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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第十部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(後編)
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018 ようやく勇者の剣を手に入れたからここからガンガン進んで行きます。

 街の中央にある噴水広場に佇む、一際目立つ精霊像。

 ゼノライト鉱石で作られたその銅像は、この最果ての街の象徴ともいえる代物だ。

 製作者は不明。

 世界で最も硬いと言われているゼノライト鉱石を加工できる技術を古代の人間族が持っていた可能性は低く、どういう経緯でこれが街に持ち込まれ守護像として崇められてきたのかも定かではない。


「ルルってさぁ、あの精霊の丘に何百年もずっと住んでいたわけじゃないんだろ?」


「当たり前じゃないですか。こんな魔王城にほど近い場所にずっと住んでいたら、とっくに魔王に見つかって殺されています」


 勇者の儀式の準備を始めているルルはちょっと半ギレでそう答えました。

 俺はその準備が終わるまで暇だから大道芸を始めてたらいつの間にか周囲に人が集まってきちゃって困ってるんだけども。


「この街が出来るまでは帝国の歴代帝王の協力もあり、各地に身を隠していました。初代勇者オルガンの実家に匿ってもらったこともありましたし、四代目勇者ルーディウスに至っては持てる私財をすべて私につぎ込んでくれて、衣食住を含んだ全ての生活の面倒まで見てもらいましたから」


「もうそれただのヒモじゃねぇかよ……。四代目勇者さんよ……」


「勇者は精霊の面倒を見る義務があるのですよ。帝国法でも定められていますし」


「マジで!!? 今、初めて知ったよそんな法律!!!」


「私も初めて言いましたから」


「……コホン。カズハ殿。帝国にそのような法律は制定されておりませぬ」


「無ぇのかよ!!! 騙すんじゃねぇよ、このクソ精霊っ!!!」


「騙されるほうが悪いのです。……よし。準備はこれぐらいで良いでしょうか」


 そう言い俺を軽くあしらったルルは立ち上がり周囲に視線を向けました。

 精霊像を中心として巨大な魔法陣が描かれているのが見えますね。

 あー、懐かしい。この感じ。

 初めて勇者の儀式をやって勇者の剣を手にした時のことを思い出すなぁ……。


「……どうしてこんなに人が集まっているのでしょうか」


「あ、悪い悪い。ルルの準備が遅いから暇すぎて大道芸やってた。グラハムの背中に飛び乗ってからの宙返りとか、タオの投げるクナイを口で受け止めたりとか」


 ルルは精霊像と描いた魔法陣に魔力を込めるのに集中してたから気付かなかったんだろうけど……。


「も、申し訳御座いません、ルル様! カズハ殿が暇だからどうしてもやりたいと仰るものですから……」


「私だって無理矢理付き合わされただけアルよ……! だからそんな怖い顔をしないで欲しいアル……!!」


 完全に怯えた表情でそう言うタオ。

 ルルの竜化でよっぽどトラウマを植え付けられたのでしょうか……。可哀想なチャイナ娘……。


「おうおう、やってるな。店の常連が噴水広場で何か面白いことやってる奴らがいるっつうから来てみたけどよ。やっぱお前らだったか」


「あらあら、タオちゃん。昨日から姿を見ないと思っていたら、こんなところで遊んでいたのですね」


「親父! ニオ姉まで!」


 広場に集まった野次馬軍団の中から聞き覚えのある声を聞き、そっちを振り向く俺。

 そこには道玄の親父さんとタオの姉のニオの姿が確認できます。


「親父さん、朝の仕込みはもう終わったの?」


「いいや、今日は休業するぜ。なにせ久しぶりの勇者誕生の儀式だからな。街の連中にも昨日のうちに宣伝しておいたから、これからまだまだ人が増えると思うぜ」


「……勇者の儀式は見世物では無いはずですが」


「かっかっか! まあそう怖い顔をするんじゃねぇよ、精霊の嬢ちゃん。まあ、その……なんだ。昨日はちょいとばかし俺も言い過ぎちまったからな。嬢ちゃんがへそを曲げて勇者の儀式をやらねぇとか言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしちまってよ」


「ふふ。それでお父さんたら常連さんにも頼み込んで、皆で勇者誕生を盛り上げようって言いだして……。店を休むなんて滅多にしない人だから、よっぽど反省したみたいね」


「う、うるせぇニオ! 余計なことを言うんじゃねぇ!」


 そう言いハゲ頭まで真っ赤に染まった道玄。

 ……ていうか、俺が大道芸をやったから人が集まってきたわけじゃ無かったんですね……。

 なんかショック!!


