取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて泥を被る事にした。
「てーい」
『ギュギュンッ!!』
「やーあ」
『キャウウンッ!!』
「必殺! 『凄く、おおきいです……』」
『グエエ!!!』『ギョエエエ!!!』
凄く大きい《ツヴァイハンダー》を適当な必殺名で振り回し2匹同時に吹き飛ばす俺。
因みにスキルでも何でも御座いません。
「ふぅ……。えっと……全部で1432Gか。あとちょいだな」
辺りはモンスターの亡骸の山。
素材やアイテムはパンパンで拾えないからそのまま放置している。
俺の目的は金のみ。
「お。ちょうどあそこに5匹も纏まってるぞ」
ダッシュで駆け寄る俺。
たまには《スキル》を使うか……。
この辺りの敵で《スキル》を使った所で大してポイント溜まんねぇけど……。
「いっくぞー。《ストライプ・トラスト》!!」
大剣を右手だけで構え力を貯める。
モンスターの群れが俺の殺気に気付き逃げようとする。
不思議だよなーホント。
俺のレベルは『非表示』にしてるのに、頭脳が高いモンスターは俺の強さに気付く奴もいるんだもんなー。
なんだろ、オーラみたいな物でも感じてるんかなー。
力が十分に溜まった所でそのまま突きを繰り出す俺。
突きの勢いで身体ごと前方へ跳躍する。
『ギャンッ!!』『グエエッ!!』『キキーー!!』『ゴエエッ!!』『キュキュンッ!!』
モンスターの群れの中心をそのまま斬撃ごと通過する。
後ろをチラ見すると5匹のモンスターが全て縦に3本に割れていた。
縞模様とは良く言ったものだ。
今使える《大剣スキル》では、これが一番集団戦で使い勝手が良いかも。
「さー次、次! 時間が無いぞー。頑張って稼ごうぜー! 戦乙女の俺!」
遠くに見える別のモンスターの群れに狙いを定め、再度ダッシュを始める俺。
・・・
『エーテルクラン:西門』
「ひい、ふう、みい、……うし。締めて2245G。稼いだなー。俺天才」
時間までに目標額に達成した俺は取り敢えず闘技場でシャワーでも浴びようと歩を進める。
「そういやあデボルグとルーメリアは大丈夫なんかな……。ありゃぁまだ酒が残ってるだろ……」
あいつらがどれくらいの順位まで行くかは分らないが、ある程度の賞金が貰える順位になったら金を返して貰おう。
『酒を奢る』とは言ったが、流石にあれは飲み過ぎだろアホンダラ共め……。
「人の乳は勝手に揉むし、人の顔には勝手に乳を押し付けるし……。それをやりたきゃ、あの二人で勝手にやってりゃ良いのに……ブツブツブツ」
そうだよ。あれだ。需要と供給ってやつだ。
俺を介さなくたってデボルグとルーメリアだけで済む話じゃねえか。
何故いちいち俺を間に挟むんだよあいつ等は……。
「あああああ!! カズト様ああああぁぁぁぁぁ!!!」
なんか遠くから犬の声が聞こえる。
否、エアリーの声だった。
「おお、どうだ? 勝てたのか?」
エアリーは泣きながら息を切らしながら鼻水を垂らしながら両手を大きく広げながら俺に突っ込んで来る。
俺はそれを軽い足捌きでかわす。
「へぶっ!!」
そのまま顔から地面に突っ込んだエアリー。
受身くらい取れよお前……。
「ど……どうして避けるんですかぁ……。全身泥だらけになっちゃったじゃ無いですかぁぁ、カズト様ぁぁ」
「なんとなくだ。色々汚そうだったから」
特に鼻水が。
「う、うう……酷いのですぅ……。せっかく試合に勝利したのにぃ……ぐすん」
「へえ、勝ったのか? そりゃあ良かったじゃねぇか」
「良くありませんよぅ。祝杯ムード台無しなのです……ぐすすん」
そのまま地面にのの字を書き始めたエアリー。
その前に顔の泥を取りなさい。
洗顔泥パックみたいになってるから。
「まあまあ……俺ちょうどこれから食堂で――」
「ケーキですかっ!?」
「・・・」
「『ケーキを奢ってくれる』! そういう事ですねぇ!?」
「あ……いや」
食堂で……軽く喉を潤してからシャワーを浴びに行くから、って言おうとしたんだけど……。
「嬉しいのですぅ……! カズト様がこんなにも私の勝利を祝いたいなどと思って下さっている事が……!」
「あの……」
「行きましょう! ケーキは待ってくれません! モンブランプリンの材料が無くなってしまいます!」
待つし。
無くなんねぇし。
なのにグイグイと俺の腕を引っ張るエアリー。
……うん……。泥……。
「わかった、わかったから……。取り敢えず先にシャワーだ。お前、その顔でモンブラン食べるつもりかよ……」
「♪~♪~♪」
・・・。
駄目だ、聞いてない。
どちらにせよ、この泥だらけの格好のエアリーは入室禁止になるだろう……。
上手くシャワー室に誘導すっか。飴玉でも見せて。
……犬、だな。
◆◇◆◇
『闘技場:待合室:シャワールーム』
「モンブラン♪ モンブラン♪ モッンブッラン~♪」
隣のカーテン越しにエアリーの嬉しそうな歌声が聞こえる。
「ちゃんと泥落としてからだぞ。ああ、キッタねぇ、俺の髪にまで泥ついてんじゃねぇかよ……。洗わなきゃ駄目だなコレ……」
さっきエアリーが俺を引っ張った時に付いたんだなこれ……。
髪まで洗うとなると乾かして三つ編みすんのも結構面倒臭いんだよなぁ……。
いいや、後でモンブラン奢る代わりにエアリーに結んで貰おう。
「カズト様ぁ? お背中お流しお致しましょうか?」
「おいたしません」
「むうぅ。そうですかぁ」
俺はエアリーを無視しシャンプーを手に取り頭を洗い始めた。
「お、結構良いじゃん、ここのシャンプー。流石は《エーテルクラン》の公的施設だけはあるなー」
「カズト様ぁ? 私の所にあるシャンプー泡立ちが凄く悪いのですぅ……。腐ってるんですかねぇ」
シャンプー腐らねぇだろ……。
「それリンスなんじゃね? ボトルちゃんと見てみろよ」
適当に流し自分の髪を洗う俺。
長いから時間掛かるんだよなぁ……。
「あああ! リンスです! これはリンスですぅ! 犯人はリンスなのですぅ!! シャンプーを何処へやったですかぁ!」
「しらんがな」
「ちょっとカズト様のシャンプーを貸して欲し――」
そして俺は視界の隅でしかと見た。
エアリーがテンプレ通りに、何故か足元に落ちていた固形石鹸の上に足を乗せるのを。
そしてそのまま――。
――シャンプー中で屈んでいた俺にダイブして来る姿を。




