026 隠し要素の上級魔物程度に苦戦なんてしていられません。
【グランザイム城/四階フロア】
『ギャオオ!!』
「おっとあぶなっ」
魔鳥軍の上級魔物の一人、いや一匹?
グランドブリザードホークの吹雪攻撃を避けつつ俺は勇者の剣を真一文字に振り抜きます。
比較的柔らかい胸の中心部を斬り裂くと断末魔の叫びを上げて絶命する魔物。
「カズハ。あの部屋でしょうか?」
同じく上級魔物の一匹であるブレードサンダーバードを木魔法で撃破したルルが一番奥から一つ手前にある部屋を指差しそう口にします。
俺は彼女の問いに首を縦に振り後ろを振り向きます。
タオは……うん。まあどうにか必死に付いてきてる。もうすでに死にそうな顔してるけど。
「はあ、はあ、はぁ……。ど、どうしてこのフロアは化物みたいな怪鳥ばっかり出現してくるアルか……」
「そらここが魔鳥王の配下の魔物やらモンスターが出没しやすいエリアだからだろ。ちなみに次の階は魔屍王の配下モンスターエリアだから気色悪いゾンビみたいなのがいっぱい出てくるよ」
「……もう帰っても良いアルか?」
すでに戦意を消失しているタオは青ざめた表情でそう言いました。
気持ちは分からんでもないけど帰ったら駄目なのは言うまでもないわけで。
面倒クセェからまた無慚モードにしちゃおうかな、このチャイナ娘……。
「扉を開けます。警戒を怠らないで下さいね」
「はーい」
俺がそう返事をするとちょっとだけ怖い目で睨みつけた幼女。
いや、普通に返事をしただけなのに……。ひどくね?
ルルが扉を開くとそこは様々な怪鳥を象った彫刻のようなものが壁一面に並んでいる部屋でした。
あからさまに部屋の中央に宝箱が置いてあるけれど、あれは罠モンスターのデスミミックだから触れたらあかんやつですね。
猛毒のガスを噴射しつつ強力な噛み付き攻撃を仕掛けてきて、避けようとすると宝箱の中から謎の触手が伸びてきて全身を拘束して、しかも痺れ針みたいなのもその触手に仕込んでいるという鬼畜使用のモンスターです。マジで馬鹿。本当に絶滅して欲しい。
「ええと……あ。これだこれ」
俺は宝箱をスルーして壁一面に並ぶ彫刻から一体を選び、大きく開いた口の中に腕を突っ込みました。
そしてその中にあるスイッチを作動させます。
ゴゴゴゴゴ……。
「か、隠し扉が開いたアル……!」
「これで目的の武器素材の一つ目ですね」
チャイナ娘と幼女はそう言い、そのまま隠し扉の先に進もうとします。
しかし直後、二人の表情が硬直しました。
『……我ノ眠リヲ妨ゲル者ハ誰ダ……』
重低音の声ともいえぬ声が周囲に響き渡ります。
部屋の温度が一気に下がったかのような錯覚。いや錯覚じゃなくて本当に温度が下がってるかもしんない。
「カズハ! これは一体……?」
「ななな何アルか!!! このどデカイ魔物は……!!?」
「え? 何って……隠し要素の武器素材を守ってるんだから、隠し要素で出てくるボスだろ。見て分かんないのかよ」
「「聞いてねぇよそんな話!!!!」」
……うん。
二人同時にハモって怒鳴られました。
うーむ。言わなかったけ……。言わなかったような気もする……。
「『魔聶銀鳥ジザール』。魔鳥王の配下の上級魔物の一人だけど、あまりにも気性が荒くてこの隠し扉の中に封印されたんだって。まあ普通はこんな魔物と戦うことなんてないし、俺だって過去にたまたま見つけて暇つぶしに戦っただけだから特に言う必要も今まで無かったわけだから俺は悪くないと思われ」
俺がそう言い訳をしている最中にも全身を鎖で繋がれたジザールはバキバキと音を立ててその鎖を引きちぎっていきます。
確かに隠し要素の一つだけあってかなり強い魔物なんだけど、こいつに苦戦するようじゃどのみち魔屍王にも他の四魔将軍にも勝てないわけで。
「ルル。タオ。下がってて。俺がやるから」
「いいい言われなくても下がるアルよ……! じゃあ後はよろしく頼むアル!!」
コンマ一秒でその場を飛び退いたタオは一目散に部屋から逃げようと目論みます。
しかし部屋の扉は押しても引いてもビクともしない様子です。
「あ、開かないアル……!」
「恐らくあのボスを倒さないとこの部屋から逃げられない仕様になってるみたいですね。……はぁ……。どうしていつもカズハはこういう大事なことを先に言っておいてくれないのでしょうか」
