025 久しぶりの魔王城は思った以上にモンスターがウジャウジャしています。
「はぁ、はぁ、はぁぁぁ…………。ようやく……到着したアル……」
疲労困憊の御様子のチャイナ娘は膝に両手を突き項垂れながらそう零します。
俺達はあれからデモンブリッジを無事に渡り切り(何度も上級魔物に襲われてタオは橋から落ちかけて死にかけてたけれども)、その先にある深い森を更に超えて。
そして今、眼前には悠然と聳え立つ魔王の城、グランザイム城の城門が現れてきました。
うんうん、懐かしい。ていうかすでにあっちの世界じゃ俺の家なんだけども、ここ。
「思った以上に早く到着できましたね。道中ではかなりの数の上級魔物に出くわしましたが」
「まあ俺も勇者の剣持ってるし、火魔法もコンプリートできてるからなぁ。ルルだって全力で戦えるんだから、そら順調に進むっしょ」
「……ここまで頑張ってきた私だってちゃんと戦力として数えて欲しいアル……」
頭を垂れたまま後ろでのんきに話している俺とルルをジト目で睨みつけてくるタオ。
いやでもタオだって思った以上に役に立ってるよ。たぶん。きっと。
「どうしますか? 城に突入する前に少し休憩を挟みますか?」
「うーん……。本当はすぐにでも門を潜りたいところだけど、タオが万全じゃないと意味が無いからなぁ。まあ枯渇したSPの回復がてら、ちょっとだけそこの門の影で休憩すっか」
「た、助かるアル……」
ルルの提案に乗った俺達は周囲を警戒しつつ巨大な門をぐるりと周り森の手前の視界が確保できる場所に移動しました。
ついでに突入後の作戦のおさらいでもしておきましょうかね。
今回の魔王城突入作戦の目的は三つ。
一つ目は城の地下牢に向かい、そこに囚われているであろうリリィと竜姫を救出すること。
二つ目は救出ついでにゼギウスの爺さんに魔剣と同等レベルの片手剣を作ってもらうための貴重な素材を集めること。
そして三つ目は魔屍王の持つ妖杖をタオに盗んでもらうことだ。
この中で確実にこなせるのは二つ目の素材集めだ。
『ジザールの魔聶銀嘴』、『紅鎧武者の甲冑昂』、それと『シャーマタイト黒焔晶』がゼギウス爺さんの所望する超が付くほどの貴重素材らしいんだけど、俺はこれらが手に入る方法をすでに知っている。だからたぶん余裕。
問題なのは一つ目と三つ目。
リリィと竜姫が城の地下牢に囚われているという保証は無いし、魔屍王もこの城に滞在しているという保証も無い。
それに何やら魔王軍の動きも俺の記憶の中にあるものとは別の方向に向かっているみたいだし、ここから先はどうなるのか予測するのも難しくなっている。
まあ相手は『世界』そのものなんだから、そんな簡単に行くわけがないと俺だって思っているし。
たぶん、いやほぼ確実に、魔王も、その配下の四魔将軍も以前より強くなっているはずだ。
昔みたいなチート能力で俺一人だけでどうにかクリアできるっていう状況はとっくの昔に終わってしまった。
だから、俺は仲間を信じ、頼るしかない。
そして俺自身も、もう一度強くならないといけない。
「カズハ。城の内部構造は全て把握していましたよね。どういう順序で攻略していくつもりでしょうか」
「ぜ、全部把握しているアルか……!? ……う、確かに、そんな感じの記憶が私の中にも……?」
驚きつつも頭を押さえて唸り出したチャイナ娘。
もういい加減全部思い出しちゃえよタオ。あんなこととかこんなこととか。
「魔屍王が城にいるとしたら、最上階の魔王の間か同じフロアにある四魔将軍の部屋だろうから、最短でルートを辿るんだったら地下牢に向かう途中の迷路で武器素材を回収して、そのまま地下牢でリリィと竜姫を救出、最後に最上階フロアまで上って四魔将軍エリアに特攻する……がベストかな」
一番最悪なのは、魔王の間に魔屍王がいるパターン。
現時点で魔王と対峙するのは非常にまずいし、そもそも戦闘になって万が一俺が勝っちゃったらこの世界に来た意味がぶっ飛んじゃうし。
