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三周目の異世界で思い付いたのはとりあえず裸になることでした。  作者: 木原ゆう
第十部 カズハ・アックスプラントと竜人族の姫(後編)
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010 ブラック企業の社畜代表とされる勇者とかいう職業、本気でやりたい人なんていないよね。

 ――『精霊王の聖杯』。


 神器アーティファクトの一つであり、元は精霊王が所持していた精霊族の至宝。

 精魔戦争が終結し絶滅の危機に晒された精霊族らは、王の遺体と聖杯を棺に入れ地中深くに隠したとされている。

 それから数千年の年月が経ち、世界には新たな種族である人間族が誕生し。

 瞬く間に繁殖していった彼らは村から街、そして国を築き、魔族も無視が出来ないほどの勢力を得ることとなっていった。


 人間族の勢力拡大のきっかけとなったのが、ラクシャディア共和国(旧デカント地帯)の地下道で発見された強固な素材で作られたこの棺であり、棺の中を確認した人間族はこの精霊の遺体を『神』であると確信した。

 そして、その信仰心を利用した精霊族の生き残りが徳の高い人間を集め『アムゼリア教』が誕生することとなる。


 アムゼリア教の発祥の地であるデカント地帯には巨大な教会が建築され。

 そしてその教会を中心に人が集まり、村から街へと発展し。

 やがてそこは一つの国となり『ラクシャディア共和国』が誕生することとなった。


 共和国の初代宰相は国中の魔導士を集め、地下遺跡の入り口に強力な結界を張り。

 そして、地下道の地上部分にはかつての文献を一同に集めた古代図書館を建築させたのだった。


 今現在も、古代図書館の地下遺跡には精霊王の遺体と共に『聖杯』が眠っているとされている。




「…………じゃなくて! そんな説明どうでもいいの!!」


 俺は誰もいない空間に向けて一人で突っ込みの言葉を吐きます。

 大事なのはそこじゃないの!

 精霊王の聖杯をルルに渡すことが、勇者の剣を得るための交換条件……?

 そんなことできるわけないでしょうが!!

 あの棺を開けたら精霊王が復活しちゃうじゃん!

 そしたら『竜王ルート』じゃなくて『精霊王ルート』とかに変わっちゃうかもしれないじゃん!!

 ムリムリ、絶対にムリ!!!

 やり直しが効かない世界なんだから、こうやって慎重に慎重を重ねてストーリーを進めてるっていうのに!!

 どうしてみんなそんな馬鹿なことを平然と言い出すの!!!


「……カズハ殿。何だか分かりませんが、駄目っていうことだけは伝わってきましたぞ。その表情だけで」


 俺の心の叫びが聞こえたのか知らんけど、グラハムが俺の肩をぽんっと叩いてそう言いました。

 ええい、触るな! 俺いまめっちゃイライラしてるんだから!!


「……できませんか? 貴女なら、いくらでも方法があるのでしょう?」


「できません!! ていうかやりません!!! これまでの俺の頑張りが水の泡になっちゃうかもしれないじゃんかよ!!!」


「そもそも、その『竜王ルート』というのが正しいと、どうして確信できるのですか?」


「……え? ええと……それは……」


 ルルにそう言われ、俺はちょっとだけ言葉を濁します。

 ……いやいやいや。そんなこと今更言われても、もう引き返せないし……。

 魔王を倒しちゃったらセレンが死ぬし、俺が死んだら三周目の世界は崩壊するし。

 竜王と竜姫が生き残る世界線に変えちゃえば後はどうにかなるかなーって……。

 …………うん。


「相手は『世界』そのものなのでしょう? そんな想像も付かないような強大なものを相手にしておいて、貴女は強さが再びレベル1に戻ってしまった――。魔屍王にすら殺されかけて苦戦するような貴女が、どうやってこの先『世界』に打ち勝とうというのでしょう?」


「…………」


 …………うん。

 幼女に完全論破されて何も言い返せません。

 正直、過去の俺に比べたら今の俺の強さなんかハナクソよりも更に下のほうだろうし……。

 ……自分で言うのも何なんだけど。


「『精霊王の聖杯』が私の手元に戻れば、私は精霊の力を最大限発揮できるようになるでしょう。貴女が懸念しているように、精霊王の亡霊が復活してしまう可能性はゼロではありませんが、ここはまだ貴女にとっての一周目の世界・・・・・・――。精霊王が復活するのは三周目の世界のはずですから、恐らく棺を開けたとしても彼は現世に復活することは無いでしょう」