なんか扉のほうで幼女の深い溜息が聞こえた気がするけど、俺はもう剣を抜き戦闘態勢に入っています。
さすがにジザール相手にSPを温存しながら戦うわけにもいかないし、スキルも魔法も駆使して気合入れて戦わないとこっちが危険な目に遭っちゃうだろうし。
「……つまり、遠慮なく行かせてもらうってことっしょ!」
『……!』
相手の鎖の拘束が完全に解かれた瞬間、俺は地面を蹴り跳躍します。
先手必勝。これが勝利の秘訣。
空中で腰に差した勇者の剣の鞘を左手に持ち、構えます。
今はこれしか無いけど、意外に使えるんだよな、こうやって。
「《バーニングソード》!」
無詠唱で火魔法を発動し、鞘に火属性を付加させます。
まああれよ。疑似的な炎の剣ってやつよ。
「《ツーエッジソード》!」
続けざまに二刀流スキルを発動。双方に装備した剣と鞘の攻撃力が更に二倍に膨れ上がる。
そしてそのまま落下のスピードを生かし、ジザールの頭部に向かって急降下。
『クハハハ! 人間如キガ我ニ対シ身動キノ取レナイ空カラノ攻撃トハ! 片腹痛イ――』
「――《弐乗》」
『――ハ?』
一瞬、ピンと張りつめたような空気に部屋全体が包まれ。
その直後に俺は地面に着地し勇者の剣を鞘に仕舞う。
「へ……?」
「? 一体何が起こって――」
ジザールだけではなくルルもタオも目を丸くしたまま、ただ唖然とした表情でこちらを向いています。
うん。まあまあかな。このレベルにしたら。
『貴様、何ヲ呑気ニ我ニ背ヲブケデレヒャ――?』
直後、ジザールの顔面が斜めにズレた。
『……ア? ……ガ……?』
何が起きているのか理解できずといった表情のまま、奴の全身に数十の亀裂が入っていく。
そのうちの半分は綺麗に切断されていて。
残りの半分は焼き斬られたような焦げ臭い匂いが遅れてやってくる。
二刀流の奥義、『弐乗』。
全てのスキル、魔法の効果を二乗する、チート陰魔法。
お陰で今の一瞬で俺のSPはすっからかん。
結局問題はここなんだよなぁ。レベル60台のSPだとスキルや魔法をしっかりと選別して使わないとすぐに枯渇しちゃうから。
昔みたいにウインドウを出現させて無詠唱で魔法ボタンを連打ーとか出来ないし。
無限にSPがあったらもっと楽できるんだけど……。
――とまあ、そんなことを考えていたら。
『グアアアアアアァァァ!!!!』
という劈くようなジザールの断末魔が周囲に響き渡ったわけで。
LV.68 カズハ・アックスプラント
武器:聖者の罪裁剣(攻撃力255)
防具:陰獄獣の軽服(防御力68)
装飾品:炎法師のイヤリング(魔力25)
特殊効果:斬撃強化(特大)、スキル威力強化(特大)、魔法攻撃力強化(特大)、光属性特効、闇属性特効、陰魔法発動時間短縮(大)、SP自動回復量(中)、火属性強化(大)
状態:正常
魔力値:3954
スキル:『ファスト・ブレード(片) LV.19』『スライドカッター(片) LV.45』『アクセルブレード(片) LV.30』『スピンスラッシュ(片) LV.31』『ツインブレイド(二) LV.19』『ブルファイト・アタック(二) LV.19』『センティピード・テイル(二) LV.14』『ダブルインサート(二) LV.10』『エクセル・スラッシュ(二) LV.8』『ツーエッジソード(二) LV.5』
魔法:『力士(陰)』『蛇目(陰)』『塩撒(陰)』『隠密(陰)』『悪夢(陰)』『迅速(陰)』『鎖錠(陰)』『封呪(陰)』『奈落(陰)』『緊縛(陰)』『解縛(陰)』『弐乗(陰)』←NEW!『ファイアボール(火)』『ファイアランス(火)』『ファイアエレメンタル(火)』『フレイムガトリング(火)』『フレイムトマホーク(火)』『フレイムバード(火)』『エンゲージブレイズン(火)』『バーニングソード(火)』『ファイアフォックス(火)』『ファイアバースト(火)』『ヘルファイアブレード(火)』『ヘルヴァナルガンド(火)』『ファイアメテオアーク(火)』『ゾディアック・フレイガウェポン(火)』『トレメンダス・ブレイズン(火)』『カグツチ(火)』
得意属性:『火属性☆』『陰属性』
弱点属性:『光属性』『闇属性』
性別:女
体力:3886
総合結果:『正常』




