027 順調に新魔剣の素材を回収していっております。
「よーし。これで一つ目ゲット」
討伐したジザールからクチバシを剥ぎ取った俺は『ジザールの魔聶銀嘴』と表記された素材をアイテムボックスに仕舞い込みます。
ついでだから他の部位の素材も全部回収しておこう。A級魔物の中でも最上級に位置する奴だから結構な金になるだろうし。
「……ルルちゃん。やっぱカズハって本当に化物だったアルのね……」
「いいえ、これはまだ序の口ですよ。タオはまだ完全に思い出していないのかもしれませんが、かつてカズハが犯した所業の数々は歴史に刻まれてもおかしくないレベルのものばかりですから。おもにマイナス面で」
「だから聞こえてます!!! ていうか世紀の犯罪者みたいに言うんじゃねぇっつの!!」
「違うのですか?」
「…………違うと、信じたい、です」
真顔でそう言い切った幼女にか細い声で返答するしかできない俺。
そうやって俺を蔑ろにしてるとそのうちグレちゃうかもしれないぞ!
「とにかく早くこんな部屋からは出たいアルよ……。次は六階に向かえば良いアルよね?」
寒そうに両腕を抱えながらタオがそう言います。
確かにこの部屋だいぶ寒いから彼女の言う通りさっさと撤退しましょうか。
「六階は魔人王の配下のエリアでしたよね。ということはまたあの鬼翼魔人レベルの上級魔物が出没するというわけですね」
「まあそうなるわな。さすがに最上級魔物の四首仙人は四魔将軍エリアの手前くらいまで進まないと遭遇しないとは思うけど」
「出て来ないで良いアル……!!! 余計な戦闘はなるべく避けて慎重に進むアルよ!!」
悲鳴にも近いタオの声を聞き流した俺は、そのまま隠し部屋を出発し六階まで向かうことにしました。
◇
【グランザイム城/六階フロア】
タオの進言どおり慎重に階を上がって行った(出会う敵全員ぶっ飛ばしてやったぜ☆)俺達は、難なく六階フロアまで到着。
そろそろSPを温存しての戦闘もキツくなりつつあるので、八階か九階あたりになったら火魔法か陰魔法のどちらか一方くらいは解放しようかなーと思っていた矢先。
ガシャン、ガシャン、ガシャン――。
「き、来たアルよ……! あれが二つ目の目標アルよね?」
薄暗い通路の先から周囲に響き渡るほどの大きな足音を立ててゆっくりとこちらに向かって来る魔物達。
あいつめちゃくちゃ足が遅いしガチャコンガチャコンうるさいから奇襲されることも無い奴なんだけど、まあとにかく硬いったらありゃしない。
通常攻撃なんか余裕で弾いてくるし、何なら四魔将軍レベルでもダメージを通すのがかなり困難なくらいのレベルの魔物なんですよ。
「階級は上級魔物の能面腐蛇と同じ魔人王直属の配下の魔物。二つ名を《堅牢》というだけあってかなり硬い相手ですね」
「ああ。一体倒すだけでも骨が折れるんだけど、そいつを三体同時に倒さないと隠し扉が開かないっつうんだから、まあこれも達成できる冒険者なんていないだろうな。流石は隠し要素二つ目!」
「何を呑気に言っているアルか! さっさと行くアルよ!!」
「いでっ!? ケツを叩くなケツを!!」
俺の背後から思い切り俺の尻をしばいたタオはそのまま通路の物陰に一目散に隠れました。
あいつ……後でお返しに乳を揉みしだいてやろう。セクハラにはセクハラで返す。
「カズハ。今回は私が行きましょう」
「え? ルルが? マジで?」
尻を擦りつつ勇者の剣を抜こうとしていた俺は意外な提案に素っ頓狂な声を上げました。
まあ確かに物理攻撃が通らない相手だからルルの種類豊富な魔法攻撃のほうが効率が良いのは確かだろうけども……。
「ルルちゃん……! 無理はしないで、ここは化物カズハに任せるほうが良いアル――」
「……『無理』?」
あ。タオが地雷踏んだ。逆にルルにスイッチ入っちゃった。
もうこうなったら幼女は誰にも止められない。
「……ふふ、うふふふふ……。良いでしょう。魔人王配下、上級魔物『紅鎧武者』……! 精霊ルリュセイム・オリンビアの力を示すには申し分無い相手です……!!」
ゴゴゴゴゴ――。
「あー……竜化したー……」
巨大な竜に変貌した幼女はフンスフンスと鼻息荒く紅鎧武者の軍勢に立ち向かっていきます。
『《シャインイクスプロウド》!! 《ダイヤモンドダスト》!! 《竜の炎ーー》!!!』
「あー……なんか爆発したり凍ったり燃えたりしてるー……」
戦略、ゼロ。力こそ、パワー。
脳筋全開で最高威力の魔法とブレスを発動する幼女になす術も無い魔物達。
まあ相性は確かに良いからこれでいいのかも知れないけれど、タオを見てみ?
