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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
閑話 カズハ・アックスプラントとゆかいな仲間達
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ゼギウス·バハムートの鍛冶工房。(前編)


『アックスプラント城:王の間』



「……いかんのぅ。最近は納得の行く武器が作れなくなって来たのぅ……」


 昨日から手掛けているリリィ嬢ちゃんのロッドを眺めながらもそう呟くワシ。


「やはり昔に比べ筋力も落ちて来とるし……。こりゃぁ本格的に引退も考えねばならぬかのぅ」


 どっこいしょ、と椅子から立ち上がり珈琲を淹れる為の湯を沸かす。


 ここ王の間に鍛冶道具と湯を沸かすためのかまどを即席で作ったのは良いが、最近はカズハの視線が刺さるように痛い。


 それでも結局は笑って許してしまう所があやつの良い所なのじゃが……。




・・・




 ワシが剣士の職を退き、本格的に鍛冶職人としての道を歩み始めたのが今から70年前。


 既に当時の《剣聖》と呼ばれたワシは地位も名誉も全て捨て、人知れず山に籠もり武器作りに励んでおった。


 ある時、山奥にある鍛冶小屋一人の少女が現れた。

 しかし彼女には禍々しいほどの魔力がその身から溢れ出ておった。

 彼女は自身を『魔王の娘』と名乗りおった。


 ワシは驚愕した。


 何故、こんな人里離れた山奥にある小屋なんぞに『魔王の娘』がいるのか。


 娘は言う。


 『父を苦しめる人間族を打ち滅ぼせる剣が欲しい』、と。


 風の噂では『勇者軍』が『魔王軍』をあと一歩の所まで追いやっているという情報は、この辺鄙な山小屋にも流れ着いていた。


 ワシは答える。


 『《精霊族》の怨敵である魔族に協力出来る訳が無かろう。ワシはおぬし等魔族に滅ぼされた《ドワーフ族》の末裔じゃ』


 先の《精魔戦争》で敗れた『精霊軍』。


 その中には《精霊族》以外にも《ドワーフ族》、《エルフ族》、《ゴブリン族》と、当時の世界を支えた全種族が存在していた。

 そして『精霊軍』が敗退し、精霊王が捕らえられたその後は、魔族による『他種族駆逐』の暗黒時代が訪れた。


 それから数千年が経った今、逃げ切ったその他種族は数えるほどしか存在せず、皆魔族から隠れるように生きてきたのだ。


 少女は言う。


 『そのような歴史は百も承知だ。承知の上で貴様に頼んでおるのだ。剣聖ゼギウス・バハムートよ』


 ワシは答える。


 『とうの昔に捨てた名を今更蒸し返すとはな……。余程魔族は後が無いと見た』


 少女を無視し小屋に入ろうとする。


 しかしそれを少女は善しとしない。


 『ただでとは言わぬ。我の心臓をお主に託そう。魔族は左右に心臓が2つある事は知っておろう? その片方をお前に差し出すと言っておるのだ。魔王の娘の心臓ぞ? さぞ高く買い取る輩がいるのではないか?』


 確かに、少女の言う事は正しかった。


 魔族を追い込んでいる今の人間族は、生きた魔族から取り出した心臓を高値で取引している事は噂には聞いていた。

 取り出された魔族の心臓は『万能薬』として使われる他、一部の富豪には観賞用としてオークションに掛けられ高値で競り落とされる。


 それが『魔王の娘』の物だとしたら――。


 しかし、ワシは少女を無視して小屋に戻ろうとする。


 『何故だ! 魔王の娘の心臓でも足らんと抜かすのか! 1000万Gは下らぬ価値だぞ!』


 尚も少女は食い下がる。




 それから約10日間。


 寝る間も惜しまず剣を作れと強請る少女に、ほとほと疲れ切ったワシは一つの条件を出した。



 『……そこまで言うのであれば作ってやろう。しかし、お主の心臓はその『剣』の魔力として使わせて貰おう。そして我が種族の『恨み』もその剣に込めさせてもらう。決して解除する事の出来ぬ『呪い』としてお主の精気を絞り尽くす『呪い』じゃ。それでもその剣を揮い、人間族と勇者軍に立ち向かうと言うのであれば、ワシは止めはせん』


 少女は一瞬戸惑った表情を作ったが、すぐに二つ返事で条件を飲んだ。


 そして少女から『心臓』を抉り出し、滅ぼされたドワーフ族の『怨念』を込め。

 ワシは一本の傑作を――呪われた剣《咎人の断首剣クリミナルダークネス》を作り上げたのだった。






◆◇◆◇






 それから程なくして、風の噂で『魔王軍』が『勇者軍』を領土外に押し戻し、世界はまた二分されたと聞いた。


 それはきっと、あの魔王の娘――セレニュースト・グランザイム8世の活躍なのだろうとワシは確信する。

 そして彼女はきっと成長し、魔王の座に就くのだろうと、先祖の墓に水をやりながらもふふ、と笑う。


 何故ワシは彼女に協力したのだろう。


 先祖の敵である魔族に、しかも魔王の娘に剣を授けてやるなど、故人の冒涜に等しい行為である。

 そんなワシが今もこうして先人の墓に水をやり、花をそえている。

 その光景にどうしても自嘲的な笑いが込み上げて来る。


 だが、彼女は乗り切ったのだ。


 何度断ろうとも一睡もせずにワシに懇願して来た。

 なんなら我が身を好きにすれば良いとまで言って来た時のあの『目』。

 彼女もまた、同族を守る事に必死だったのだ。


 きっと我が先祖達も同じ『目』をしていたに違い無い。


 結局は『同族』と『他種族』との違いとは何なのだ?

 そんなものは、この世界を作ったとされる《神》の気まぐれなのでは無かろうか?


 しかし、ワシとて善人では無い。


 生きたまま彼女の心臓を抉り出し。

 そして全ての『怨念』を込め、『呪いの剣』を作り出したのだ。


 今でこそあの剣――《咎人の断首剣クリミナルダークネス》は、魔王軍の劣勢を跳ね除けた事から『世界最凶の魔剣』とも言われておるみたいじゃが、それは違う。

 あの剣に宿っている強烈な『呪い』に彼女が――セレニュースト・グランザイム8世が打ち勝ったに過ぎないのだ。


 呪いに打ち勝つ事が出来なければ、既に片方の心臓を無くした彼女はその呪いに飲まれて命を落しただけであろう。


 先人の墓に手を合わせたワシは、心の中でこう語り掛けた。



 『ドワーフ神よ。いずれはこの戦争という『負の連鎖』が無くなる時代が来るのだろうか』



 その答えが聞こえる筈も無く――。




 ――ワシはまた納得の行く武器を作る為に、山小屋の小さな工房へと歩を進めるのであった。


















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