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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第十部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(後編)
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032 絶体絶命のピンチなんて今まで死ぬほど潜り抜けてきたからどうにかします。

 ええと、整理しますね。

 ようやく新魔剣の素材を全部揃えて、地下牢まで辿り着いて。

 そこに運良くリリィと竜姫が囚われてて牢を蹴破って救出できたまでは良かったのですが――。


 ――目の前には今、魔王、魔屍王、魔鳥王、魔人王というこの異世界最悪最強の魔族の方々が俺を睨みつけています。


 ……どうなってんの、ストーリー。

 いきなり絶体絶命のエンディングを持って来るって、マジで『世界』は俺を潰そうとしてるってこと……?



「カズハ……! 何をボケっと考え事とかしてるのよ! 早く逃げないと――」


「あ、リリィ。会いたかった。愛してる。生きてて良かったのギューしていい? します」


「え? あ、ちょ……! こんな場所で何を……!?」


 なんか考えるのもアホらしくなった俺は横に立つリリィに思いきり抱き付きました。

 こんな華奢な身体で気の禁術まで使って俺を助けやがって。

 大魔道士になるっていう夢はどうすんだよお前。気魔法が消失しちゃったらなれないじゃん。

 お前の長年の夢を、俺が潰した。俺は一体どうしたら良い? 身体で償えば良い?


