三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず建国することでした。
帝都アルルゼクトが魔王軍に襲撃されてから一週間後。
城や城下町の復旧作業に追われる兵士達を宿屋の二階のテラスから見下ろしつつ、俺は欠伸を噛み殺した。
仲間達は皆命に支障はなく、もうあと二、三日も休めば体力は回復するだろうと、宰相のザイギウスは言っていた。
彼もまた魔獣王により重傷を負わされたが、エリーヌの緊急処置のおかげで命を繋ぐことができた。
まあ、もう歳だし、これを機に引退するつもりらしいんだけど。
で、問題の『勇者様』のことなんだけど――。
俺が最後に放った禁断の火魔法から逃れるため、勇者の身体を乗っ取っていた精霊王は魂だけ身体から遊離させたのはみんなも知ってるよね。
俺はその瞬間を逃さず、精霊王だけを消滅させることに成功しました。
その代償に俺は今後一切、火魔法を使うことが出来なくなっちゃったわけなんだけど……。
うん。つまり『勇者を殺す』って言ったのは、俺の演技だったってわけだ。
それにまんまと嵌って、魂だけ身体から抜き出した精霊王はアホだったと。
で、勇者様――ゲイル・アルガルドは只今絶賛裁判中です。
身体を乗っ取られていたとはいえ、城の兵士を何人も半殺しにした罪は重いというわけだな。
まあでもエリーヌとレイさんが弁護側に立って勇者の無罪を証明する気らしいから、釈放は時間の問題なんじゃないかな。
ガロン王からしても、自分が勇者に任命した奴が国家反逆罪に問われるのは、自身の帝王としての進退問題にも発展しかねないし……。
その辺はあまり興味ないから、後々リリィ先生にでも詳しく聞かせてもらうとしよう。
「ん……。あれ、カズハ? もう起きているアルか……?」
部屋の中で大きく伸びをしたタオが身を起こし、俺に声を掛けてくる。
彼女の全身は包帯だらけだが、傷口は完全に塞がり、起きて買い物に行くことも出来るようになった。
「『もう』って、そろそろ昼になるぞ。いつまで寝てんだよ、まったく……」
テラスから部屋に戻った俺は呆れた様子でそう答えた。
でも別に今はやることもないし、ゆっくりと静養してもらって構わないんだけどね。
「タオ。お腹が空きました。今日のお昼は何でしょうか?」
「ああ、ルルちゃん、おはようアル。そうアルねぇ……。昨日、カズハに買いに行ってもらった食材で炒飯でも作るアルか」
同じく全身包帯だらけのルルに向かい、タオが優しくそう言った。
俺の仲間達の中でも、特にこの二人の傷が深かったのだが、どうやらもう元気になったみたいだ。
さすがは元盗賊と精霊。
回復力も人並み外れているらしい。
……まあルルは人間じゃないんだけどね。
「そう言えばセレンとアルゼインは何処に行ったのでしょう? レイはまだ帝都から帰れないとは言っていましたけど……」
「酒場アルよ。あの二人、どうやら気が合うみたいで昨日からずっと飲んでいるアル。……酒を飲んでいたほうがよっぽど傷が癒えるとかなんとか、訳の分からないことを言っていたアルけど」
「……はぁ。確かに、本来であれば世界に二人といない魔剣使い同士ですからね。話が合うのは良いことですけど、アルゼインもこれから私達の仲間となるのですから、きちんと規律を守ってもらわないと困ります」
深く溜息を吐いた幼女。
ていうかあのセレンと一晩中酒を飲み明かしているっていうことは、アルゼインも酒豪ってことなのか……?
ただでさえセレンの酒代がかさんでいるっつうのに、これ以上余計な出費を増やさないで欲しいです……。
「カズハの知り合いだっていう、あの二人の様子はどうアルか?」
「ん? あー、グラハムとリリィか。お前らよりは全然傷が浅いから、もう城の復旧に駆り出されているって言ってたかな」
「はぁ? 傷が浅いって言っても、重症には変わらないアルのに、もうそんなに動けるアルか……? 一体どんな体力をしているアルか……」
呆れた様子でそう答えたタオ。
まあ、あいつら過去に二回も死んでるからな……。
もしかしたら変な免疫とか付いてるのかもしれません……。
「お前らだって、本当はまだ寝ていないと駄目だって言われているだろ。昼飯は俺が作ってやるから、横になっていろよ」
「……」
「……」
俺がそう言うと急に黙り込んだ二人。
え……? どうしてそんな目で俺を見るの……?
何か変なこと言ったか……?
