取り敢えず建国した俺は暇を潰すため敢えて変装する事にした。
『オーシャンウィバー:宿屋』
「取り敢えず部屋は取っておいたから。ほれ、鍵」
食事を終えた俺はエアリーと共に一番安い宿を取った。
「え? お部屋は別々なのですかぁ? カズハ様ぁ」
子犬の様に後をついてくるエアリー。
なんか『けんけんぱ』みたいなジャンプをしながら付いて来ているし。
子供かっ。
「当たり前だろう。何で同じ部屋を取らなきゃいけないんだよ……」
「え? だってぇ、一国の女王様が一人旅って言うのも何か危ないんじゃ無いかと思ってぇ……しゅん」
その場にしゃがみ込み『のの字』を書き始めたエアリー。
まあ……そうだよな。
普通は一国の女王が一人で旅をして、こんな安っちい宿に泊まる事なんてまず無いのだろうな。
でもな、エアリー。
俺んとこの国、マジで金無くてひぃひぃ言ってるからこれも致し方無い事なんだよ。
お前のその気持ちだけありがたく受け取っておくよ。
「……それに1人部屋にして貰った方が宿代が浮いて助かったのにぃ(ボソッ」
「俺に奢らせる気だった!? ちゃっかりしたエルフさんですねーっと!」
俺は変なターンでその場を回転しながら、危うく蹲っているエアリーに蹴りを入れてしまう途中で何とか勢いを止める事に成功。
こいつは思っている事がつい口に出ちゃうタイプか。
色々今までの人生で沢山の地雷を踏んでそうでなんか怖い。
「……まあ、いいや。今日は疲れたし、俺はもう部屋に戻って寝るから。夜は外を出歩くんじゃないぞエアリー」
そう言い残し、自室のドアを開ける俺。
「・・・」
「・・・」
「いや、だから」
無言で部屋に入ろうとするエアリーに待ったを掛ける俺。
なに、さも当たり前の様に部屋に入ろうとする?
「カズハ様には色々とお世話になりました。なのでマッサージでもして差し上げようと思いましてぇ」
『マッサージ』と言う言葉につい眉を吊り上げてしまった俺。
……何を考えているんだ俺。
思考回路がおっさんそのものになっているぞ。
いくらこの異世界で『3周目』の人生を歩み、体感年齢で言えば20代後半くらいには差し掛かっているとはいえ。
問答無用で『あっち系』に思考が直結されてしまうとか、ただの下ネタ好きなおやじでは無いか。
「エアリー君」
「はい、カズハ様ぁ」
「お願いする」
俺は真顔でそう言った――。
◆◇◆◇
「はあ/// はあぁぁ/// はああぁぁぁぁん///」
「ごめん、エアリー。そういうの止めて貰えないだろうか」
俺はうつ伏せにベットに寝かされている。
その上にエアリーは跨り、俺の腰をマッサージしている。
「はあぁぁぁん/// え? 何が、ですかぁぁ? んあん!/// カズハ、様ぁぁ///」
「いや……その声は……必要でしょうか、エアリーさん」
普通に腰を押せば良い。
力を込める度にその艶かしい声とかいらない。
と言うかエアリーはいつの間にレイさんキャラになったのだろう……。
色々と勘弁して貰いたいのだが……。
「次は……太腿を解しますねぇ」
そのままくるっと半回転し俺に背を向け腰に座るエアリー。
太腿にエアリーの細い小さな手が差し掛かった瞬間、俺は身体をくねらせる。
「う、ちょ、待った! コショイ! コショバイ!! やだ!止めて!!」
「むむむぅ、凝ってますねぇカズハ様ぁ……。これは丹念に解さねば……」
ジタバタする俺を無視し太腿を解していくエアリー。
アカン……! これ耐えられない……!
「ちょ、やめ、マジ無理! 無理無理無理! ら、らめええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「あ、今、お尻が『きゅっ』となりましたよカズハ様ぁ。お尻の方も解しますかぁ?」
「解すかアホっ!! いいからもう止め……! ちょ、おいお前! わざとそういう触り方してんだろっ!!」
「ホント、カズハ様の足って身が引き締まっていて『から揚げ』にしたらとても美味しそうですぅ」
「いい加減食べ物から離れろよ! 表現は怖ぇしコショバイし、俺全然癒されねぇよ!!」
両太腿をロックされ、腰にエアリーが乗っかっているせいで逃げようにも逃げ出せない。
……あれ?
俺でもこの体勢から『逃げ出せない』って……。
「むぐぅ……そうですか。それでは何の為にカズハ様にマッサージして差し上げているのかが、分らなくなってしまいますしねぇ」
観念したかの様にエアリーは俺の背中からその身をどかす。
あぶねぇ……。助かった……。死ぬかと思った……。
「後は何か御座いますかぁ? お申し付け下されば何でも致しますが……」
『何でも』という言葉で眉を吊り上げてしまう俺。
・・・。
もう、いい加減にそういうのは止めよう……。
「うーん…………あ。じゃあ、ちょこっとだけ俺の髪を三つ編みにしてくんねぇか?」
昼間思いついた『変装』。
この長い髪のこめかみの部分の毛と、あとは後ろ髪の何箇所かを細かく三つ編みにして。
んでもってそこの雑貨屋で買って来たこの厨二チックな黒の眼帯を付ければ――。
「三つ編み……。ああ、そういう事ですね」
エアリーは察したかの様に俺の髪を三つ編みにして行く。
「勘がいいな、エアリー。そうなんだよ、俺――」
手際よく三つ編みにして行くエアリーを振り返るとなにやらニヤケ顔で俺を見てくる。
「恋、ですね?」
「・・・」
「愛、でしょうか?」
「違う」
俺は未だにニヤニヤしているエアリーの顔を見て確信する。
こいつは、きっと、馬鹿なんだろうな、という事を――。




