取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて鬱を癒す事にした。
「あー……。鬱だぁ……」
一気にモチベーションがだだ下がりの俺。
そう言えば『あの日』がそろそろな気がする。
流石に1年も女をやっているんだ。
この急な不安定な気分の原因が何なのかは流石に気付く。
「明日から闘技大会だってのに……。まあ……どうせある程度は手加減しないとマズイからちょうど良いっちゃあ、ちょうど良いんだろうけど……」
あー。テンション上がらねぇ。
そういえば中央広場みたいな所にでっかい噴水みたいなのがあったよなぁ。
そこでちょっと休んで来るかなぁ……。
のそり、のそりと大通りを歩いて行く俺。
・・・
大通りがちょうど交差している中央広場。
その中心には結構綺麗な噴水が設置されていて、ちょっとした広場みたいになっている。
「お、ちょうど人もそんなにいないし……。俺の素敵スピリチュアルを高めてくっかな」
噴水を囲うように並んでいるベンチの一つに座る俺。
目を瞑る。
この水音に何とも心を癒される。
「……」
誰かが同じベンチに座る気配がした。
俺は別に気にもせずスピリチュアルを高め賢者モードフルバースト真っ最中である。
「……」
隣の人物もこの水音に癒されに来たのだろうか。
というか何か知らんけど凄く良い匂いがする。
いや、匂いって言うか……なんだろコレ。
俺は薄目を開けて隣の人物をチラッと見てみた。
耳まで掛かるくらいの長さの金髪。
整った顔立ち。
多分背も結構高いんだろう。組んだ足の長さがそれを物語っている。
(……うわ、これあれだ……。イケメンってやつだ……)
軽く溜息とか吐いている。
仕草がめっちゃ絵になってるとはこういう奴の事を言うのだろうか。
・・・。
いや、待て、俺。
あれ……?
さっき俺……『凄く良い匂いがする』とか考え無かったか……?
いや、確かに今もこいつから凄く良い匂いっていうか……。男の匂い……?
あー、フェロモンって言うんか。
すげー安心するって言うか、この身を捧げたくなるって言うか――。
・・・。
……おい。
俺いまなんつった?
「? ……どうかされましたか?」
隣に座る男が俺に声を掛ける。
そら掛けて来るよな。
俺いま、顔面蒼白になりながら頭を抱えているのだから。
「あ、や、な、何でも無いです……」
おい!
なんでドギマギ口調なんだよ俺!
よく見て! 隣にいるのは男!
『男の娘』でも『可愛いショタっ子』でも無い成人した男やろ!
・・・。
おい。
俺いま、なんつった?
「顔色が良くないな。調子でも悪いんですか?」
男が俺に顔を寄せる。
やめて。近付かないで。
何か俺、ちょっと今日は変だから。
くそ……!
『あの日』が近いのも関係してんのかな……。勘弁してくれよマジで……。
「ひっ!?」
男が俺の額に手を当てやがった。
変な声が出ちゃった……。ハズイ……。
「熱は……無いみたいだね。……あ、ごめん……。いきなりおでこを触られたらびっくりするよね」
多分顔が真っ赤になってるだろう俺のおでこから手を離す男。
きっと離した途端に熱が上がったのだろう。
そしてこいつはそれに気付いて手を離し、笑顔で謝罪を述べたのだ。
顔が赤くなってるって……どゆことだよ俺……。
「あの、大丈夫なんで……その、近い……」
「?? ……ああ、確かに近いね。ははは」
頭を掻きながらベンチの端まで下がっていった男。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
「ところで君……その格好から察すると、闘技大会の参加者なのかな?」
男は俺の姿を嫌味無く見回しそう言う。
「へ? ……あ、はい。そうですけど……」
何で敬語使ってんだよ俺!
こいつもタメ口で喋ってるんだから俺もタメ口で喋ろよぉ!
何か色々変な感じで凄く怖いんだよ俺ぇぇ!
「そっか。……実は僕も参加するんだよ。ほら」
男は参加証を俺に見せる。
『NO.007654 ユウリ・ハクシャナス』
「ユウリ……さんですね」
俺は反射的に自分の参加証を提示する。
『NO.030276 カズト』
「……へぇ。君、女の子なのに男の子みたいな名前で『登録』してるんだね」
……男です俺。
今はちょっとやヴぁい感じになりかけてるけど……。
・・・。
ん? 『登録』?
「……もしかして、『偽名』ってばれてます?」
おずおずと尋ねる俺。
「はは、そりゃあ君みたいな女の子が『カズト』とだけ名乗ってたら本名だとは誰も思わないと思うよ」
「マジか……」
まあ、そりゃそうだな……。
偽名でも本名でも受付はお構いなしに提示された氏名で登録してくれるからな。
事情があって名前を伏せなきゃなんない奴なんてごまんといるんだろうし。
俺も敢えて何も考えずに『前世』の名前をそのまま使っちまったから、ソッコでばれても仕方無いか……。
参加証を胸に仕舞い俺は改めて男を、ユウリを見やる。
(……こいつ女にモテるんだろうなー……。笑顔とか爽やかだし女性に対して優しいし……)
あー。あれだ。
グラハムと完全に両極タイプの人間だきっと。
あいつは一歩間違えればただの犯罪者だからな。
そう考えれば俺が一瞬ユウリにドキッとしちまったのだって別に変な事では無いのかも知れないぞ。
いや、全然変では無い筈。
だってそうだろう。俺の国にはジジイと変態紳士しか男がいなかったんだから。
そりゃあ俺だってまともな男が何人か周りにいればこんな変な気分になる事なんて無かった筈なんだ。
そして俺は笑みを零す。
目の前にいるイケメンは首を傾げている。
そう、俺はこの『フラグ』に対抗する為――。
――全ての責任をグラハムとゼギウスに押し付ける事に決めたのだった。




