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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第二部 カズハ・アックスプラントの初めての建国
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取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて見蕩れる事にした。


「改めまして。僕は《ユーフラテス公国》から闘技大会に参加する為に来た『ユウリ・ハクシャナス』と言います。今大会で何とか優勝を目指し、まずは『勇者候補』に昇進する事が目標かな」


 はは、と爽やかな笑顔で笑うユウリ。


「……という事は、既に《アゼルライムス王》に『補欠候補』としての申請を済ませてるって訳だな」


 大丈夫。

 もうドキドキは大分収まった。

 男にドキドキする俺……。

 情けねぇ……。


「うん、そうだよ。先月出された新法律の施行で僕も降格しちゃったからね。ははは」


「降格……? てことはユウリは元々『勇者候補』の一人だったのか?」


 ならば先の『王都襲来』の時にも緊急招集が掛かっていた筈。


「うん、そうだね。……でも王都襲来の時にはちょうど《ユーフラテス公国》で長期の出張クエストを受けていてね。僕の傭兵団は王都防衛戦に参加出来なかったんだよ。皆には本当に申し訳無い事をしたよ……」


 そうか。

 ならば俺があの時、ユウリの顔を見かけなかったのも頷けるな……。

 《ユーフラテス》での長期クエストならば、多分無人島での地図作成クエストか何かだろう。

 あの国はまだまだ未開拓な土地がかなりあると聞く。

 パーティ総出で無人島に何日も掛けて滞在するのだ。

 緊急招集を掛けられた所で到底間に合わなかっただろう。


「カズトは? 僕の見た限り、結構な場数を踏んでいそうに見えるけど……。『王都襲来』の時に召集はされなかった?」


 ユウリが言っているのは『カズハ・アックスプラント』としての俺の事では無いだろう。

 王都防衛戦で召集されたのは『勇者候補』や『補欠候補』の戦士だけではなく、全てのギルドに所属する『傭兵団』にも声が掛かっていた筈。

 俺の出で立ちを見て、瞬時に何処かの『傭兵団』に所属していると予想しての発言だろう。


 的確な判断力と洞察力。

 

 結構侮れねぇなこいつ……。


「あー、うん……。一応、召集されたようなされなかったようなー……」


「ふふ、どっちだい? それともそうやって誤魔化して、僕を誘っているのかな?」


「誘っていません!」


「冗談さ、冗談」


 そう言ったユウリは俺に爽やかな笑顔を振りまいた。

 俺はその笑顔が直撃する寸前で目を逸らす。

 危ねぇな……あの笑顔は。

 もしかしたら何かの《闇魔法》でも仕込んであるんじゃないのか?

 セレンの《オブセンスウィスパー》みたいな『魅了系』の魔法みたいなやつが……。


「……とにかく俺は、気分が優れないから、その、帰るけど……」


 どもるな俺!

 フラグなんて立っていませんよー! 俺ー!


「そう……うん、分った。明日から大会本番だがら、今日はゆっくり休むと良いよ。きっとここまで長旅だったんだろう? エントリーナンバーを見た限りじゃあ、今さっき登録して来たばかりの様だし」


 そう言いユウリは右手を差し出した。


「もし僕と当たったら、お手柔らかに頼むよ。カズト」


「あ、ああ……こちらこそ、ユウリ」


 おずおずと釣られて右手を差し出す俺。

 細い、女のような白い手が俺の手を優しく包み込む。

 フラグなんて……! 立っていませんよー俺ェ!


「じゃあ、また明日」


 軽く右手を挙げ爽やかに去っていくユウリ。

 俺はその後姿に見蕩れ……てねぇっつうの!

 馬鹿あああああ!


 俺はそのままばたり、とベンチに倒れ込む。


「疲れた……。なんか知らんが……スゲェ疲れた……。はぁ……」


 だが何故だかさっきまでの鬱は何処へやら。

 ユウリの手前ああは言ったものの、だいぶ気分は解れて来た。


「『ユウリ・ハクシャナス』かぁ……。色んな意味で危険な奴だな……。俺にとって……」


 なるべくなら大会で当たりたくない。

 力と力が本気でぶつかり合う闘技大会。

 お互いの奥の手を曝け出し、身も心も曝け出したその瞬間。

 友情だと思っていたお互いの感情は、いつしか――。


「アッーーーーーー!! 『いつしか』じゃねえええええええ!! しかも俺は本気でなんて戦わなねぇっつの!!」


 通行人が3、4人俺を振り向き、何事も無かったかの様に通り過ぎた。


 頭上ではカラスが鳴いている。


 

 そして俺の周りには、誰もいなくなった――。





◆◇◆◇





『宿屋:おれの大好きなフカフカベッド』



「えいやっ!」


 部屋に戻って来た早々お気に入りのベッドにダイブする俺。

 そして枕を抱っこしゴロンする。


「あー。駄目だ……。気を抜くとユウリの事ばっか考えちまう……。コレはマジでヤバイ……」


 こういう時はあれだ。

 色々と計算して気を落ち着かせよう。


 俺はベッドの上でブリッジをしながら計算する。


 この大会で俺が優勝すれば賞金1000万G。

 レイさん達が参加している『義勇軍』の任務の支給金額が一人当たり50万G。

 んで、その参加した傭兵団で、一番最初に『重要文化財』を《王都アムゼリア

》に運び込む事が出来たチームにはクリア報酬として400万G。

 報酬がやけに少ない気がするが、そもそも『義勇軍』としての参加は儲けが少ない。

 でも今は『王都襲来』以来は平和な日々が続いちまっているからギルドで受けられる仕事も格安なのばっかりだし……。


「えーといくらだ? レイさん、アルゼイン、リリィ、セレン、グラハムだから……250万Gで……。クリア報酬が400万Gだから足して650万G……。で、俺が優勝して1000万Gだから――」


 ……締めて1650万G。

 これだけ稼げれば9人分の生活費もそれなりにまかなえるか。


「よっと」


 そのままブリッジの姿勢から立ち上がる俺。


「……一応オムツ買って来よう。持ってくんの忘れた……」



 そして思い出したように雑貨屋へ――。


















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