エリーヌ·アゼルライムスの恋物語。
『アゼルライムス帝国:アゼルライムス城:王の間』
「それは本当で御座いますか? お父様!」
私を含め、王の間に集まる家臣や兵士達にどよめきが走る。
「……ああ、エリーヌよ。勇者ゲイルがあのようになってしまった事も……妹であるレインハーレインの躍進も……。全てワシの浅はかさが原因だとようやく気付く事が出来たのじゃよ」
「お父様が……。非をお認めに……」
信じられなかった。
あれほど代々続いた風習や慣わしを変更する事がお嫌いなお父様が……。
「皆も聞いたであろう。今ワシが言った通りじゃ。今現在の『勇者候補』に名乗りを上げている総勢1000名の戦士達は――」
歴史が、変わろうとしている。
あの『戦乙女』――カズハ・アックスプラント様のご活躍で……。
「――全員『補欠候補』への格下げを命ずる」
◆◇◆◇
《アゼルライムス帝国》には、世界を代表して代々受け継いできた『儀式』が存在する。
それは数千年前に起こった《精魔戦争》にて《精霊軍》が破れ、世界は魔族が支配する『暗黒時代』に突入した事から始まった。
《精霊軍》を指揮していた当時の《精霊王》は魔族に封印され、残った精霊族、そして『精霊軍』に加担していたドワーフ族、エルフ族、ゴブリン族はその殆どが駆逐され。
もはや世界は魔族のみが頂点に君臨する、まさに『暗黒時代』に相応しい世界と成り果てた。
しかし生き残った精霊達は秘密裏に逆襲の機会を虎視眈々と見極め。
数千年の時が経ち、世界に『人間族』が現れてから徐々に世界情勢が変化して行った。
そして、驚異的なスピードで『知識』という武器を身に付けて行く人間族に、未だ復讐の炎が覚めやらない精霊族の生き残り達は目を付けたのだ。
『――彼らと《契約》を交し、共に世界を蹂躙する《魔族》を駆逐する――』
当時、徐々に『国』という形で領土を広げていた人間族の長と、生き残った精霊族の長は互いに互いの思惑を汲み。
精霊族は《魔法の遺伝子》についての知識を人間族の学者に授け。
人間族は『儀式』という形で聖なる力を持った人間――『勇者』を精霊族の長より授かったのだ。
それにより人間族は魔族しか使えない筈の《魔法》の力を得。
また精霊族は『勇者』を筆頭に人間族の戦士達を導き魔族の領土へと進攻を強めて行ったのだった――。
◆◇◆◇
『アゼルライムス城:皇女の寝室』
「でもまさか……。お父様自ら男女平等制を施行されるなんて……」
この《アゼルライムス帝国》では古くから『男尊女卑』の慣わしがある。
それにより男は戦に、女は子を作り子孫繁栄の為にという云わば役割分担のような決まりが存在していた。
そして『戦士』として名を馳せたいが為に志願したとしても、決して女性では勇者にはなれないという決まりも存在していた。
《エーテルクラン》で行われた前闘技大会の優勝者であるレインハーレイン・アルガルド。
彼女は兄であるゲイルスト・アルガルドよりも戦いのセンスにおいては遥かに上とされていた。
しかし『女である』という理由だけで彼女は『勇者候補』にも名を上げられず。
そして彼女はここ《アゼルライムス城》を出、ひとり力試しの旅に出たのだった。
父である《アゼルライムス王》の心変わりの原因。
それは間違い無く、この国を救った『戦乙女』――カズハ・アックスプラント様の存在だろう。
彼女の2つ名となった『戦乙女』の名は瞬く間に世界中に広がり。
さらにはその一大ニュースの最中に『アックスプラント王国』という新たな国を建国した彼女。
この二大ニュースにより、もはや世界中は戦乙女カズハ・アックスプラントの動向に注目していると言っても過言では無い。
流石の父も、この世界情勢には逆らえなかったのだろう。
『力あるべきものは、それに伴った正当な評価を下すべき』
以前《ユーフラテス国王》との会談でかの王に言われた言葉。
きっとその言葉も心に突き刺さったに違い無い。
・・・
この国で『勇者』が誕生するには2つの段階を得てからという決まりが存在する。
まずは冒険者達は各々の実力を高めて行き『補欠候補』として名乗りを上げる。
そしてかなりの実力が伴ったと判断されると次の『勇者候補』という位に昇進する事となる。
ここから最も力を得、最も『勇者軍』を率いるのに相応しいとされる者に対し『勇者』という称号が王より与えられる事となる。
しかし父は、勇者ゲイルが勇者の職を辞した事により新たなる『勇者』を選別する為に、一旦全ての『勇者候補』を白紙に戻す、と命令を下したのだ。
きっと明日には正式に重臣達より国民や他国に向けて発表される事だろう。
全員が『補欠候補』からのスタート。
しかも今度は『男女平等』での、力のみでいくらでも名誉を得る事が出来る、本物の『勇者』を選別する為の過酷なレース。
「……一体、どうなってしまうのでしょうか。カズハ様……」
彼女は既に他国の女王。
今更《アゼルライムス》に戻り『補欠候補』からスタートし『勇者』を目指すとは思えない。
しかし……。
「……何故でしょう。私の『心』が……彼女を、カズハ・アックスプラント様の事を……」
いけない。
彼女は女性なのだ。
でも、何故かは分らないが、凄く懐かしい感覚に襲われる。
ずっとずっと憧れていたような。
ずっとずっと愛されていたような。
悲しみも絶望も全てを乗り越え、幸せを勝ち取った時のような幸福感――。
「……貴女は……何者なのですか? カズハ様……」
当然私の声が届くはずも無く――。
――今夜もまた私は、眠れない夜を過ごす事となる。




