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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第一部 カズハ・アックスプラントの三度目の冒険
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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず気を失うことでした。

「くらいなさい! はあぁッ!」

『ギュオオオオオオ!!!』


「ほいっ」

『ギャギャンッ!!』


「真なる拳は大気をも揺るがす! 《波動衝》!!」

『グワアアアアアアァァァァ!!』


 おー、タオも頑張ってるね。

 レイさんの強さは相変わらずだけど。


「こちらもゆくぞ……! 《ダブルアクセルブレード》!!」

『ゴエエエエェェェェ!!!!』

『ギャギャンッ!!』


 魔王様の二体同時攻撃も決まりました。

 いいね。やっぱ強いね、俺のパーティ。


「一体何なのだ……。彼らの、この強さは……」


 俺らの後ろに付いてきている魔道士たちが唖然としています。

 まあ最初の段階で俺がヒドラを一人で倒した時点でビビっちゃって、それ以降俺の傍に近づかなくなっちゃったんだけど……。

 

「いくら倒してもキリがないですね。一体どこまで進めば重要文化財が隠されている場所に辿り着けるのでしょう」


「お前は戦ってねぇだろうが!」


「それはカズハが私の緊縛を解かないからです。私は何も悪くありません」


 俺の横にいる幼女がぷいっとそっぽを向いちゃいました。

 うん。これ以上ないほどの完全論破です……。


 俺達が地下遺跡に潜ってから、すでに三時間ほどが経過している。

 予定ではそろそろ重要文化財が隠されているという場所に到着するはずなんだけど……。


「あ、あそこです! あの扉の先に目的の物が……!」


 魔道士の一人が指差した先に、一際大きな紋章が刻まれている扉が見えた。

 うん。明らかに何かが封印されていそうな部屋ですねぇ……。


「そろそろ教えてくれても良いんじゃないアルか? 『重要文化財』って、具体的には一体何なんアルか?」


 武器を鞘に収めたタオが肩で息をしながら魔道士達に質問した。

 確かに俺も重要文化財が何なのかはまったく聞いていない。

 まあ特に興味もなかったわけなんだけど……。


「……どう致しますか? 宰相からは彼らに伝えずに、棺ごと・・・持ち帰れとの御命令ですが……」


「いや、伝えないわけにはいかないだろう。その棺の中にも化物が潜んでいるかも知れん。それに彼らの協力なしに、ここまで到達することは不可能だったのだからな」


 なんか魔道士達が内緒話を始めました。

 そして彼らのリーダーっぽい人が代表してタオの質問に答えようと前に出てきました。

 だぶん良い奴なんだろうな、こいつ。


「お答え致します。この扉の先に、大きな『棺』が御座います。古文書によると、その中に『聖杯』が隠されているとのことです」


「聖杯……」


 ……ん?

 何か知らんけどルルが反応したぞ……?

 どうしたんだろう……。


「宰相からは、棺は開けずにそのまま地上まで運べとの指示を受けております。しかし、我々は中身を確認するつもりでおりました。……貴女方であれば、理由はお判りでしょうが」


「……これだけ凶悪なモンスターが犇めいている、地下遺跡に眠る『棺』――。その中身を確認せずに地上に持ち帰るなど、狂気の沙汰としか思えませんわ」


 レイさんがそう答えると魔道士達は皆、神妙な面持ちで首を縦に振った。

 うーん、何を考えているのか……。あのアホ宰相は……。 

 そんなに見られたら困る物なのか? その『聖杯』とかいう重要文化財は……。


「……」


「おい、ルル。どうした? さっきからずっと黙って」


「……いいえ。少しだけ気になっただけです。いくらこの遺跡が精魔戦争時代に作られたとはいえ、そこにが眠っているわけがありませんから。世界中に遺跡などいくらでもありますし」


……?」


 一体この幼女は何を言っているんだ……?

 俺にはさっぱり分からん……。


「とにかく、本当にこの場所に棺があるかを確認せんことには始まらんだろう。さっさと扉の封印を解くのだ」


「は、はい……」


 セレンに急かされ、魔道士達は一斉に魔法を詠唱し始めました。

 さーて、鬼が出るが蛇が出るか……。





 最後の扉の封印が解かれ、俺達は扉を開けます。

 開けた瞬間、冷たい空気が遺跡内を覆っていきました。 

 うん。なんか急に涼しくなってきたぞ……?