「……絶対に?」


「……恐らく、と言ったはずですが」


「うーん……。うーーーーーーん…………」


 幼女に詰め寄られ俺は腕を組んで悩みます。

 ルルの言う通り、あの棺を開けても奴が復活しなかったとして……。

 でも今から共和国に渡って首都に向かって、古代図書館の隠し扉から地下遺跡に向かってたら竜姫やリリィを救い出すのが相当遅くなっちゃうし……。

 あの地下道って強力な結界もあれば封印の間の先にはクソ強いヒドラとかもいるし……。

 今の俺のレベルでもギリ倒せるかどうかくらいの強さだからな、あの巨大モンスター。


「今この時点でラクシャディア共和国にいて、それなりに強くて、できれば人数もある程度いて、尚且つ国相手に喧嘩を吹っ掛ける覚悟もあって、仕事に見合った報酬さえ渡せば奪った『精霊王の聖杯』を横流ししてくれるような頭ぶっ飛んだ奴……。…………。……………あ」


 思い当たる奴がいるには、いる……。

 えー、でもあいつに頼むの? てか引き受けてくれそうな奴は他にいないし……。うーむ……。


「何か良い案が浮かんだのですか、カズハ殿? 今の我らが最優先で行うべきは捕虜の奪還。ルル様の言い分も分からなくは無いですが、魔王城に捕らわれている竜姫やリリィを救うことが先決のはず」


「うん。でもそのためにはさすがに『勇者の剣』が貰えないとキビシイのも事実。なあ、ルル。ここはちょっと交渉させてくれない?」


「……『交渉』、とは? 私はもう貴女に交渉を持ち掛けておりますが」


 ジト目を俺に向けてそう言う幼女。

 さっきまでおバカ精霊幼女だったのに、なんか急に形勢逆転されているような……。

 でも我慢。ここでルルのご機嫌を損ねちゃったら勇者の剣を貰えなくなるかもしれないし、それまでは低姿勢を貫く。


「『精霊王の聖杯』は必ず手に入れてお前に渡す。だからそれまでレンタルさせて」


「……レンタル?」


「うん。勇者の剣のレンタル」


「…………」

「…………」


 ……黙るな、二人とも。

 レンタルだったらええやろ!! 正式に貰うのは精霊王の聖杯と交換ってことでも!!

 それぐらいの福利厚生制度が無いと、超絶ブラック社員の勇者なんて職業、誰もやらないぞ!!!


「……貴女は勇者と精霊の契約を何だと思っているのですか?」


「足元見られた冒険者が社畜企業に無理矢理斡旋されて強制的に契約書にハンコを押させられる儀式」


「…………」


「か、カズハ殿! 表現! 言い回し! ルル様の顔!!」


 あ。つい本音がポロリしちゃった。

 でも大体間違えてないだろ。この異世界、あたまおかしいことばっかりだから。


「……ふぅ。良いでしょう。貴女のその性格や言動は私の記憶の中にあるものと同一ですから。しかし、私と『仮契約』を交わすとして、精霊王の聖杯をどうやって持ち去るのでしょうか? あの厳重な警備を掻い潜ることができる者など限られていると思いますが」


「そ、そうですぞ! それに共和国を敵に回してしまうと、国際問題に発展しかねないですし、我ら帝国としての立場も非常に危うくなります……! 魔王軍の動きも活発化している今、主要六カ国の中でのいざこざは敵に利を与えてしまう結果にも――」


「闇ブローカー使う」


「え?」「……は?」


 俺の一言で固まってしまう二人。

 うん。いやだってこれしか思い付かないし。


 だから俺は胸を張ってこう続けたのでした。



「共和国最大の闇ブローカー組織、『瑠燕リュウヤン』の一味に精霊王の聖杯を・・・・・・・盗ませる・・・・。連絡の窓口は、元闇ブローカーの一員だった『道玄タオクワン一家』の主――つまりタオの親父さん・・・・・・・に頼むしかないかな」




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