして。
これで相手は俺の武器を弾き飛ばしたと勘違いして――。
「ウホッ!」
「……うほ?」
男が転んでいる俺を見下ろして鼻の下を伸ばしています。
何だろうと思ったら、露わになった俺の太腿をガン見しているっぽい。
「……。チラッ」
「ウホホッ!!」
……。
ただのエロ豚だなこいつ……。
気が変わった。さっさとぶっ飛ばそう。
「おい、おっさん」
「あ……コホン。違うぞ。決してお前の太腿に見惚れていたわけではない。お前が立ち上がるまで待っていてやった――どべはぁ!?」
俺の拳が炸裂し、男は場外まで吹っ飛んでいった。
あ、やべぇ。ちょっとだけ本気で殴っちゃった……。
死んでないかな、あいつ……。
「し、勝者! カズハ・アックスプラントぉ!!」
再び歓声に沸く闘技場。
ヤバい……。また目立っちまった……。
多分この女の姿が余計に目立つんだろうな。
どうしよう……。
「すげぇ……! あの子、超強いぞ……!」
「あの体格の良い男を一発で仕留めるなんて……! 小さな身体のどこにそんな力があるのかしら……!」
「確か名前は『カズハちゃん』だったよな……! 一体どこの国の出身なのかな……!」
……うん。
もう駄目っぽい。
俺の完璧な作戦が全て裏目に出てる気がする……。
どうしてこうなった。
その後も順調に勝ち進んでいきました。
でも試合を重ねるごとに観客が増えていって、何故か俺の舞台の周りは超満員。
「カズハちゃーーん!! 頑張れーーーー!!」
「キャーーーー! アックスプラント様ーーーー!!」
……。
もうどうにでもなれって感じです……。
「それでは―――始めっ!!」
主審の号令も歓声にかき消されてほとんど聞こえない。
……これか! このツヴァイハンダーが悪いんだきっと!
大剣を振り回す少女なんて目立つに決まってるじゃん!
どうしてそんなことにも気付かなかったんだ俺は!
馬鹿なのか!
「ふふ。えらい人気だねぇ、あんた」
対戦相手に声を掛けられ、すでに試合が始まっていることに気付く。
……ん? 今度の相手は女か。
へー、珍しい。この男尊女卑のアゼルライムス帝国で女剣士なんて。
しかも武器は両剣ってか。
こんなクセの強い武器をよく扱えるなぁ。
ていうか出身どこだこいつ……。
あの褐色の肌はこの国じゃあんまり見ないし……。
「そのツヴァイハンダー……。なんだか変な感じがするねぇ」
「ぎくり」
女剣士の目線は俺の大剣に向けられている。
ゼギウスの完璧な加工を見破られた……?
何者だこいつ……?
「ふっ、まあいい。それじゃあ――行くよ!」
女剣士はそう叫び地面を蹴った。
一瞬の内に空高く舞い上がり、両剣を器用に回転させている。
「高い……!」
あれだけのジャンプ力はそうそうお目に掛かれるもんじゃない。
竜槍使いのグラハムに匹敵するんじゃね……?
「はああぁぁぁ!」
そのまま急降下してきた女剣士。
ガキィン――!
「あっぶね……!」
落下と武器の回転力を上手く両剣に伝え、重い一撃を食らわしてきた。
それを大剣で受け止めた俺だが、危うく剣を落としそうになったくらいだ。
今までの奴とは格が違う。
やべぇ、ちょっと気を引き締めないと……。
「ふんっ!」
間髪を入れず、女剣士はそのまま薙ぎ払いに繋げてきた。
俺はそれを後ろに飛び退き避ける。
「闇を払いし光の槍よ! 《ライトニングスピア》!!」
「いっ!?」
続けざまに女剣士は魔法を唱えた。
ていうか光魔法じゃねぇか!
こいつマジで何者だよ!
俺の頭上に光が集約する。
それらが徐々に数本の槍の形に具現化し。
直後、俺を目がけて降り注ぐ槍の雨。
「痛い! マジで痛い!」
大剣で防ごうにも全てを防ぎ切れるものでもない。
しかも光属性は俺にとって弱点でもある。
この世界に存在するあらゆる生物には『得意属性』と『弱点属性』がそれぞれ二つずつ備わっている。
俺の弱点属性は『光』と『闇』。
しかも今の俺はツーエッジソードのスキル効果のせいで二倍のダメージを負ってしまうのだ。
それだけではない。
弱点属性に対するダメージ補正というのがあり、補正率は250%。
つまり今の女剣士が放ったライトニングスピアという攻撃魔法を今の俺の状態に当てはめると――。
弱点属性ダメージ補正率(%)×スキル効果=250×2=500(%)
……うん。
通常よりも五倍もダメージを受けた計算になるね。はは……。
……笑ってる場合じゃねぇ!!
「ほう……? 『光』がお前の弱点か。これは都合がいい」
ニヤリと笑った女剣士は再び魔法を詠唱し始めた。
どうしよう。本気出すか?
いや、それじゃあ縛りプレイの意味が無い――。
「全ての闇を払う力をここに! 《シャインイクスプロウド》!!」
「またキターーー!」
今度は俺の胸の前に光が凝縮した。
あ、この魔法知ってる。
アレだよね。爆発するやつだよね。
ドカンッ――!
凝縮した光が弾け、大きな爆発音とともに俺は吹き飛ばされた。
当然、これも五倍のダメージ。
普通の奴だったら一発で死んでるレベルだ。
「くっそ痛てぇ……! でもやる気出てきたぞ! こうなったら俺だって――」
「……おや?」
女剣士が俺を見て首を傾げている。
あれ……? 追撃してこない……?
ていうか、周囲の観客がシーンとしてるんだけど……。
「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」
「うわっ! ビックリした! なに!? なんなの!?」
場内騒然。
あまりにビックリして、おしっこちびりそうになったんだけど……。
どういうことですか。
「おい小娘」
「はい」
「……隠したほうが良いのではないか?」
「……はい?」
女剣士の言葉に首を傾げる俺。
隠すって……何を?
「鈍い奴だな、まったく……。前を隠せと言っているのだ」
「前……」
女剣士が俺の胸を指差している。
つまり今しがた光魔法を喰らった場所だ。
爆発により破かれた衣服。
うん。
……うん?
あれ? これって――。
「くっくっく。随分と可愛らしいものを持っているのだな、小娘よ」
……。
…………。
絶句。
そして徐々に顔が赤くなってきました。
足がだんだん震えてきた俺は大きく息を吸います。
「うわああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」
俺の叫び声が場内に木霊したことは言うまでも無く――。