「まあ……! これは……!」


 レイさんが感嘆の声を漏らしました。

 部屋の中は金銀財宝の山で、目がチカチカするくらいです。

 一体全部でいくらあるんだろう、これ……。


「……もしかして、それで今回のクエストは高報酬だったのか?」


「あり得るアルね。あの宰相、腹黒そうアルし……」


 俺の呟きにタオが同調しました。

 うーん……。クエスト破棄して、ここにある金を全部奪ったほうが良いような気がしてきた……。


「……駄目アルよ。ラクシャディア共和国を敵に回すようなことをしたら」


「……はい」


 俺の心を読んだタオは釘を刺してきました。

 ……うん。まったく信頼されてねぇな、俺……。


「こちらです! あそこに棺が……!」


 魔道士のひとりが叫ぶと、皆がその場所に集まった。

 白と銀で装飾された、かなり大きな棺だ。

 側面には何語か分からないけど、びっしりと文字が刻まれている。


「……これは動かすことは不可能だぞ。強大な魔力でこの場に固定されている」


「そんな……」


 セレンの言葉を裏付けるかの如く、棺は何をどうしてもピクリとも動かなかった。

 試しに俺が全力で押してみたけど、それでも無理。

 なにこれ。接着剤でも付けてあるのか。


「仕方ありませんわね。魔道士の皆さん。棺の蓋の封印は解くことは可能でしょうか?」


「……まさか、中身だけを持ち帰ると?」


「ええ。棺が動かせない以上、その『聖杯』というものだけでも持ち帰るしかありませんわ。先ほど『中身を確認するつもりだった』と仰いましたわね。つまり蓋の封印ならば、今ここで解くことが可能ということでしょう?」


 レイさんの鋭い質問に魔道士達がお互いに目を合わせます。

 そして意を決し、リーダーが俺達に向き直りました。


「……蓋の封印を解きましょう。皆様はもしもの時・・・・・の備えをしておいてください」


「はーい。どんな化物が出てきても俺がぶっ飛ばしまーす」


 棺から少し離れた魔道士達は棺を囲むように円陣を組み魔法を詠唱し始めた。

 俺、レイさん、セレンの三人は剣を抜き有事に備える。


「……今です! 棺の蓋を――!」


 魔道士の言葉と同時に、俺は勢い良く棺の蓋を外した。

 そして全員が中身を凝視する。


「ひっ……! 骸骨……!!」


 タオが叫んだ通り、中には礼服を着た骸骨と、その胸にはひとつの聖杯が――。


「……あれ? 骸骨が消えた……?」


――ゾクッ!


「うおっ! なに今の鳥肌……!?」


 慌てて周囲を見回す俺。

 でも特に異常は見当たらない。

 というか骸骨もいなくなっちゃった……。

 一体どうなってるの……? 


「これは……どうして……? 何故、ここに……」


「ルル……?」


 今度はルルの顔が真っ青になっている。

 おいおい。お前、別に骸骨とか幽霊とか大丈夫な奴だろう。


精霊王の・・・・…………聖杯・・…………」


「お、おい! 大丈夫か、ルル!」


 急に意識を失ったルル。

 俺は慌てて彼女を抱き上げる。


「ルルちゃん!」

「ルルさん!」


 タオとレイさんが慌てて駆け寄る。

 気を失ったまま何かに魘されているルル。


「……こやつを我の背に。魔道士らよ。目的はこの聖杯であろう? さっさと回収し、ここを出るぞ」


「あ……はい!」


 セレンの言葉に甘えて、ルルを彼女におぶってもらうことにしました。

 何だかこの場所の空気が悪いせいか、皆も早く出たい気分らしい。

 財宝の回収は後で誰かに任せればいいし、どうせまた扉を封印して帰るんだから盗まれる心配もないだろう。

 俺らは俺らの仕事を済ませるだけだ。


「聖杯、回収を終えました!」


「よし、地上に戻ろう。レイさんは後方でセレンのサポートを。帰り道のモンスターは俺が引き受けるから」


「ええ、早く報告をして宿に戻りましょう。ルルさんが心配です」


「ルルちゃん……。急に気を失うなんて、どうしちゃったアルか……?」


 涙目のタオの頭をポンポンと叩き、俺は部屋を先に出た。

 そしてふと後ろを振り返る。


「……?」


 一瞬だけ、誰かの笑い声が聞こえた気がした。

 ……まあ、たぶん気のせいだと思うんだけど。





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