セレニュースト・グランザイムの反逆計画。(前編)
またか。
またこの『夢』を見るのか。
一体何度目なのだ?
何故毎回毎回同じ『夢』を見る?
一度ならず、二度も我を打ち滅ぼす『勇者の夢』を――。
「――――!!」
目を覚ます。
酷く汗を掻いている。
「……ふぅ……。一体いつになったらこの『悪夢』を見なくなるのだろうな……」
ベッドから起き上がり水を一杯飲む。
いつも同じ夢。
そしてそれは必ず『2通りのパターン』で我が勇者に打ち滅ぼされる夢でもある。
『1パターン目の夢』ではほぼ勇者と互角に渡り合い、そして最後に相討ちのような形で勇者の剣が我を貫く夢。
そして『2パターン目の夢』では勇者はまるで別人かの如く、圧倒的な強さで我を翻弄し、最後のトドメは傭兵上がりの屈強な男の槍で貫かれる夢。
そして絶命する間際にその目に映った信じられない光景。
そう――。
その勇者はあろう事か――。
――退屈そうに鼻をほじっていたのだ。
◆◇◆◇
城内を歩く。
この城に来てからからそろそろ5ヶ月近くが経つ。
未だ財政難から抜け出せない状態が続く、ここ《アックスプラント王国》。
「か、カズハ様はどこぉぉぉ?///」
廊下の向こう側から何やら艶っぽい声が木霊する。
あれは……勇者の妹でもあるレインハーレイン・アルガルドだ。
今は王専属のメイドとして雇われてはいるが、前回での『闘技大会』では優勝を飾るほどの腕前を持つ、大陸一の剣士でもあるレイ。
そしてその脇に抱えられているのは、紛れも無く世界最強の剣である『勇者の剣』――《聖者の罪裁剣》だ。
ここ《アックスプラント城》のすぐ裏は山賊共が犇く無法地帯となっている。
よって何かあった時にすぐに対処出来る様にとメイドの格好をしながらも常に帯刀しているレイ。
「あ、セレンさん、ちょうど良い所に……。私の愛しの旦那さ……こほん、カズハ様をお見かけ致しませんでしたか?」
息を切らしながらも我を見つけ走って来たレイ。
「……いや、我も先ほど目が覚めたばかりでな……」
「そうですか……。まったく、どこに隠れておいでなのかしらん……///」
レイはその両手に何やら洋服を持っている様だが……。
「……レイ。その手に持っている物は……」
「え? ああ、これですかぁ? 可愛いで御座いましょう?/// 是非ともカズハ様に着て頂きたくご用意したお洋服なのですけれど」
レイは自慢げにその洋服を広げて見せる。
「……これは……」
ラメが入った真っ黒な色。
そして所々に白いフリルが入った悪趣味な洋服。
しかもスカートの部分はあまりにも短過ぎてコメントに困るほどだが……。
「どうです? カズハ様に凄くぴったりだと思いませんか?/// なのに試着して頂こうと思ったら光の速さで何処かに行かれてしまいまして……」
「そ、そうか……。それは……大変な、事だな……」
何故かは分らないがカズハに同情する我。
そしてまた、カズハの名を呼びながらも何処かへと向かって行ったレイ。
……この国は、危ないかも知れんな。
◆◇◆◇
城門へと向う。
まだあの『夢』のせいで寝覚めが悪い。
こんな日は行きつけの街の酒場で酒を飲むに限る。
と、城門前にカズハの姿を発見する我。
「・・・」
何やらビクビクとしながら城門の影に隠れている我が国の国王。
「カズハ。お前は一体何を……」
「うおっ!? ……なんだ、セレンかよ……。脅かすなよ全く……」
安堵の溜息を吐くカズハ。
「……先ほどから城内で、レイがお前の事を探しているみたいだったが……」
「え? マジで? やっぱまだ俺の事探してやがんのかよレイさん……。隠れてて正解だったな……」
「……あの『服』……」
「言うなぁ!! それ以上言うなセレンっ!! あんなの着させられたら俺……ぞわわわ……!!」
大げさに身震いをするカズハ。
確かに……あんな怪しげな服を着させられたら堪ったもんでは無いだろうが……。
「―――!」
「?? ……どうしたセレン?」
突然の頭痛。
目の前がグラグラと揺れている。
何だ……? まるで、まだ先程の『夢』から覚めていないような錯覚。
『おい、大丈夫か? お前具合でも悪いのかよ?』
カズハの声が遠くに聞こえる。
目の前には今朝見た『夢』の人物――あの憎き『勇者』の姿が映る。
今までの夢でははっきりとは映らなかった映像が徐々に鮮明になって行くのを感じる。
『・・・・。・・・・・・!!』
もうカズハの声が我には届かない。
我の視線は目の前で鼻をほじっている勇者に釘付けとなる。
……あれは『2パターン目の夢』に出てくる勇者……。
徐々に映像が鮮明になる。
そして勇者の両脇にある『剣』が見え、息を呑む我。
……あれは……。『勇者の剣』と……『魔王の剣』?
勇者は鼻をほじりながらも片手で『魔剣』を繰り出し我を翻弄している。
そして我の渾身の一撃を片手で受け流し、ようやくもう片方の手で『勇者の剣』を――。
「――――!!」
「おい! セレン!! お前一体――」
差し出された手を払い除ける我。
「イテっ! ……あにすんだよ、いってぇなぁ……。ブツブツブツ……」
払った手に息を吹きかけるカズハ。
……似ている。
あの人を小ばかにした様に鼻をほじりながらも我を翻弄した、夢の中の勇者に。
そして奴は――。
――二刀流を駆使して、我に致命傷を与えたのだ。




