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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第十部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(後編)
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037 俺も次に生まれ変わることがあったら背中に翼とか欲しいです。

 ――カズハが魔王との死闘を繰り広げている、その一方。

 

 魔王軍屈指の軍師と噂される魔鳥達の王、『魔鳥王ブレイズベルグ』と対峙するセレンは――。



「《ダークブレイド》!」


「ふん、《大地剛雷、壱の閃》!」


 黒剣を振り抜いたセレンに対し三叉の槍を振り下ろすブレイズベルグ。

 闇を纏った剣閃と落雷に似た轟音を響かせる剛槍がぶつかり合い、互いを隔てた空間に亀裂が入る。

 実力は五分と五分。

 魔人王としてこの世界に蘇り、史実とはかけ離れた力を宿したセレンだったが、それは相手も同じ。

 体術と槍術を巧みに使い分ける魔鳥王は持ち前の圧倒的機動力を生かし、神速の域に達するセレンの攻撃に怯むことなくそれら全てを相殺してゆく。


「この裏切者めが……! 魔族の恥と知れ! 《天下無双、参の舞》!」


「『魔族の恥』……? ふっ、もはや我に魔族としての恥も外聞もありはせぬわ……! 《ウォーターウォール》!」


 三叉の槍を振り回し怒涛の攻撃を仕掛けるブレイズベルグを水の盾で防ぎ切るセレン。

 その飛沫に一瞬だけ視界を遮られた彼女の隙を逃さず、瞬時にその場から消え去ったブレイズベルグ。


「! ……上か!」


「《匠絶・波動衝》!」


 上空で両腕を前に突き出し構えたブレイズベルグ。

 重力に逆らうようにそこに凝縮したエネルギーが一瞬の溜めを経た後に解放される。

 耳を劈くような爆発音と共に繰り出された衝撃波がセレンに襲い掛かり、彼女は目を見開いた。


 轟音の後に訪れた静寂。

 焦げ臭い匂いと共に周囲を覆った爆煙を上空から注意深く観察するブレイズベルグ。


「…………貴様は・・・何者だ・・・?」


 そう小さく呟くように声を発したブレイズベルグの視線だけがゆっくりと背後に向けられる。

 そこには宙に浮いたまま、彼の首筋に逆手に持った黒剣の刃を押し当てたセレンの姿があった。

 確かに、手応えはあった。

 しかし背後に立つセレンに一切の手傷を負わせることができなかったのは彼の誤算でもある。


「それはブレイズベルグ、お前とて同じこと。我らはすでに、元来の我らでは無い・・・・・・・・・のだからな」


「……? 貴様は何を言って――」


「これが答えだ」


「っ――!」


 無情にもセレンは首に押し当てたままの黒剣を刃を引いた。

 死を覚悟したブレイズベルグは一瞬瞳を閉じかけたが、すぐに違和感に気付く。

 彼の目の前に出現した青白い表記。

 ――『No Damage』。


「……これは……」


 何が起きたのか理解できない様子の彼は、背後に立つセレンを気にも留めずに呆気に取られている。

 表記は瞬く間に消え去り、何事も無かったかのようにただそこに無の空間が広がるだけだった。


「お前の死の瞬間は・・・・・まだ先・・・ということだ。そしてそれは我も同じこと・・・・・・


「!」


 あろうことか次にセレンは自身にも黒剣の刃を向けた。

 そして切っ先を眼窩に向かい振り下ろすも、それを見えない何か・・が防ぎ切り刃を通そうとはしなかった。

 そして同じく出現した『No Damage』の表記。

 目の前で起きているそれら事象を理解するのは、この世界の住人には到底不可能であった。


「……どういうことなのだ……一体、これは……」


 すでに理解が追い付いていないブレイズベルグに特異な視線を向けるセレン。

 魔王軍の中でも知略に特化した彼は唯一、人間族や他の種族に対しても無益な殺生を行わない性質であることは彼女の知る由だ。

 それらの記憶はこことは別世界のものとはいえ、同族として、配下として、彼と長い時間共にいた彼女にとっては失われることの無い記憶。


「――ブレイズベルグよ。思慮深い・・・・お前ならば……と考える我は、やはりまだまだ甘いのであろうな」


「……! ……いや……まさか・・・……そんな・・・ことは・・・…………あるはずが・・・・・…………!」


 セレンの言葉に動揺の色が隠せない様子のブレイズベルグ。

 『思慮深い』――。

 この言葉を彼に対し使う者は、この世界に・・・・・唯の一人しか・・・・・・存在しないこと・・・・・・・を彼は熟知していた。

 しかし、すでに戦意を喪失している彼の脳裏に突如として響き渡る恐ろしい声。


『どうした。ブレイズベルグよ。さっさとバラディアスを始末せよ』


「!! か、閣下……。いや、しかし……こやつは・・・・……」


『…………貴様も我を裏切るのか? ……ふん、それも良かろう。四魔将軍の地位など、我の力を以てすればいくらでも挿げ替えることなど可能なのだからな』


「い、いえ……!! そんなことは決して……!!」


『……ならば、殺せ。これは命令だ。そやつを殺せば貴様の望む褒美をいくらでも取らせてやろう。ハルピュイア族の・・・・・・・・復権計画・・・・も最重要課題として議題にも上げてやる。……期待を裏切るなよ』


「…………御意」


「……」


 魔王の命を受け、徐々にブレイズベルグの表情が変化していく。

 先ほどまで失われつつあった戦意は憎悪と共に増幅し、眼前の敵に向かいそれを昇華させようとしていた。


「…………閣下の御命令は絶対…………。貴様は、裏切者の魔人王、バラディアス……………。そうだ、そうに決まっている…………。惑わされるな、我は、『魔鳥王』……! ハルピュイア族と、魔族の……契りの証・・・・!」


 再び両の翼を大きく開き、セレンの拘束を解くブレイズベルグ。


 自身で覚悟を決めた彼に対し、無言の瞳を向けるセレン。



 決着がつくことの無い二者の戦いは更なる混迷を極めてゆく――。




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