「カズハが……料理を?」
「……それはちゃんと食べられる物アルか?」
「当たり前だろうが! 俺だって少しくらい作れるわっ!」
そう叫んだ俺は勇み足で台所に向かいます。
こうなったら二人がたまげるくらい旨い炒飯とか作ってやろう……!
そして泣きながら俺にひれ伏すが良い……!
「……何かとてつもない物が出て来そうな気がします」
「……そうアルね。でもたまにはカズハの言葉に甘えてみるアルか」
「ですね。いつも振り回されてばかりですから、こういう時くらいカズハをこき使わないとバチが当たりそうです」
「お前ら聞こえてんだよ! いいから横になってろ!」
「はーい」
ルルとタオは顔を合わせニコリと笑った。
◇
三ヶ月後――。
ユーフラテス公国にある、とある無法地帯にて――。
「……」
「お茶が入りましたわ。カズハ様」
レイさんが王座に座る俺にお茶を運んでくれる。
俺は湯呑を受け取り口を付けた後、彼女にこう問う。
「……レイさん。どうしてメイド服なんて着ているの」
「気付かれましたかっ! そうなんですっ! 私、メイド服を着ておりますの! ほら、カズハ様……! このフリフリとかいかがですか? いかがわしいですか?」
「いかがわしいよっ! 着るならもっとちゃんとしたメイド服を着なさい!」
「はうぅ……」
シュンとしたレイさんは、そのまま盆を持って後ろに下がって行きました。
はい、次。
「カズハよ。……いや、アックスプラント王よ。せっかく美女があのような恰好で茶を淹れてくれると言うのに、おぬしはそれを断るのか」
俺の横で鍛冶道具を構えたまま、ゼギウスがそう言った。
そして俺は頭を抱えたまま、奴にこう問う。
「……ゼギウス。どうして王の間に鍛冶工房があるの」
「仕方ないじゃろう。ここが一番落ち着く場所なんじゃし」
「俺が落ち着けないだろうがっ! チンコンカンコンうるせぇんだよっ! どっか別の部屋でやってよ!」
「むぅ……」
渋い顔をした爺さんは、鍛冶道具を台に置き大臣席に大人しく座りました。
はい、次。
「……あれ? 他の奴らは?」
周囲を見回してもレイさんとゼギウス以外は誰もいない。
せっかく何億もかけて城を購入したってのに、みんなは何処に行っちゃったの?
「はい。アルゼイン様とセレン様は城に貯蔵していた酒を全て飲み干してしまい、隣国まで買いに向かわれましたわ。……千鳥足で」
「もうそいつらクビにしよう! 今すぐに!」
誰だよ! こんな訳の分からん奴らを幹部にした奴は!
なんで真昼間から自分らの酒の買い出しに出掛けちゃうの!
しかも隣国まで!? 千鳥足でっ!?
「ルルさんとタオさんは遠足に出掛ける準備でお忙しいらしく、会議には出席できないと仰っておりましたわ」
「学校か! 会議サボって遠足行くのか! 馬鹿なの!? ねぇ、馬鹿なの!?」
どうすればいいの……!
このアホと馬鹿だらけの国で、どうやってやっていったら良いの……!
誰か教えて……!
「グラハムとリリィはラクシャディア共和国に向かったそうじゃな。先ほど宰相から依頼が届いておったから、その件じゃろう」
「依頼……? ああ、傭兵団に対しての依頼か。ということは……?」
「ええ。あのお二人は『アックスプラント王国』にとっての、最初のお仕事に向かわれたのですね。国として認可されて間もない我が国では、傭兵団『インフィニティ・コリドル』としての収入が主となりますから」
……いるじゃん!
俺の国にもまともな奴が!
やっぱり信頼できるのは、苦楽を共にしてきた親友か……!
「じゃが二人ともアゼルライムスにいた頃よりも給料が減ったとボヤいておったからのぉ。案外簡単にラクシャディアの宰相に兵士として引き抜かれてしまうかもしれんの。ふぉっふぉっふぉ」
「笑い事じゃねぇだろ! 唯一まともなあいつらがいなくなったら、俺はどうやって生きていったらいいの! すぐに呼び戻そう! ていうかすぐにラクシャディアに行こう!」
「駄目ですわ、カズハ様。女王になられた以上、軽率な行動は慎まなくてはなりません。あの二人ならばきっと大丈夫ですわ。……きっと、大丈夫だと思いますわ」
「言い直した!?」
俺が振り向くと、レイさんはあからさまに目を逸らしました。
やめてよ! 余計に不安になっちゃったじゃん!
こんな調子でやっていけるのか……!
アカン! 嫌な予感しかしない……!
どうしよう……!
こんなんじゃ、全然――。
「――――国を栄えていける気がまったくしねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
fin.