「……はぁ。まあ良いでしょう。確かにこの国の、世界の命運を分ける大切な儀式ですからね」


 そう軽くため息交じりに言ったルルは精霊像を見上げました。

 祈りを捧げた姿の精霊像は幼女のルルよりも遥かに美人だし、そもそも幼女の姿じゃありません。

 なんか若干ボインだし、ルルとは似ても似つかないよなぁ。口が裂けてもそんなことは言わないけど。


「では、カズハ。こちらに」


「はーい」


 俺はルルの指示に従い魔法陣の中央まで歩いて行きます。

 親父さんの言う通り、なんやかんやで街の住人がさらにどんどん集まって来ているのが分かりますね。

 まあ元々そんなに大きな街じゃないから、全員集まったってたかが知れているんだけれども。


「ついに、カズハ殿が正式な勇者になられるのですな……!」


「……本当に大丈夫アルか? 過去に散々周囲を振り回してきた子アルよね、あのカズハっていう子は……」


「聞こえてんだけどタオ。そして俺はこれからも散々お前を振り回します。ニヤニヤ」


「や、やっぱあいつを勇者にしたら駄目アル……!! 絶対に不幸になるアルよ!!!」


 俺の背後で奇声を上げて騒ぎ出すチャイナ娘。

 神聖な儀式なんだからもっと厳粛に見守りなさい。まったくもう……。


 巨大な魔法陣の中心にたどり着いた俺は、何も言わずに片膝を突き頭を垂れて両目を閉じます。

 そして意識を集中し、ルルの流した魔力と協調するように自身の体表面に纏った光と闇の因子にその魔力を流し込んでいきます。


「ふふ、覚えている・・・・・のですね。なんだか分からないですけれど、嬉しくなってしまいます」


 俺の横に立ち、俺の頭に手を翳したルルは俺にだけ聞こえるように小声でそう呟きました。


「当たり前だろ。でもまあ、一周目以来だから久しぶりっちゃあ久しぶりの感覚なんだけど」


 皮膚がピリピリと軽い痛みを感じ、次にピンと張りつめたような刺すような痛みが右のこめかみ辺りに到達します。

 初めてこの痛みを受けたときには眩暈がしたけれど、事前に分かっていればそう大した痛みじゃないし。

 右のこめかみの痛みが左に移動し、まだ肩を伝って下に流れて、今度は全身がぬるま湯に浸かったような微かな温かさに包まれていきます。

 それを見守っていたルルは俺の頭に翳していた手を離し、一歩だけ後ろに下がりました。


「す、すげぇ……。あの嬢ちゃん、本当に、本物の精霊だったんだな……」


「(親父! さすがにここは私語を慎むアルよ……!)」


「(す、すまねぇ、つい……)」


 タオに注意をされて口を閉じる親父さんにちゃちゃを入れたいけれど、流石に今やったらマズイ……。

 あーくそ! 突っ込みたいときに突っ込めないことがこんなにも辛いなんて!!


『――汝、カズハ・アックスプラントを、勇者として認める』


 まるで脳波で送られてきたかのようなルルの声が噴水広場に響き渡ります。

 その瞬間、俺の全身が眩い光に包まれ俺は目を開き、中空に視線を上げました。

 そこには氷の結晶のようなものが徐々に集約し、一本の剣の形を象っていきます。

 さすがにこれには野次馬達も感嘆の声を漏らしました。


『――受け取るが良い。勇者たる証。《聖者の罪裁剣エンジェルスブレイマー》を――』


 パリン、という劈くような音が周囲に響き渡り、具現化した勇者の剣がゆっくりと俺の元に降りてきます。

 立ち上がりそれを受け取った俺は高々と剣を掲げて見せます。

 直後、うおおお! という地鳴りのような大歓声が噴水広場に響き渡りました。


「「「勇者誕生、万歳!! カズハ・アックスプラント様、万歳!!!」」」


「うおぉっし!! 今日は記念すべき勇者誕生のめでたい日だ!! おめぇら全員、今日だけうちの飯はタダで良いぜ!!」


「「「うおおおぉぉぉーーーーーーーーー!!!!」」」


 道玄さんが叫ぶと、観衆は一斉に歓喜の声を上げました。

 ……いやいやいや。俺が勇者になった瞬間の歓声より声が一段と大きいってどうゆうことなのよ……。


「大変ですカズハ! すぐに道道飯店に向かいましょう!」


「行かねぇよ! 俺ら散々食っただろう昨日!」


「知っていますよ!! カズハが私に内緒で朝から道道飯店のチャーハンを食べていたのを!!」


「げっ」


 ルルにそう詰め寄られ、つい目を逸らしてしまう俺。

 ていうか起きなかったお前が悪いんだろうが! 俺はちゃんと起こしましたー。


「ルル様。お気持ちは分かりますが、勇者の儀式を終えた今、我らは一刻も早く魔王城に向かわねばなりませぬ。もう出発の準備は整っておりますゆえ――」


「ルルちゃん! いくらでも作ってあげるから今から私と一緒に店に行こうアル!!」


「タオ!! お前は魔王城に行きたくないだけだろうが!!! 行くぞ! さっさと!!」


「あ、ちょっと、服を掴むなアル……! だから、私はあんた達と一緒に行くなんてまだ――」


「グラハム! 幼女を頼む!」


「か、かしこまりました……!!」


 俺の指示を聞き、グラハムは駄々をこねているルルを慌てて抱っこします。

 もう十分この街で英気を養ったんだから、さっさと竜姫とリリィを助けに行くんだよ!



「……私の、チャーハン……」


「嫌アルーーー!! 離すアルーーーーーーーーー!!!」



 しょぼくれる幼女と暴れるチャイナ娘。

 

 

 そんな二人を抱えながら、俺達はいざ魔王城へと向かいます。




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[一言] 食べ物の恨みは恐ろしいからな
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