036 まあ魔王が強いのは最初から分かってたから別に落ち込んだりしません。
「《ヘルヴァナルガンド》!」
魔剣を構えこちらを凝視している魔王に向かい最大火力の火魔法を俺は初手からぶっ放します。
炎を纏い具現化された巨大な焔狼が大口を開けて眼前にいる魔王を喰らい尽くそうとした直後――。
「……ふん。《グラビティバースト》」
魔王の左手に闇の魔力が圧縮し、それがすぐさま弾け飛ぶ。
爆風と共に顔面の半分が吹き飛んだ焔狼はその場で倒れ消失。
……渾身の火属性の上級魔法をいとも簡単に消し飛ばすんじゃねぇよマジで。
「《バーニングソード》!」
勇者の剣――聖者の罪裁剣の鞘を左手に構え、付与魔法を発動。
疑似的な炎の剣が完成し、俺は二刀を構えた。
「――《ツーエッジソード》」
続けざまに二刀流スキルを発動。
ズン、という負荷が俺の背中から全身に広がる。
これで攻撃力が二倍、防御力が半減の諸刃の剣。
出し惜しみはしない。
今、俺の目の前にいるのは正真正銘、この世界で最強の相手だから。
「ほう。我が分身を倒したというのは、あながち嘘では無さそうだな。――だが」
「!」
不意に地面を蹴った魔王は瞬時に俺の目の前に姿を現した。
――速い。
セレンのスピードよりも、更に上の――。
「《デビルインパクト》」
「っ!! ごふっ……!!」
腹部に強烈な衝撃を受けた俺はそのまま上空へと打ち上げられます。
それを追うように跳躍した魔王は再び左手を翳し魔力を凝縮させます。
やべぇ……。意識がぶっ飛びそう。
「《バブル・イクスプロウド》!」
複数の巨大な水の泡が俺の周囲を取り囲み、大爆発。
もう痛いとか、そういうレベルじゃない。マジで死ぬ……。
圧倒的なスピード。驚異的な魔力。
あの偽魔王とは比べ物にならない強さ。
あー……マジ鬱陶しい。化物じみた強さの奴らばかりで。
そのまま地面に落下した俺はどうにか受け身をとる事だけは出来ました。
でもすでに体力は半分近く持っていかれてるだろこれ……。
「……ふん、水魔法は防いだか。やはり勇者には闇魔法が効果的ということだな」
つまらなそうにそう言った魔王はそれでも俺に対し警戒を解かない。
もう少し俺のことを舐めてもらわないと、付け入る隙が無さ過ぎて困るんですが。
「…………あー、しんど。……よっと」
膝に手を当ててゆっくりと立ち上がった俺は陰獄獣の皮で作った軽服を脱ぎ去り黒の下着だけになります。
今の攻撃で防具もズタボロ。もはや装備している意味も無い。
「――《弐乗》」
「……ほう?」
全身に更に重力を受け、最強の陰魔法を発動。
これで攻撃力が二乗。俺が持てる最大火力。
「《迅速》。《斬鬼》。《牙追》」
続けざまに陰魔法を三つ無詠唱で発動する。
『迅速』で敏捷力を上昇。『斬鬼』で斬撃力を強化。『牙追』で全ての物理攻撃に追撃効果を付与する。
「《激震》!」
「……無駄な事を」
再び陰魔法を発動し魔王の足元に局地的な地震を発生させ、俺は同時に地面を蹴った。
一度後方に大きく退いた魔王は左腕を払い、亜空間からコウモリの群れを出現させる。
俺はそれらを薙ぎ払い、まずは炎の剣を水平に振り抜いた。
紙一重で剣閃を避けた魔王は『牙追』の効果の追撃をも難なく避ける。
「《鎖錠》!」
「……チッ」
再び無詠唱で陰魔法を発動した俺は魔王の死角から魔法の鎖を具現化し、奴の左腕の拘束に成功。
その隙を逃さず大きく両腕を後方に伸ばし二刀に渾身の力を込める。
「っ――!」
「《ブルファイト・アタック》!!」
鎖の拘束を強制的に解いた魔王がこちらを振り向いた直後、俺の二刀流スキルが発動。
振り抜かれた二刀の剣が交差し魔王の胸元を斬り裂いた――かに思われた。
その瞬間――。
『No Damage』
不意に空間に表示された文字。
これまで何度も目にした、非情ともいえる絶望的な表記。
「……ふ……フハハハ! 今の連携は少しだけ驚いたが、何だその柔い攻撃は! 勇者が聞いて呆れるわ! フハハハハ!!」
魔王の高笑いが木霊するも、俺は気にせず立ち上がり勇者の剣を一度鞘に仕舞う。
今の連撃で完全にSPが枯渇したから、しばらくは防御に専念するしかない。
でもまあ、収穫はあった。そして『目的』の再認識もできた。
魔王は、倒さない。
圧倒的な強さなのは分かるけど、届かない距離ではないのも分かった。今ちょっと焦ってたし魔王。
どうせ手加減なんかできない相手だから、むしろこの『ノーダメージ』は今の俺には好都合ともいえる。
倒しちゃったら終焉を迎えちゃうからね。俺のいた『三周目の世界』が。
ということは、やはり最も重要な課題は魔屍王の持つ『妖杖フェルスグリアモール』ということだ。
最悪破壊だけでも出来れば……とか思ったけど、今後も必ず必要になってくるアイテムだろうから、やることは一つしかない。
――というわけであとの二人の状況はどんな感じなのでしょうか?
LV.72 カズハ・アックスプラント
武器:聖者の罪裁剣(攻撃力255)
防具:なし(防御力0)※魔王により破壊
装飾品:炎法師のイヤリング(魔力25)
特殊効果:斬撃強化(特大)、スキル威力強化(特大)、魔法攻撃力強化(特大)、光属性特効、闇属性特効、火属性強化(大)
状態:疲労
魔力値:4426
スキル:『ファスト・ブレード(片) LV.22』『スライドカッター(片) LV.48』『アクセルブレード(片) LV.33』『スピンスラッシュ(片) LV.34』『ツインブレイド(二) LV.26』『ブルファイト・アタック(二) LV.23』『センティピード・テイル(二) LV.20』『ダブルインサート(二) LV.19』『エクセル・スラッシュ(二) LV.15』『ツーエッジソード(二) LV.10』
魔法:『力士(陰)』『蛇目(陰)』『塩撒(陰)』『隠密(陰)』『悪夢(陰)』『迅速(陰)』『鎖錠(陰)』『封呪(陰)』『奈落(陰)』『緊縛(陰)』『解縛(陰)』『弐乗(陰)』『斬鬼(陰)』←NEW『牙追(陰)』←NEW『激震(陰)』←NEW『ファイアボール(火)』『ファイアランス(火)』『ファイアエレメンタル(火)』『フレイムガトリング(火)』『フレイムトマホーク(火)』『フレイムバード(火)』『エンゲージブレイズン(火)』『バーニングソード(火)』『ファイアフォックス(火)』『ファイアバースト(火)』『ヘルファイアブレード(火)』『ヘルヴァナルガンド(火)』『ファイアメテオアーク(火)』『ゾディアック・フレイガウェポン(火)』『トレメンダス・ブレイズン(火)』『カグツチ(火)』
得意属性:『火属性☆』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:4651
総合結果:『重傷』
斬鬼/斬撃攻撃力を一定時間大幅に上昇させる陰魔法
牙追/物理攻撃時に刺突ダメージの追撃効果を発生させる陰魔法
激震/対象の足元に局地的に地震を発生させる陰魔法
 




