グラハム·エドリードの変態紳士。
やあやあ、全世界のグラハムファンの諸君、元気にしていたかな?
そう、その通り。
何を隠そう、この不精、グラハム。
先の『王都襲来』にて、戦友である『勇者ゲイル』に後ろから尻を刺されて気絶。
敢え無く大聖堂にて運び込まれるも、目が覚めた頃にはゲイルも襲撃犯である魔族も撃破され、王都は最大の危機を逃れていたという始末。
私は痛む尻を押さえながらもエリーヌ皇女殿下に説明を求め。
得た回答により驚愕の事実を突き止めたのだよマドモアゼル。
『戦乙女』
まさしくその言葉が相応しい、ふつくしい女性に私は出会ってしまったのだ。
しかもこれが初めての出会いでは無い。
以前、《エーテルクラン》の酒場でボインボイン……失礼、魅力的な格好をしている女性剣士と意気投合し酒を飲み明かし。
明け方颯爽と現れた爽やか系美少女に手痛い一発を喰らい、敢え無く昇天。
いやはや、あの一発は本当に痛かった。
正直に言おう。イってしまった。色々と。
……話が逸れたな。
その時に出会った爽やか系美少女こそが、かの『王都襲来』をたった一人で救った『戦乙女』であるというでは無いか。
私はエリーヌ皇女殿下からその事を聞き、心が弾んだ。
あわよくば……いやいや、出来ればその『戦乙女』にもう一度殴られ……いやいや、是非ともお会いしたい。
そう考えた私は高まる期待感を胸に彼女を探したのだ。
そして彼女はすぐに見付かった。
彼女が所属する傭兵団《インフィニティコリドル》の面々は海の向こうの国、《ラクシャディア共和国》の首都に滞在していた。
何やら知り合いの良い医者がいるとの事で、負傷した仲間達を引き連れ、政府専用船で国境を渡ったらしかった。
私は王都での残りの仕事を全て放り投げ、海を越え、命の恩人である『戦乙女』にパンツを貰う……いやそうでは無い、是非お礼を言いたく、会いに向ったのである。
・・・
出迎えてくれたのは《インフィニティコリドル》のリーダーでもあり、何とあの『勇者ゲイル』の妹君でもある、かの有名なレインハーレイン殿ではないか。
あの可憐な立ち振る舞い。
肩まで掛かった輝くような滑らかな金髪。
まさしく絶世の美女という表現が相応しい、今大会の闘技大会ランキング一位の女性剣士ハアハア。
私は心臓を押さえた。
これは――『恋』では無いかと。
激しい動悸、息切れ、眩暈。
嗚呼……ふつくしい……。
そして私は高まる期待感の中、レインハーレイン殿に案内され、案内の最中は尻ばかりに目が奪われ、とうとう憧れの『戦乙女』と再会する事となったのだ。
・・・
一目見た瞬間、嗚呼、私はこの『戦乙女』の大いなる望みを実現させるための槍となろう、と心に決めた。
そして私のこの流暢な言葉使いで彼女にそう告げた。
一瞬カッと目を見開いた彼女は私にキツイ一撃をお見舞いした。
そして私は一瞬のうちに気絶してしまったのだ。
私はなんて幸せ者なのだろう。
一度ならず二度までも、このようなふつくしい女性にノックアウトして頂けるとは……。
・・・
目を覚ました先は街外れの宿屋だった。
私は痛む頬を擦りながらも部屋の隅で健気にお絞りを絞っている幼女に目を奪われた。
彼女は私が起き上がるや否や、先のノックアウトの一件を、事もあろうか女王に代わり謝罪してきたのだ。
なんという素晴らしき教育を受けてきた幼女なのだ……!
その幼女は何やら見た事もない蒼色のアクセサリーを全身に身に着けていた。
そして何やら神々しさまで感じるほどの愛らしい顔立ちをしている。
私は心臓を押さえた。
これは――『恋』では無いかと。
激しい動悸、息切れ、眩暈。
嗚呼……ふつくしい。
……いやまて私。
さすがにそれはマズイ気がした。
しかしこの高まる鼓動をどうやっても抑える事が出来そうも無い。
私は必死の形相で自身の中に込み上げる何かと格闘する。
すると幼女が何事か、とその愛くるしい表情で私の顔を見上げて来るでは無いか。
私の中で何かがプツン、と弾ける音がした。
私は幼女に手を伸ばす。
そしてこの呪われた右手が幼女に襲い掛かろうとしたその時――。
――宿屋のドアが開き、あの酒場で会った、一晩語りつくした女剣士が現れたのだ。
彼女は私に問う。
――お前は一体何をしているのだ――と。
私の中で溢れんばかりの焦燥感と絶望感、そして後悔と懺悔の感情が溢れ出す。
――違う! これは違うのだ! 断じて私は――
その言葉を言い終わるか言い終わらぬかのタイミングで。
再び私は生死の境をさまよう事となった。
・・・
目が覚める。
今度はまた別の宿のようだ。
顔が熱い?
……ああ、そうか。
確かあの後、女剣士と幼女、二人がかりで袋叩きにあったのだった。
きっと顔が倍くらいに膨れ上がっているのだろう。
しかし、私の心に怒りの感情など湧きはしない。
いや、それよりも幸福感と達成感に満ち満ちているとさえ思う。
半身を起こした私は、ここが既に《アゼルライムス》の見慣れた宿屋である事に気がつく。
そしてドアが開き、一人の見慣れた魔道士が入って来た。
彼女は私の顔を見、そしてこう言った。
――グラハム、貴方は一体何をしに《ラクシャディア》まで行ってきたの――と。
私は起き上がり、溜息を吐く彼女に向け言葉を放つ。
――愚問だな、リリィ。俺は、大事な大事な宝物を得て来たんだぜ――と。
全ての想いを凝縮した、渾身の一言。
そうだ、これだ。
俺は人生で最も大事な物を、ようやく得たのだ。
そして彼女は俺に優しく、こう投げかけた。
――グラハム……。貴方、相当頭を打ったのね……。いつもの馬鹿がさらに100倍馬鹿になって戻って来たみたいだわ――と。
私は――。
私は――――!
・・・。
え? 100倍も馬鹿?
うそーん。