魔王は倒さないルート、かつ竜姫&竜人族が生存する世界にしなきゃいけないわけで。
「確か『ジザールの魔聶銀嘴』と『紅鎧武者の甲冑昂』は城の四階と六階で手に入るのでは無かったでしょうか?」
「うん。で、七階の一番奥にある行き止まりの床の壁にあるスイッチを押すと一階の隠し通路にワープするから、その先の落とし穴にわざと落ちて地下一階にいけば『シャーマタイト黒焔晶』が手に入るから、そのまま隠し部屋を左手で壁伝いに抜けていけば地下牢のあるエリアに辿り着く」
「一旦四階まで上がって素材一つ目、六階で二つ目、七階から一階にワープ、落とし穴の先で三つ目、左手壁伝いで……ああもう! あたまが混乱するアル!!」
髪を掻きむしり叫ぶチャイナ娘。
いやいや四階に上がるまででも、ワープゾーンやら抜け道やらで最短ルートを進むんだからもっと複雑なルートになるんですがタオさん。
「道案内はカズハに任せるしかないですね。城内通路はそこまで広くないですから、前衛はカズハ、私が後衛でタオを擁護しながら進みましょう。タオはいつ魔屍王が出現しても良いように妖杖を盗める準備をしておいてください」
「わ、分かったアル……! さすがにもう私も腹を括るアルよ……!!」
そう言い意を決した表情で立ち上がったタオ。
ちょうどSPも全回復したところだし、そろそろ城に突入といきますか。
俺も立ち上がりルルとタオに視線を合わせます。
そして無言で頷いた俺達三人はいざ、魔王城の城門を潜ります。
◇
『ゴエエエェェェ!!』『グオオォォン……!!』
「ひいぇぇえ!! やっぱバケモンだらけアルーーー!! 魔王城やばいとこアルよ!!!」
魔王城一階。入口付近。
突入早々ゴーレム型モンスターやらドラゴン系モンスターに急襲される俺達。
まあそうなるよね。本来であればこの城が物語の最終地点なんだから。
強敵もわんさかいるし、そのうちまた上級魔物もめっちゃ出てくるだろうし。
「あ、タオ。その床、毒ガスの罠が発動するから踏まない方がいいぞ」
シュゴーー。
「言うの遅いアルよ!!! もう踏んじゃったアルーーーー!!!」
「《キュアポイズン》」
床から深緑色の毒ガスが噴射しタオの全身が見えなくなります。
でもほぼ同じタイミングで無詠唱で毒の状態異常回復魔法を唱えたルル。
「大丈夫ですか、タオ?」
「た、助かったアル……。ありがとうアル、ルルちゃん」
タオに手を伸ばし足元に気を付けつつ一旦後方に下がる二人。
俺はそれを見届けた後、眼前に迫るゴーレムとドラゴンに振り向きます。
まず、一振り。
勇者の剣を上段に構えて袈裟斬り。からの右斬り上げ。
そのまま右にステップし、回転して薙ぎ払い。
右足の着地面に力を入れて勇者の剣を逆手に持ち替えてドラゴンの眼球に刺突。
『ウ……ゴゴ………』『ギュワアアァァァ……!!!」
真っ二つになって動かなくなったゴーレムと青の血飛沫を上げ断末魔の叫びと共に朽ちるドラゴン。
俺は剣に付いた血糊を振り飛ばし、通路の奥に視線を凝らします。
うーん、序盤からゴーレムとかドラゴンは飛ばし過ぎやしませんかね、魔王城さん。
なんか嫌な予感がしなくも無いんだけど……。
「す、スキルも魔法も使わずに最強種のモンスターを二体も……」
「え? あー、まあSPを温存するに越したことはないからなぁ」
タオの言葉にそれなりに聞こえる理由を返す俺。
……本当はSP回復薬を火魔法の訓練で使い切っちゃったのが理由なんだけどね。
SPは時間と共に自動回復していくんだけど、通常攻撃だけで倒せるんだったらそっちのほうが省エネできて良いし。
「私は肉弾戦はできませんから、バンバン魔法を使わせてもらいますけど」
「ルルはそうしてくれ。その分俺がSPを節約して戦うから」
そう話しつつ、慎重に迷路を進んで行きます。
まずは目標の四階、隠し扉の先の宝箱に入っている『ジザールの魔聶銀嘴』を目指します。