「……え。泣いてるの、カズハ……? なんで!? どうしてこんな状況で……!?」


「…………だっでおばえ、気ばほうもう使えねえじ…………。俺のぜいだし…………」


「ちょ、鼻水を私の服で拭かないでよ……!! そんなこと気にしてたの!? 仕方ないじゃないのよ! ああでもしないと助からなかったんだから……!!」


 号泣したままの俺を慰めるかのように慌てて頭を撫でてそう言ってくれるリリィ。

 それが無性に嬉しくて俺はまた涙と鼻水を垂れ流し彼女の服に擦り付けます。


「……あの、気持ちは分かるけど、今は状況を――ひっ!?」


 俺とリリィの間に割って入ろうとした竜姫の胸が目の前にあったので、俺は今度はそこに顔を埋めました。

 リリィの服はもうビショビショだし、ちょうど目の前にふくよかな良い布があったからなんだけど……。


「…………こ、この子は元から、こうなの?」


「……うん。たぶん、そんな気がする……。私の本能が、そうだと告げているわ…………はぁ」


 俺を拒絶することなく竜姫も優しく俺の頭を撫でてくれました。

 リリィとはまた違った良い匂いだけど、ちょっとフェロモン率が高いから年頃の男には嗅がせられない匂いですね。レイさんほどじゃないけれど。


「カズハ。それくらいにしておかないと、お相手が待ってはくれませんよ」


 幼女のピり付いた声が聞こえてきたので、ピタッと泣き止んだ俺は最後の鼻水を竜姫に擦り付けて魔王らに向き直ります。

 よーし、エネルギー充填完了。

 でもこの状況を打破する方法は何も思い付いていません。


「……? ていうか魔獣王だけ居なくね?」


 気を取り直してもう一度奴らに視線を向けると、ようやく違和感に気付きました。

 魔王の間にこれだけの幹部が集まってるってことは四魔将軍会議中だったってことだと思うんだけど――。


 ――まさか・・・


「ケッケッケ! 今頃気付いたか、メスの人間よ! よもやおぬしが『勇者』となって我らが前に立ち塞がるとは思いもせんかったぞい! ケーッケッケッケ!」


「だがしかし、これは好都合・・・ともいえる。我らが最も脅威とみなす『勇者』が帝都から・・・・遠く離れた・・・・・この魔王城まで来ているのだからな」


 不気味に笑う魔屍王と、それに続く魔鳥王の言葉。

 やはり・・・そうだ・・・

 この時期・・で、しかも今、この場に魔獣王ギャバランが・・・・・・・・・居ない理由・・・・・――。

 それは『帝都襲来』以外に考えられない。

 だとすると、デビルロードで出会った鬼翼魔人デーモンの群れのほうもほぼ考察通りの進軍と受け取ったほうが良いだろう。

 つまりは、『竜人族殲滅作戦』。

 魔王は帝都の襲撃と竜人族の殲滅をほぼ同時、もしくは時間差・・・で仕掛けようとしている――。

 それが異質な存在である『俺』に対する『世界』の抵抗か、それとも――。


「と、とにかくもう逃げるしか選択肢が無いアルから、さっさとこの場から退避――っ!?」


 すでに戦意喪失のタオが急に口を噤み、俺達は彼女を振り返った。

 彼女の喉元にはいつの間にか一本の黒剣の刃が向けられていた。


 ――魔人王バラディアス。


 いつの間に俺達の間合いに入っていたのか、ここにいる誰もが気付かなかった。

 まあ俺が泣きじゃくってたからかも知れないんだけども……。


「ふふ……ふははは! さあ、どうする勇者と精霊よ! 降伏するか? それとも数多の年月を費やし戦い続けてきた歴史を踏襲し、血と血を分けた争いを再開するのか!」


 魔王セレニュースト・グランザイム八世が玉座から立ち上がり、その鋭い眼光を俺達に向けた。

 それだけで周囲の空間が圧迫され、俺の仲間達は皆威圧されてしまう。

 絶対的な存在。この世界で最強の生物。全種族の敵。正真正銘のラスボス。


 隙は――見当たらない。

 そもそも魔王の前に魔屍王、魔鳥王。そして背後に魔人王がいる時点で勝ち目などほぼ無いに等しい。

 せめて魔屍王の持つ妖杖だけでも奪えればと考えていたが、それどころか全滅の可能性のほうが遥かに高い。

 リリィも竜姫も丸腰のままだ。どうにか魔人王の剣を弾きタオを救出したとしても、ルルには皆を守ってもらうための防護結界を全力で張り続けてもらわないと、どうやっても耐えられないだろう。

 つまり、現時点で『戦力』として数えられるのは、俺一人。

 そうなれば俺自身の命を燃やしてでも神獣の二人を再び現世に召喚し力を授かり、火の禁術を発動してこの魔王の間ごと崩壊させるくらいしか手は――。


『……王よ』


 そう想いを巡らせていると、魔人王がタオの首元から黒剣を下ろし俺達の前に歩み出ました。

 ? どうしてタオを解放したんだ、この鎧野郎は……?


「き、貴様! せっかくの捕虜を解放するとは何事だ!」


「……良い。申してみよ、バラディアスよ」


 すかさず魔屍王がキンキン声で文句を言ってきました。

 そりゃそうだよな。この状況で人質を解放したって何の得にもならないだろうし……。

 何か策でもあるのか……?


『……この者との一騎打ちを……許可頂きたい』


「……ほう?」


 ゆっくりと俺の前まで歩み出た魔人王はその黒剣の切っ先を俺に向けてそう言いました。

 ……『一騎打ち』?

 え、それって――。


「――陛下。最近のバラディアスの行動には不可解な点が多く、万が一にも――」


「分かっておる。だからこそ見極めたい。あやつは本当に『魔人王たる資格』を有しておるのか、を。……もしも我の見込み違いであったのならば――」


「…………御意」


『…………』


 なんだか分からんけども、どうやら魔王軍側で話がまとまったっぽい。

 もしかしたら内ゲバでもあったのかしら……?

 魔屍王とか特に仲悪そうだし……。

 それだったらラッキーなんだけど。


「……もしかして、本当に魔人王は・・・・・・・……?」


「?」


「……いや、何でもないわ」


 なんかコソっと後ろで竜姫が呟いた気がしたけど、何を言っていたかは聞こえませんでした。

 でもこれは俺らからすると大チャンス。

 俺が魔人王と一騎打ちをしている間にルル達で脱出のための策を練ってもらう時間が出来たわけだし。

 ついでに隙を突いて魔屍王から妖杖を盗む算段を……まあ、それはほぼ無理か。

 盗むのは無理でも最悪破壊くらいはしておきたいんだけどなぁ……。

 あいつがあれを持ってるだけで、色々としんどくなるわけだし。

 それだけ『破理』っていう事象がチートっていうことなんだけどね。


『…………』


 俺の前に立ち塞がり、ゆっくりと黒剣を構える魔人王。

 全身が黒鎧でフルフェイスの黒兜なので、どこを見ているのか全然分からないんだけれど。


 ……? でも確かに何だか、俺が過去に戦った魔人王とは若干違った気配を感じるんだけど……。


 うーん……。気のせいなのかしらこれは……。




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― 新着の感想 ―
[一言] > 最後の鼻水を竜姫に擦り付けて 控えめに言って最低だな?!
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