「(ガクガクプルプル)」
『どんどん来いやーーーー! 《アースバレット》!! 《ウォーターバースト》!!!』
……うん。とりあえずここはルルに任せておこう……。
そのうちに俺はこのフロアの中央にある隠し部屋に行って目的の『紅鎧武者の甲冑昂』を獲得しに行こう。
どうせ三体同時どころか十体同時ぐらい倒しちゃってるんだろうし……。
◇
「おーし、二つ目ゲットー。あとは地下に降りるだけだな」
ルルが暴れているうちに二つ目の素材を無事にゲット。
ここまでは驚くほどに順調。やっぱルルに緊縛掛けなくて正解だったなこれは。
「ちょ、ここにいたアルか! 探したアルよ……!!」
そうこうしているうちにタオが隠し部屋まで到着。
ということはあっちももう終わったってことかな?
「勝手にコッソリ居なくなるって、一体何を考えているアルか!! 他の魔物が出てきたらどうするつもりだったアル!!」
「え、大丈夫っしょ。この隠し部屋までそんなに距離離れてないし」
「そういう問題じゃ無いアル!! ここはもう敵の根城アルよ!? 魔王城アルよ!!?」
部屋に足を踏み込んだタオは俺の服を掴み必死の形相でそう訴えかけます。
そういえばまださっき俺の尻をしばいた仕返しをしてなかったっけ。
ここで乳を揉みしだいたろか。……でも手に噛み付かれそうな勢いだから止めておこう……。
「……ふぅ。良い運動になりました。こちらの首尾も上手く行ったようですね」
「おールル。おつー」
「……この二人と一緒に居たら頭おかしくなりそうアルよ……」
そう言い頭を抱えたタオを尻目に俺は獲得した素材をルルに見せます。
彼女が倒した魔物のほうの素材は……いや、もう全部消滅してそうだから今回はいいや。また戻るの面倒だし。
「後は七階から一階にワープして最後の素材を手に入れるだけですね」
「ああ。まあこの調子だと余裕だな。もっと俺の記憶と変更されてる場所とかあるかと思ったけど」
「そういう話は止めるアルよ……。最後まで気を抜かずにやらないと、一体どういう目に遭うか……」
声を震わせてそう言うタオ。まあ確かに調子に乗り過ぎは良くない。
進めば進むほど敵は強くなっていくし、リリィと竜姫の安否も確認できていないわけだし。
無事に二人を救出できたら二手に分かれるのも視野に入れるべきかもしれないなぁ。
魔屍王のフロアに突撃するのは俺とタオの二人だけにして、ルル、リリィ、竜姫には安全を期して城を脱出してもらうほうがベストかもしれないし。
リリィは禁術を使った代償に気魔法を消失しているし、竜姫だって竜槍を魔王軍に奪われちゃったわけだから戦力半減だろうからね。
ていうか竜槍って城のどこに保管されてるんだろう……。まあやっぱ魔王に献上されてるか。それとも冒険者から奪った財宝とかと一緒に宝物庫にでも入れてあるとか?
ついでにあの槍も奪い返せれば一石二鳥なんだけれど、さすがにそう物事は上手く行かないだろうし……。
「……よっし! ウジウジ考えていても埒が明かない! 慎重、かつ大胆に! 行くぞ、ルル、タオ!」
俺は拳を天に掲げ、無理矢理テンションを上げて七階に向かうことにしました。
シャインイクスプロウド/敵前に凝縮した光が弾け爆発する光魔法。
ダイヤモンドダスト/無数の氷のつぶてが敵を覆い尽くす氷魔法。
アースバレット/凝縮された土の塊を対象に弾き飛ばす土魔法。
ウォーターバースト/圧縮された水を高威力で噴射する水魔法。




