取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて考察する事にした。
目が霞む。
意識を保っているのも辛い。
状態異常の《毒》と《麻痺》。
その両方をこの身に食らいながらも状態異常回復薬が使えない――。
「ふふ……。どう? 気分は?」
「ちゅらい」
「……まだ余裕があるみたいね。でも……!」
カチンときた表情でそう言うルーメリア。
どうして俺はこういう女にはいつも嫌われるのだろう。
アルゼインやセレン然り。
(厄介だな……《無属性》の魔法なんて……)
相手の《得意属性》もまるで無視して、純粋に魔力の高さでダメージを与えられるって事なんだろうけど……。
問題は、物理攻撃のような強烈なダメージと、あの《状態異常》の付加攻撃だ。
ウインドウからアイテムや魔法を選択出来ないとなると……。
「魔女の瞳は全ての者を拒絶する! 《ラミア・シーイング》!」
ルーメリアの目が怪しく光る。
たぶんビームでは無い。
目からビームが出そうなのは怒った時のセレンくらいだし。
「……仕方ねぇか」
ちょっとスイッチが入った俺。
《夢幻魔道士》なんて珍しい職業の奴を拝めたのだ。
今大会はマジで退屈せずに済むかも知れない。
「さあ、カズト! 身も心も石化してしまいなさい! あとでちゃんと解除してあげるから……!」
既に全身に麻痺が広がっていた俺はルーメリアの目から自身の目を逸らす事が出来ない。
よって徐々に足元から石化して行くのだが――。
「左手は……まだ何とか手首から先くらいは動くか……」
俺は地面に落ちた《ツヴァイハンダー》をギリギリ動く左腕だけでなんとか掴む。
うん、無駄に重い。
でも、十分かな。
「はっ! 今更何を足掻いているのよカズト! 私の勝ちは決まり――」
「……《ツーエッジソード》……《弐乗》……」
《二刀流スキル》である《ツーエッジソード》と《陰魔法》である《弐乗》を同時に発動。
グングンと高まっていく力。
左手に握られた《ツヴァイハンダー》が非常に軽く感じる。
「《ヒルトクラッシュ》」
「え――」
淡い白い光と共に俺の左手に掴まれた《ツヴァイハンダー》は一直線にルーメリアの鳩尾へと滑り込んで行く。
そのあまりの打突スピードに会場の観客も審判も、何が起こったのかを理解するのに数秒は要するだろう。
静まり返る会場。
「……おい。審判」
「え? あ……。し、勝者! カズトおおぉぉ!」
『わーーーー!』という声援が更に数秒遅れて木霊する。
当のルーメリアはきっと何も分らないまま気絶したのだろう。
というか俺も下半身が石化しちゃって1人で起きられないし。
毒や麻痺も全身に広がっちゃってるから凄く気分が悪いし。
「……ごめん、審判さん。回復薬……使ってもらえますかね?」
◆◇◆◇
「ん……」
「おお、目が覚めたか」
「ここは……」
医務室で目を覚ましたルーメリア。
一応手加減はしたつもりだが、女の、しかも魔道士の筋力ではちょっとばかしきつい攻撃だったかも知れない。
綺麗に鳩尾に入ったから骨は折れていないみたいだったけど。
「……私……負けた、の……?」
信じられないといった表情のルーメリア。
そりゃそうだよな。
直前まで圧倒的に俺を追い込んでいた訳だし。
「まあ相手が悪かったよ。俺だし」
「……何よ、それ……」
はぁ、と溜息を吐いてそのまままたベッドに寝てしまったルーメリア。
時折痛みを堪えている様な表情をしているから、かなりのダメージを負ったのだと推察する俺。
「でもよぅ。まさか本当に幻の13番目の属性が発見されてたなんてよぅ。俺、驚きだよ全く……」
どういう研究で《魔法遺伝子》から未知の《無属性》を抽出出来たのかは知らんが……。
そして気になることはもう1つ――。
「なぁ、ルーメリア。お前の《得意属性》を教えてくれないか?」
「……流石に気付くわよね」
諦めた様な笑いでそう答えたルーメリア。
「俺は《火》と《陰》だ。《火魔法》は『禁じられた魔法』を使っちまったからもう使えなくなっちゃったけど」
「禁じられた魔法……? まさか貴女……『魔術禁書』を?」
「あー。まあ、そこら辺はおいおい教えてやるからさ。なぁ、教えてくれよ」
俺の返答に何やら考え込んでしまったルーメリア。
流石に興味あるか。
『魔術禁書』は魔道士ならば喉から手が出るほど欲しい《古代知識書》の内の1つだからな。
「……私の《得意属性》は《木》と《闇》よ」
「……やっぱり……」
俺の予想は的中した。
ならば彼女が《無属性》の魔法を使えたという事は、この世界の『ルール』を超越しているという事にも繋がってしまう。
本来ならばこの世界の住人は必ず2つ持っている《得意属性》に属した魔法しか使用する事が出来ない決まりなのだ。
例外は1つだけ。
それはリリィの様な《大魔道士》だけが全12種類ある魔法を全て使う事が出来るのみ。
なのに彼女は《木》と《闇》以外に《無》の魔法を使用していた。
そもそも《夢幻魔道士》なんていう職業は、俺が知る限りではこの世界には存在しない筈なのだ。
(……やっぱりこの3周目の世界は……)
既に過去2回のストーリーとはだいぶ違って来てしまっている。
俺の行動が原因なのか。
それとも《精霊王》の亡霊がまた悪さをしているのか。
(……ちょっとレイさん達の事が心配になって来たな……)
俺達《インフィニティコリドル》に直接依頼を出してきた《ラクシャディア共和国》の宰相のじじい。
文面では『大した事ではないのだが』とか書いてあったけど、何だか嫌な予感がしてきたし……。
「……カズト?」
「ほぇ? あ、悪ぃ悪ぃ。ちょっと便秘の事について考えてた」
「はぁ?」
「冗談だ」
「…………はぁ」
大きく溜息を吐いたルーメリアはそのままそっぽを向いてしまった。
……うん。
俺、やっぱこういう女には嫌われるタイプなのかもな……。




