三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず説明することでした。
……ナニコレ。
得意属性が十二個に、弱点属性がゼロ。
属性の法則はどこに行った……?
「カズハ。『チート』とはなんですか? 私がそのチートなんでしょうか」
「そうだよ! 普通は得意属性も弱点属性も二つずつのルールだろうが! なんでお前だけこんなことになってんだよ! つまりそういうのを『チート』って言うの!」
アレか。やっぱ精霊は神様っていう扱いってことか。
元魔王のセレンですら、ちゃんとこの世界の属性ルールを守ってるっつうのに……。
この理不尽さがホント腹立つんだよ! この世界は!
「ちょっと待つアル……! またレイが固まっちゃったアルよ!」
タオが慌ててレイさんの顔の前で手を振るが、反応なし。
あー、これまた話していないか。
ていうかレイさん……。
俺のことしか考えていなくて、あっさりと俺の仲間になっちゃうからこういうことになるんだよ……。
これを機にもっと慎重になろうね。
もう遅いかもしれないけど……。
「これでカズハも分かっただろう。大昔から他の種族と精霊族の間には、最初からこういった『ハンディキャップ』が設けられていたのだ。しかし精霊族は、それを自身らに与えられた神の力として世間に広め、軍拡を続けてきた。精魔戦争時代に我が魔族以外の種族が何故、精霊軍に味方をし、我らと戦ってきたのか――。その理由のひとつがこれなのだ」
「うわ……。それってアレじゃね? 『神の力に逆らうと良くないことが起こるよー』みたいな感じで、他の種族を騙して味方につけたみたいな感じ?」
「ちょ、カズハ! なにを簡単に騙されているのですか! 精魔戦争だって、魔族が精霊軍に逆らわなければ世界は統一され、平和になっていたのですよ! それを魔族が――」
「もうその話はやめるアルよ! 話の規模が大きすぎて、ついていけないアル!」
発狂したタオは立ち上がり、何故か俺の頭をバシバシと叩いた。
どうして俺を叩くの! 痛いんだけど! 俺、ぜんぜん関係ないんだけど!
「…………はっ! 私としたことが気を失っていたようですわ……って、どうしてカズハ様が頭を叩かれているのでしょうか?」
「見てないで助けてよ、レイさん! タオお母さんが暴走しちゃってるの!」
「誰がお母さんアルか! うがーー!」
余計に発狂しちゃったタオをどうにか止めようとするレイさん。
もうめちゃくちゃなんですけど……。このパーティ……。
誰か、どうにかして下さい……。
「……興が削がれましたね。この話はまた後日、決着を付けるとしましょう」
「ああ。我とて祖先の名誉を穢すことだけは辛抱ならんからな。いずれまた、必ず――」
「もういいっつってんの! 今度その話をしたら、もっと凄い『緊縛』を掛けるぞ……!」
俺にはまだ秘密のスキルとか、いっぱいあるんだからな!
言うことを聞かない子にはお仕置きしちゃうから!
「……もっと凄い……緊縛?」
タオを止める手を休め、俺の言葉に耳を傾けたレイさん。
若干、頬が高揚しているようにも見える……。
「……是非っ!! それを私めに、ガツンと掛けて下さいまし……!!」
「ああーーー! もうこのパーティ、嫌だーーーー!!」
ついに俺が発狂しちゃいました……!
レイさんが来てから、余計おかしくなってきてるぞ……!
もういい加減にしろ!
俺は平和に、まったり暮らしたいだけなの!
そのためだけにお金を貯めてるの!
どうして、こんなに変な方向に進んじゃうの!?
そしてレイさんは俺の耳元ではぁはぁするのは止めなさいっ!!
「はぁ……。まあこれでひとまず、全員の属性と装備の確認は済んだアルね」
深く溜息を吐いたタオは席を立ち、台所に向かった。
そして新しくお茶を淹れ直してくれた。
「ですが、カズハ様。こういう話は最初にしていただきたかったですわ……。今日は二度も驚きましたから……」
ようやく俺から手を放してくれたレイさんは、席に座って大きく息を吐いた。
『二度』とは、言うまでもなくセレンが元魔王だったという件と、ルルが精霊だったという件だ。
もしも今、『俺は本当は男だ』と告白したら、一体どんな反応が返ってくるんだろう……。
ちょっと聞いてみたい気もするけど……。
「確かにルルさんからは、今までも神聖な力を感じていましたけれど、セレンさんのほうはまったく気づきもしませんでしたわ……。先日の魔王城の異変は、つまり……これが原因というわけですね」
「うん。俺がセレンを仲間にしちゃったから、別の魔王が誕生したんだ。それを帝国の調査隊が気付いて王に報告し、勇者誕生を急がせた……」
「精霊であるルルちゃんを捕えたのもカズハ。魔王であるセレンを仲間にしたのもカズハ。何もかもカズハが悪いアル」
「うぐっ……! そうはっきりと言われると何も言い返せない……!」
俺は悔しさいっぱいにテーブルを叩きました。
俺だって、良かれと思ってやったことなのに……!
三周目であまりにも暇だったから……!
「大丈夫ですわ、カズハ様。私も、皆さんも、カズハ様のことをお慕いしているからこそ、こうやって同じ傭兵団として活動しているのですから」
「レイさん……!」
何も知らなかったレイさんがそう言ってくれると、心が軽くなるよ……!
そう、俺は何も悪くない……悪くないんだ!
悪いのはこの世界! 俺をループ地獄に蹴落とした、この世界そのものなんだ……!
「レイ。この馬鹿を甘やかすと、後で絶対に後悔しますよ」
「ああ。その点は同意する。我が主はすぐに調子に乗るからな」
「お前ら……! そういうときだけは、一致団結しやがって……!」
でも、もう良いもん!
レイさんだけでも分かってくれれば、俺は笑っていられるもん!
「しかし、この情報は内部だけに留めておかなければなりませんわね。これからこの傭兵団『インフィニティ・コリドル』は、他国の宰相やギルド本部などと対等に渡り合わなければなりませんから。カズハ様の夢である建国を実現するためにも、世界平和協定で『危険』だと判断されないために色々な根回しが必要だと思いますわ」
「根回しかぁ……。まあ、今回のラクシャディア共和国のクエストをしっかり達成できれば、あの国とのパイプもできるし、何とかなるんじゃね?」
俺がそう答えると、レイさんは首を縦に振ってくれました。
残りの三名は疑いの眼差しを俺に向けているけど……。
でも! 絶対に俺は国を作るから!
そして、そこで家庭菜園をやるんだから!
畑も耕して、美味しい大根とかネギとか沢山作るのが夢なの!
「あ、もうこんな時間アルね。そろそろお昼ご飯にするアルか」
タオの言葉に全員が同意し、俺達は昼飯の準備を始めました。
さあ、ラクシャディアに到着するまで、あと一日とちょっと。
どうやって暇を潰そうかなぁ……。




